強さ正しさの模倣 04
『A組 緑谷、爆発で猛追ーー・・・っつーか!!抜いたあああああーー!!!』プレゼントマイクの実況が響き渡る。上位グループの頭上を高く超え、逹紀や轟、爆豪よりも頭ひとつ分出た緑谷が居た。だがすぐに爆豪が反応し、緑谷を爆破しようと前へ出る。轟も、後続の事など気にしていられないようで、前方の足場を凍らせて緑谷を追う。だが、逹紀は未だ緑谷の出方を伺っていた。逹紀は緑谷が最初の戦闘訓練で垣間見せた、作戦を立てる時の頭の回転の速さを評価していたからだ。まだ何か打って出る手があるかもしれない、と距離を置いた。
あっさり轟と爆豪に抜かれるかと思われたが、緑谷は手に持っていた装甲を地面に叩きつけ、わざと地雷を爆破させた。その爆破で爆豪と轟には妨害を、自身は爆破の勢いを活かして前へと更に進む事に成功した。自分へのダメージが大きい緑谷の"個性"を使う事なく第一種目を通過したのは見事だった。そして緑谷が手に持っていた装甲を捨て、爆破で轟と爆豪が怯んでいる隙に、その2人の間をぬって逹紀は跳躍する。残るは直線ーー逹紀が最も得意とするコースだ。障害は無い。あとはただ走るだけ。
「・・・ッ地井!?」
「クソッ猫女ァァ!!!」
後ろで轟と爆豪の声が聞こえるが逹紀は気にせず走り抜ける。前を走る緑谷の背中目掛けて。逹紀は最後の妨害を仕掛けようと、緑谷の背中に飛びかかる。だが、逹紀が緑谷を押し倒すのと緑谷がゴールゲートを通るのはほぼ同時だった。
「ぶへっっ!!!」
『おっとォ〜?これはどっちが先だ!?ビデオ判定カモーーン!』
スタジアム内は観客の熱狂と興奮がピークだった。逹紀は全力疾走した後の息を整えながら、下敷きにしてしまった緑谷の上から足を下ろし、横にずれる。緑谷はすぐに起き上がったが、その鼻の頭は赤くなっている。頭から思いっきり行った緑谷にさすがに申し訳無く思い、声をかける。
「緑谷くん、ごめん。顔打ったよね?」
「地井さん!!?いいいいや、だだだ大丈夫大丈夫!!」
顔を真っ赤にして頭をブンブン振る緑谷。逹紀はチーター姿のまま鼻をスンと緑谷に近付ける。顔が赤いがやっぱり打ち所が悪かったのでは、と心配するが、スタジアム内にプレゼントマイクの声が鳴り響いた。
『ビデオ判定の結果が出たぜ!第一種目を制したのは!
緑谷出久だ!!!!』
スタジアムのモニターに、緑谷と逹紀がゴールする瞬間の映像が映し出される。逹紀が押し倒した際に緑谷の頭がゴールゲートを越えていた。
「緑谷くん、一位おめでと。最後の凄かったよ。」
「いやあ!そそそそんな!」
謙遜しながらも、緑谷の目には涙が浮かんでいた。そして緑谷は息を整えながらスタジアム内を見渡し、ある一点を見てガッツポーズをする。逹紀が不思議に思いその視線の先を辿ると、そこにはオールマイトがいた。やはりこの2人には何かがあるようだ。現在体育祭を観戦しているオールマイトはトゥルーフォームである。そもそもオールマイトのトゥルーフォームを知っている事も異例なのだ。USJ襲撃の時は自分がいっぱいいっぱいで気が付かなかったが、よく考えてみればオールマイトの危機を察知し、自分の無理を押して敵に向かって行ったのも、オールマイトの秘密を知っていたからなのかも知れない。だが、彼を問い詰めるのはここでは人目がありすぎた。それに、オールマイトに聞いてからでも遅くは無いだろう。逹紀はオールマイトと緑谷から目を逸らし、続々とゴールする後続の面々を眺めていた。
全員がゴールし、順位がモニターに映し出される。逹紀は2位だ。予選通過者は42名。A組は全員勝ち進むことができたようだった。そしてすぐにミッドナイトから第二種目が発表される。第二種目は騎馬戦だ。参加者は2〜4人のチームを組んで騎馬を作り、お互いの騎馬の合計ポイントを奪い合うというルールだ。与えられるポイントは下から5Pずつ加算されるが、一位だけは1000万ポイントと段違いのポイントだった。生徒が一斉に緑谷に注目する。当の緑谷は目を見開いて顔面蒼白、冷や汗をダラダラかいて悲惨な様子だった。それもそのはずで、実質1000万ポイントの奪い合いとなるのは目に見えているからだ。
ルール説明が終わり、15分のチーム決めの交渉タイムへと入る。逹紀も、"個性"がある程度分かっているA組の者と組もうかと思っていたので声を掛けようとしたが、それより先に誰かから話しかけられた。
「地井さん、俺と組まない?」
「あ、心操く・・・ん・・・」
ーー逹紀の記憶は一旦そこでプツリと途切れる。
交渉タイムが始まった途端、爆豪の周りには人だかりが出来ていた。爆豪は性格はともかく、"個性"の汎用性は高く、さらにメンタルもフィジカルも強い。こういったチームプレーでの勝負事で人気が高いのも頷ける。だが話しかけられたほとんどの者の"個性"を把握しておらず、全く他人に興味が無い事が伺えた。騎手をやる爆豪の爆破に耐えられるのは、硬化する事が出来る切島しか居ないという事で、前騎馬は切島に決まった。轟のチームは前騎馬が飯田で、機動性も加味しているようだ。そこに対抗するには、爆豪のチームもスピードがある者を入れたいという話になった。
「スピードといやぁ、間違いなく地井だろ。」
「あ?猫女か。・・・あいつ何処だ。」
先程は同じクラスの者の"個性"を把握しておらず、切島に関しても名前すら危うい様子だったのに、逹紀の事は名前と"個性"両方を把握しているらしい。爆豪の発言を聞いて切島は思うところがあるように爆豪を見たが、今は時間制限のある競技中である為、その疑問はそっと己の胸にしまった。
爆豪はキョロキョロと周りを見渡し、逹紀を見つけるとズンズンと歩いていく。いきなり隣から居なくなった爆豪を、切島も慌てて追いかける。
「おい!猫女!」
ある程度の距離まで近付き声を掛けるが、逹紀は気付いていないようで爆豪の方を見向きもしない。逹紀の聴覚なら、この距離なら確実に聞こえている筈である。という事は、意図的に無視しているのか。その考えに至った爆豪は怒鳴り付けようとするが、逹紀の肩を掴む寸前で、第三者に行く手を阻まれた。
「・・・なんか用?」
「あァ!?・・・普通科のクソモブかよ。」
それは普通科の心操だった。ヒーロー科がほとんどを占める予選通過者の中で、唯一残った普通科だった。だが爆豪にとってはそんな事は関係ない。今自分が用があるのは逹紀だけだった。
「どけ。俺が用あんのはそこの猫女だ。」
爆豪は自分の目線より少し上にある心操を威嚇するように睨みつけるが、心操は全く動じなかった。何を考えているか悟らせない、隈がかかった気怠げな瞳が余計に爆豪を苛つかせた。
「地井さんは俺と組むってさ。」
「あ゛?・・・おい猫女、こんな奴と組むとか本気か!?」
爆豪は先程出し掛けて心操に阻まれた手を振り払う。心操は逹紀の肩をやんわり掴み、自分の方へと引き寄せた。逹紀は虚ろな目をして、心操にされるがままだ。爆豪の方を見もしないその様子に、爆豪の堪忍袋の尾が切れた。
「なんとか言えよ猫女ァ!!」
「おい爆豪!もう時間ヤベェって!俺らのチームまだ2人決まってないんだぞ!?」
目的を忘れて逹紀を怒鳴りつけ、心操にまで掴みかかろうとする爆豪を切島が止めた。交渉タイムの残り時間は5分を切っていた。周りの生徒もチラホラとチームを組み始めている。残りの生徒が少なくなればなるほど自分のチームが不利になってしまう。切島は少なくとも今の爆豪よりは冷静だった。
「ここは地井諦めて、他のヤツと組んだ方が良いって!」
「俺に指図すんな!」
切島も、先程から少しもこちらに反応しない逹紀の様子が気になったが、それより今は自分のチームが勝ち上がる方が大事だった。尚も威嚇し続ける爆豪の腕を掴み、A組の生徒が集まっている方へ急いだ。