強さ正しさの模倣 05
15分のチーム決め兼作戦タイムが終了し、プレゼントマイクのアナウンスがスタジアム内に響き渡る。『さァ上げてけ鬨の声!血で血を洗う雄英の合戦が今!!
狼煙を上げる!!!』
カウントダウンが始まり、競技がスタートした。開始早々鉄哲チームと葉隠チームが緑谷チームに向かっていく。鉄哲チームの"個性"によって緑谷チームの足場が泥濘み、足が沈みかけるがサポートアイテムによって騎馬ごと飛び、2チームを退ける。耳郎が追い打ちをかけようとイヤホンジャックを伸ばすが、それも常闇の黒影によって弾かれた。着地の際は麗日が装備したサポートアイテムで反動を最小限に収める。
「ヘェ・・・"個性"に頼るだけじゃないんだな」
1000万Pを所持する緑谷チームを中心に競技が展開される中、心操チームはその輪から外れたところで各チームの動きを観察していた。心操チームは騎手が心操、前騎馬が逹紀、左右が尾白と青山だった。普通科の心操が騎手を務め、騎馬がヒーロー科の面々である事から、ある意味では異様なチームだった。心操の"個性"の特性上、勝負は競技終了間際だ。よって、それまでは自分のチームのポイントを守りつつ、他チームのポイントの散り方を把握しておくのが最善だ。もし混戦に巻き込まれて騎馬の洗脳が解かれてしまっては一大事だからだ。心操は、あちこちでポイントの奪い合いが行われているのを、巻き込まれないようにしつつ様子を伺うことにした。
そして騎馬戦終了間際。轟チームと緑谷チームが1000万ポイントのハチマキを奪い合う中、鉄哲チームを心操の"個性"によって動きを止めてハチマキを奪い、3位で騎馬戦を終了した。
「ご苦労様」
心操は騎馬をしていた生徒の洗脳を解き、そう言った。青山は呆然としており、尾白は周りをキョロキョロしていた。2人とも状況が把握出来ていないようだ。それは逹紀も同じだった。逹紀の記憶は騎馬戦開始前で止まっている。自分がどのチームでどんなプレーをしたのかも覚えていなかった。心操に話しかけられてから記憶が無い事から、心操が"個性"を使って自分に何かしたのだと頭では理解したが、それを信じたくはなかった。ぼんやりする頭を振り、心操に詳しく話を聞くため走り出そうと足を出しかけた時、後ろから声をかけられる。
「地井さん!」
「尾白くん・・・」
振り返ると尾白が険しい顔で立っていた。尾白から話しかけられたのは初めてだったので驚いたが、彼の顔つきから重要な事だと伺えたので、足を止めて体を向き直す。
「俺、地井さんと同じチームだったんだけどさ、覚えてる?」
「・・・全然覚えてない」
競技が終わった時に近くにいたのでそうかも知れないとは思っていたが、それでも競技中の記憶は全く無かったので、逹紀は正直に答えた。プレゼントマイクの昼休憩のアナウンスにより、生徒や観客が移動し始める。2人も昼食を食べ損ねる訳にはいかないと思い、とりあえず食堂へ向かう事にした。
食堂へ向かいながら、尾白が騎馬戦で終盤ギリギリまでほぼ記憶が無いという事を聞く。どういう"個性"かはハッキリしないが、尾白も逹紀も、心操の問い掛けに答えてから記憶が無くなっている事から、それが"個性"の発動条件なのではないかという結論に至った。尾白は悔しそうに拳を握りしめている。それを見て、逹紀はその手を取り、強く握り過ぎて爪の跡が付いている手をやんわりと解いた。
「手、跡になっちゃうよ」
尾白は驚いたように逹紀を見て、さっと顔を赤くした。逹紀は不快だったかと尾白の顔を見る。目が合うと同時に尾白は顔を逸らしたので、逹紀は握っていた手を離した。2人の間に気まずい空気が流れるが、尾白の方から話しかけてきた。
「俺、トーナメント辞退しようと思う」
「え!?」
予想もしなかった発言に、逹紀は気まずかった空気も忘れて尾白を勢い良く見遣る。尾白は逹紀の方を見る事なく、言葉を続けた。
「みんなが全力を出し合ってきた場で、わけわからないまま勝ち上がるなんて、俺には出来ない。」
尾白は本気なようだった。自分の実力を発揮出来なかったのが相当悔しかったようだ。その気持ちは分からなくも無いが、気持ちを切り替えて次の試合に臨めば良いと逹紀は全く反対のポテンシャルで本戦に参加しようと思っていた。それに、雄英体育祭というプロヒーローに見てもらえる機会で、尾白の選択は合理的ではなかった。逹紀は尾白を説得するつもりはなかったが、現状を伝えようと口を開く。
「でも、プロに自分をアピールするチャンスだよ。高校生活でたった3回しかない。」
「それは分かってるさ。でも、俺のプライドの問題なんだ。」
逹紀は顔には出さないが、心底理解出来なかった。だが尾白の考えを否定する事も出来なかった。彼は不器用なのだろう。楽して勝ち上がる自分が許せないのだ。だが、その性格所以の選択なのだとしても、逹紀には到底理解出来るものでは無かった。
「・・・私には、理解できない。私は、目的があってプロヒーローになりたいと思ってる。その為には、どんなチャンスも自分のものにしなくちゃいけないんだ。」
「・・・地井さん」
今度は尾白が逹紀を見つめた。逹紀には確固たる目的があった。オール・フォー・ワンを倒す事だ。ヒーローになるのは、そのための手段でしか無い。目的に近付く為に、体育祭で上位になるのは絶対に成し遂げなければいけない課題だった。
「勿論いろんな考えの人がいるから、私は尾白くんを否定する事は出来ないよ。でも、私は"上に行かなくちゃいけない"」
逹紀は自分に言い聞かせるように呟いた。尾白には、そんな逹紀が言葉とは裏腹に、何故かひどく頼りなく見えた。
そうして話しているうちに、食堂に着いた。このまま2人で食事をする気分でも無かったので、尾白とは食堂の入り口で別れた。
「・・・あ!いた!逹紀!!」
「響香ちゃん!」
もうほとんどの生徒が食べ終えて食堂を出て行く中、その流れに逆らい注文を済ませ、席を探していると耳郎から声を掛けられた。そこには1-Aの女子が全員集まっていた。皆昼食を済ませたようだが、八百万だけ黙々と口に食べ物を含ませながら何かを創造していた。
「・・・どういう状況?」
耳郎に尋ねると、苦笑いしながら説明してくれた。何でも午後は女子全員がチアリーダーの格好で応援合戦を行う決まりらしい。相澤からの言伝を峰田から聞いたと耳郎は言う。だが周りの女子は誰もそんな格好はしていない。逹紀は怪しいと思いながらも、自分の分まで創造してくれている八百万の手前、口を挟むのは悪い気がして何も言わずにチアの衣装を受け取った。
「峰田さん上鳴さん!!騙しましたわね!?」
女子更衣室で着替えてグラウンドに出ると、案の定チアの格好をしているのは1-A女子だけだった。八百万ががっくりと項垂れる。逹紀はやっぱりな、と思いながらも麗日と共に八百万の背中にポンと手を置いた。
チアの衣装はそのままに、トーナメントのくじ引きが行われる事となった。騎馬戦での上位4チームがゾロゾロとミッドナイトがいる壇上の前に集まる。逹紀はチアの衣装が思ったより露出が多く、ヒラヒラする為落ち着きがなかった。
「おい、猫女。邪魔だ」
後ろから不遜な態度で話し掛けてきたのは、爆豪だった。逹紀にとってはいつもの事なのだが、爆豪の女子に対する物言いにしてはあんまりな発言に、切島が口を挟んだ。
「おい爆豪。女子に対してあんまりだろ」
「うっせ」
「いいよ切島くん。いつもの事だし」
逹紀はそう言ってヒョイと横にずれる。爆豪は逹紀より前に行きたいのかと思ったのだが、何故か逹紀の横で止まった。この場所である必要あったのか?と逹紀は少し不審に思ったが、考えても無駄なのは明白なのですぐに視線をミッドナイトに戻した。切島だけが凄い視線で爆豪と逹紀を見比べていた。