強さ正しさの模倣 03

前方を歩く爆豪の1歩半程後ろを逹紀は歩く。以前後ろを歩けとキレられた事があるからだ。今日の朝電車が被っていたので、目的地は同じだ。着いてくるなと言われないので、逹紀はそのまま爆豪の後ろを付いて行った。お互い無言で玄関まで歩き、靴を履き替えて校舎を出る。玄関から校門までの道のりで、爆豪がやっと口を開いた。

「・・・お前、アイツに何もされてねェだろうな?」

逹紀は少し前を行く爆豪の背中をまじまじと見た。今のは、本当に爆豪が発した言葉だろうか。聞き間違いでなければ心配しているように聞こえた。だが逹紀の常人より鋭い聴覚は、それが目の前の人物から発された言葉だと証明していた。答えない逹紀に業を煮やしたのか、自分の発言に嫌気が指したのか、爆豪は「聞いてんのか猫女ァ!!」と物凄い形相で逹紀に振り向いて吠える。

「な、何もされてないよ!ただ、・・・」

逹紀は慌てて否定したが、心操の行動が逹紀の理解を超えるものだったので、それが普通なのかどうか分からなかったのだ。男の子はどういう気持ちであんな事をするのだろうか、と爆豪に聞いてみたくなった。歯切れの良くない逹紀が爆豪をチラリと見たので、爆豪はまたイラッとした様子で食ってかかった。

「何だっつーんだ。言いたい事あんならハッキリしろや」
「・・・男の子って、どういう気持ちで他人にくっ付いたりするの?」

同年代の爆豪に聞けば分かるかもしれないと、逹紀は思ったままを口に出す。こういう所が逹紀が無防備である所以なのだが、本人には全く悪気は無かった。爆豪は一瞬理解が出来なかったのか、眉間のシワはそのままに、呆気にとられた表情をした。逹紀はそれを、自分の説明が足りなかったのだと思い、心操にされた事をそのまま爆豪に実践した。

「こう、片手を掴んで、もう片方で自分の方に引き寄せるんだけど、」

ポケットに入れられた爆豪の手首を掴み、自分の方へ引き寄せ、もう片方の手で爆豪の肩を掴んで引き寄せる。心操より身長差が無いので、逹紀の顔は爆豪の肩口の辺りに来る。それでも密着している事には変わりない。逹紀の顔が爆豪の肩に触れそうになった時、バッと爆豪が身を引いた。その拍子に掴んでいた手も解かれ、逹紀は前につんのめりそうになった。

「テメェ・・・本気で言ってんのか・・・」

やばい、また怒らせたかと逹紀は慌てて顔を上げた。だが思ったより爆豪の顔は怒りに染まっていなかった。逹紀に掴まれた方の手を顔の前にかざして、逹紀を睨んでいた。心なしか爆豪の耳が赤いような気がして、逹紀はもしかして自分はやらかしてしまったのかと恥ずかしくなった。

「爆豪くん、ご」
「ンなもんテメェで考えろや!!!」

ごめん、と謝ろうとした逹紀を遮って、爆豪が勢いよく怒鳴った。おまけに掌での爆破付きだ。不意打ちの大音量に、逹紀は耳がキーンとするのを感じ、思わず座り込む。だが爆豪はそんな逹紀を無視して、ズンズンと駅の方へと歩いて行ってしまった。耳鳴りが止むのを待って立ち上がると、爆豪の姿はもう見えなかった。先に帰ってしまったようだ。逹紀も訳も分からず疲れた体を引きずって帰宅する事にした。理解出来ない事だらけだが、また誰かに聞いてややこしくなるのは御免なので、もう忘れようと心に決めた。



それから体育祭までの二週間は、USJ襲撃で課題となった、個性の持続時間延長の為のトレーニングに費やした。度々オールマイトに相談に乗ってもらい、朝も放課後もトレーニング漬けの日々だったので、あっという間だった。
心操とも爆豪とも、あの日から特に話す事もなく、逹紀もトレーニングで頭がいっぱいだったので、忘れかけていた。



そして、体育祭当日。
控え室で1-Aの面々が待機していた。他の科との公平を期す為、全員体操服での参加だ。だが靴だけは自由な為、何人かはコスチュームの靴を着用していた。逹紀はそもそもコスチュームだと素足に近いので、両手両足にサポーターを着用してスニーカーを履いていた。体操服のジャージの下はいつもトレーニングの時に着ているスポーツインナーを着用していた。

控え室では轟が緑谷に宣戦布告をしたり、爆豪が選手宣誓をして他クラスからブーイングを受けたり競技開始前から何かと物々しい始まりだった。ちなみに逹紀も入試の実技試験では一位だったが、筆記試験で爆豪には及ばなかった為、選手宣誓は爆豪が行う事になった。

選手宣誓が終わるとすぐに第一種目が発表される。第一種目は障害物競走だ。スタジアムの外周約4kmのコースの、何をしても構わないチキンレースだ。全11クラスが一斉にスタートする為、最初のスタートが肝心だと逹紀は周りを観察する。人で溢れかえるスタート地点を見て、入試の時のように上手くはいきそうに無いな、と逹紀はチーターに変化してスタート位置に着いた。そして、スタートと同時に勢い良く地面を蹴りーー跳躍した。

コースさえ守れば何をしても良い、という事はコースアウトしなければ何処を通っても良い筈だ。逹紀は人がひしめく通路の上のスタートランプの上を通り、人の肩を足場にピョンピョンと頭上を超えていく。何人かの生徒を足蹴にしてしまったが、他人を蹴落として行かなければ上位には食い込めない。これも勝ち上がる為の手段だった。

そうして抜けたスタートゲートの先は、まだほとんど人が居なかった。ようやく地面に足をつける事が出来る、と思ったが先頭を走る轟が氷結の"個性"を発動し地面を凍らせる。まだ凍っていない地面に一度だけ着地し、再び跳躍する。氷結に巻き込まれずに済んだが、他のクラスの面々は多くが轟の氷結に巻き込まれて身動きが取れなくなっていた。

一つ目の障害物は、ロボ・インフェルノだ。入試の時の仮想敵がわんさか配置されていた。入試の時は倒す事が目的だったが、今はただの障害だ。わざわざ倒す必要はない為、逹紀は避けてさっさと突破する事にした。それにしても地上は生徒とロボでひしめいており、なかなか突破口が見つかりそうにない。やはりここでも上から行くか、と0P敵の腕に飛び乗り、勢い良く登っていく。

『1-A地井!道が無いなら自分で切り拓くってかぁ!?勢い良く0P敵のアーム部分を登って行くぞ!イイネ好きだぜそーゆーの!!』

プレゼントマイクの実況が恥ずかしいやら有難いやら複雑だったが、ともかくこれで第一関門は突破出来た。てっぺんまで登り切り、適当なパーツ部分を足場にして何回かに分けて下って行く。後ろからは同じように上から突破する爆豪や瀬呂、常闇が続いている。抜かれないようにすぐに逹紀も走り出した。

第二関門は、下が崖になっている大小さまざまな足場を数本のロープで結んだ、ザ・フォール。ネーミングセンスそのままだ。足場と足場の間も大小さまざまで、小さい隙間なら逹紀でも跳べそうだった。最短距離とは行かないが、ロープを渡るよりは時間が短縮できそうだった。トップの轟とは離されてしまうが、それが逹紀の最善だった。

そうして轟がトップのまま迎えた最終関門は、一面地雷原の怒りのアフガンだ。
第二関門で爆豪をはじめ何人かに抜かれてしまったので、ここで少しでも順位を上げておきたい逹紀は、いつも以上に精神を集中させる。地雷の位置は匂いでなんとなく分かるが、何せ数が多すぎる。よく見れば地雷の位置はうっすらと視認できるので、視覚と嗅覚をフルに活用して進むしかなかった。

だが、これには流石に轟の"個性"を持ってしても地道に避けるしか手が無いようだ。地面を凍らせてしまえば一瞬だったが、後続に迫る生徒に道を作ってしまう恐れがあるので、なるべく使わないに越したことはない。轟のすぐ後ろまで迫った逹紀が轟を追い越そうとした時、後ろから爆音が響いた。

「てめェ宣戦布告する相手を間違えてんじゃねえよ!!」

爆豪だ。ついに轟に追いつき、逹紀の目の前でお互いの妨害をし始めた。ここで逹紀が抜いてしまっても良かったが、まだ地雷地帯を抜けていないので、2人を抜いたとして地雷を避けるのに手間取れば容赦なく妨害をされるだろう。まずはこの地雷地帯を抜けるまでは2人のすぐ後ろをキープし、地雷地帯を抜けたら速攻で抜き去ろうと考えていた。だが、さらに後方で起きた大爆発に乗って飛んできた緑谷によって、全てがひっくり返されることになる。