まぶたに透ける青と永遠 06

全ての体力テストが終わり、結果発表を行う為に相澤が生徒を集める。緑谷がハンドボール投げで指を負傷してから、逹紀は違和感の正体を掴めずにいた。持久走では緑谷はひどい結果だったし、その後の上体起こしと長座体前屈でも、パッとしない結果だった。ひとまずは、気のせいだったと思うことにした。
結果が発表されたが、最下位の除籍は、相澤による合理的虚偽という事の方が生徒にとっては衝撃的だった。一癖も二癖もある担任のようだ。ちなみに逹紀は3位だった。どうやらこれで本日の授業は終了らしい。教室に戻るよう相澤が伝えたので、生徒はパラパラと移動し始める。逹紀はまだオールマイトの匂いが近くにあるのが気になったが、ここで1人だけ戻らないのも不自然なので、オールマイトが居るであろう体育館の裏に向かう相澤の背中を追うだけに留めた。


相澤の影が体育館裏に消えていくのを見届けてから、教室に戻る一団に続こうとした。視線を感じて顔を向けると、そこには爆豪が居た。赤い瞳が射抜くように逹紀を見ていた。思わずチーターの本能で尻尾を低くし、落ち着きなくユラユラさせてしまう。いつでも走り出せる体制である。爆豪は、逹紀の青い瞳を数秒睨んだのちに、盛大な舌打ちをして歩き出した。視線を外されて、思わず上がっていた肩を下げて息を吐く。何か彼の気の触ることでもしただろうか。考えてみても逹紀には全く心当たりが無かった。




次の日。午前中は必修科目の授業、午後からヒーロー基礎学だった。オールマイトが勢い良く教室のドアから入ってきた。間近で見るNo.1ヒーローに生徒は浮き足立っていた。コスチュームに着替えて戦闘訓練を行うようだ。コスチュームと聞いて、更に生徒は浮き足立った。切島に至っては立ち上がっている。各々自分の出席番号が書かれたコスチュームを手に取り、更衣室に急いだ。

全員が着替えてグラウンドに集まる。逹紀もコスチュームに着替えてきた。こうして見ると、身体のボディラインが出ていたり、露出が多いのは自分だけでは無かったので安心した。逹紀はその俊敏さを活かす為、邪魔にならないよう装飾品は無い。シンプルなタンクトップのブラトップとハーフパンツだ。チーターの流線型の体躯に合わせた動きやすいコスチュームだった。手足には地面を踏みしめる時に肌が傷付かないよう、爪の部分があいたサポーターを着けている。自分がいつも着ているトレーニングウェアとあまり変わらなかったが、胸部分がVネックになっていて、少し落ち着かなかった。自身より露出が多いのに堂々としている八百万が羨ましかった。

戦闘訓練は、「ヒーロー組」と「敵組」に分かれて屋内戦を行うようだ。21名なのでヒーロー組のうち一組は3人になるみたいだ。逹紀はA組だった。緑谷と麗日が一緒だ。そして続けてオールマイトが引いたクジにより、第一線目となった。

「わあ!お二人さん、よろしくね!」

麗日がにこやかに言葉を掛けてきた。耳郎とは違うタイプの女子に、逹紀は少し緊張したが、彼女の笑顔のおかげでリラックス出来た気がした。お互いの個性を説明しながら、地図を頭に入れる。その際、逹紀は2人にお願いしたい事があった。

「2人の匂いを嗅がせてもらえないかな?」

逹紀の発言を聞いて緑谷と麗日は驚くようにぎょっとしたが、逹紀の嗅覚を活かす為に匂いを覚える事は大事なのだ、と説明した。2人の了承を得てから、耳より少し後ろの首筋に顔を近づける。ここが一番匂いがわかりやすいのだ。
逹紀よりだいぶ身長が低い麗日にはかがんで匂いを嗅がせてもらった。麗日は「なんかこれ、照れるね」とはみかみながら笑った。緑谷にも、匂いを嗅がせてもらったのだが、ガチガチに固まっていて、終わってからも動きがぎこちなかった。ヒーロースーツで逹紀と麗日には見えなかったが、緑谷の顔は真っ赤だった。逹紀はお礼を言って離れた。他の生徒が待機している場所では、峰田が「オイラも嗅がれてえ・・・」とボソッと呟いていた。それに反応する者はいなかったが、男子の何人かは峰田と同じ事を考えていた。

「爆豪くんと飯田くんの匂いは、わかりやすいから多分追えると思う。」
「そうなの?」
「爆豪くんは爆破する時、ほのかに甘い匂いがするんだよね。飯田くんは柑橘系みたいなエンジンの煙の匂いがする。」

爆豪は掌の汗腺からニトロのような物質を出し爆破する。ニトログリセリンは砂糖のような甘い匂いがする。飯田はオレンジジュースを経口摂取することでエンジンの燃料となっている。図らずも、爆豪と飯田の匂いは逹紀にとってはわかりやすかった。これを体力テストの時だけで判断し覚えているのは流石だと、オールマイトは小型無線から聞こえる逹紀の発言を聞いて感心していた。

訓練がスタートし、3人は1階の窓から建物に潜入した。索敵力のある逹紀が先頭だ。逹紀は耳と鼻を使って爆豪と飯田を探る。飯田は上の方にいるようだ。動いているが、一定の場所から動かない。おそらく核を守っているのだろう。対して爆豪の匂いはどんどん近くなる。

「爆豪くん、どんどん下の階に下がって来てるよ。」

逹紀が緑谷と麗日に伝えると、2人は身構える。建物内は意外と綺麗だった。ホコリなどはあまり見受けられず、逹紀も匂いを辿りやすかった。二つ目の角を曲がろうとした時、逹紀が足を止めた。すぐそこに爆豪の匂いがしたからだ。2人に合図を送る。

「来るよ!!」

逹紀の声から数秒遅れて、爆豪が角から飛び出して来た。そして先頭の逹紀に見向きもせず、緑谷に突っ込んでいった。逹紀は跳躍した爆豪の下をくぐり抜け、緑谷が避けた方の反対側に避けた。挟み撃ちされ、逹紀に背後を取られているにも関わらず、全く動揺せず再び緑谷に向かって爆破しようとした。逹紀は爆豪に後ろから飛びかかろうとしたが、反対の手で逹紀を威嚇するように小さな爆破をしていたので、一瞬躊躇してしまった。
緑谷は爆豪の右の大振りを読んでいたようで、逆にその手を取って背負い投げた。これには逹紀も麗日も驚いた。意外と観察と予測が得意なタイプなようだ。

「いつまでも"雑魚で出来損ないのデク"じゃないぞ・・・かっちゃん、僕は・・・"『頑張れ!』って感じのデク"だ!!」

緑谷のその言動に、爆豪は「ムッカツクなああ!!!」と、更に苛立ちをあらわにした。緑谷と爆豪の間にどんなわだかまりがあるのか逹紀は知らなかったが、この執着は異常だった。早い所爆豪を確保した方が良さそうだ。そう思い、飯田との無線に一方的に怒鳴っている爆豪に、緑谷の後ろから飛びかかった。しかし、逹紀のスピードに咄嗟のところで反応し、爆発で防御されてしまった。人間の反応速度なら今の爆発は致命的だろうが、ネコ科動物は跳躍の途中でも身体の向きを変えることが出来る。爆発の中心から逸らしてしまえば見た目程ダメージは無かった。

緑谷が「地井さん!?」と叫ぶが、意に介さずに爆豪が緑谷に向かって飛びかかった。それを間一髪で避けて麗日を先に行かせた。本来ならば逹紀が向かった方が良いだろうが、爆豪が尖兵として向かって来ている以上、それに対抗できる緑谷と逹紀が協力して爆豪を一刻も早く捕縛してから麗日の応援に行った方が確実だった。二手に別れてしまった以上、作戦を立てねば話にならない。逹紀は緑谷が爆豪から離脱したタイミングで、その後ろに続いた。自分を追い越した逹紀を攻撃しようともしない爆豪は、緑谷の事しか目に入っていないようだった。




一旦爆豪から離れた緑谷と逹紀が、麗日に無線を飛ばす。

「今2階にいるんだけど、多分飯田くんは5階にいると思う。麗日さんは飯田くんを見つけたらそこで待機してて。」

逹紀は無線を飛ばしながら、緑谷の息が整うのを待つ。制限時間まで、あと10分ーー