まぶたに透ける青と永遠 07
緑谷の息が落ち着いた所で、逹紀は緑谷に声を掛ける。「爆豪くんの攻撃、読んでたの?すごいね。」
「はじめの方だけだよ!最後の攻撃は読まれることを避けて蹴りで攻めてきてた・・・警戒されたんだ。もう簡単には間合に入り込めない・・・」
緑谷曰く、爆豪が尖兵として攻撃してきたのは独断で、二人の連携は取れていないようだ。爆豪は緑谷をロックオンしている為、緑谷が飯田の方に行くと勝ち筋が薄くなってしまう。飯田のスピードに対抗できるのは逹紀だけだが、狭い室内で混戦になるのは無駄が多い。
「僕がかっちゃんを引き付けている間に、逹紀さんと麗日さんで核を回収して欲しい。」
確かにそれが一番『勝てる』作戦だった。だが、逹紀はどうしても爆豪のあの異様な執着と、緑谷が"個性"を使わない事が気になった。
「確かにそれが一番の勝ち筋だね。でも緑谷くん。今のところは"個性"を使わずに爆豪くんと渡り合えてるけどさ。使わなくちゃいけなくなった時、"個性"の制御が出来てない君は致命的だよ。怪我した状態で爆豪くんとやり合ったら、確実にフルボッコだよ。」
この短い時間の爆豪の行動や発言から、逹紀は爆豪の性格を把握していた。もし緑谷が怪我をしても、容赦なく攻撃してくるだろう。逹紀とこのまま行動して"個性"を使っても、緑谷を庇いながら逹紀ひとりで爆豪とやり合うのはかなり厳しい。逹紀は緑谷の"個性"は慎重に使った方が良いと伝えた。
「なら、怪我した状態でやり合わなければ良い。僕と地井さん2人でかっちゃんを相手にしつつ、核を回収するんだ。」
そんな全てがうまくいく方法なんてあるはず無い、と逹紀は思ったが、緑谷の作戦を聞いて行けるかもしれないと思った。とにかく、チャンスは一瞬だ。麗日にも作戦を伝え、実行のタイミングは緑谷に任された。そこで逹紀は、少し前から気になっていた事を緑谷に伝えた。
「ちょっと気になるのが、爆豪くんの匂いが強くなってるんだよね。汗って、発汗したそばから蒸発してくと思うんだけど、なんか濃度が濃くなってるっていうか・・・」
「濃度?」
「そう。おかげで近付いてきてるのかどうかが判断しにくくて・・・」
「呑気にお喋りか?舐めてんのか?デク・・・」
「かっちゃん!」
緑谷と逹紀は驚いて爆豪を振り返る。しまった。片耳に無線機を付けていたのと、匂いが濃くなっていたので、現在地の捕捉がおろそかになってしまっていた。爆豪を目の前にして、逹紀はハッとした。匂いの濃さの正体は、爆豪自身ではない。両手に着けている装置だ。勘付いた逹紀をよそに、爆豪は緑谷に向かって装置の説明を始める。
ーー思った通りだ。やばい。あれを喰らったら、
「当たんなきゃ死なねぇよ!」
爆発音。逹紀は咄嗟に爆豪に背を向けて緑谷を引き倒す。体が勝手に動いてしまった。背中に衝撃が走る。緑谷と共に爆風で吹き飛ばされた。
「地井さん!!!」
背中が熱い。だが、動けなくなるほどではなかった。直撃ではなく、爆風でやられたと思われた。「大丈夫」と緑谷に答える。緑谷もヒーロースーツの頭部分を参照していた。それにしても威力は凄まじいものだった。直撃していたら本当にやばかった。だが、屋内戦でここまで建物を損壊させるのは、愚の骨頂といえた。やはり爆豪は緑谷に固執するあまり、周りが見えなくなっているのかもしれない。
「女に庇われて・・・ダッセェなあ、デク!!来いよ!まだ動けんだろぉ!?」
爆豪は尚も緑谷を挑発するが、緑谷は麗日に無線を飛ばす。その緑谷の様子にまた爆豪はイラついているようだった。こちらのチームの方がやられているが、爆豪の方が余裕がなさそうだった。
緑谷は無線で麗日と"作戦"の実行ポイントを最終確認したようだ。逹紀も聞こえているので緑谷と目線を合わせて合図をした。逹紀がすべき事はひとつ。緑谷がタイミングを見計らうまで、爆豪の後ろを取り続ける事。
爆豪が緑谷に飛びかかっていく。それに合わせて逹紀も爆豪の後ろを取る。爆豪は緑谷にどんどん攻撃を与え続ける。逹紀は先程、緑谷が怪我をしてしまったらフルボッコ間違いないと思ったが、怪我なんてしていなくてもやられっ放しだった。テープを巻き付ければ捕らえたことになるのにも関わらず、爆豪はお構い無しに緑谷に攻撃を与え続ける。まるでリンチだった。
とうとう緑谷が床に叩きつけられる。緑谷に地井さんは手を出さないで、と言われたがそろそろ我慢の限界だった。仲間がやられているのを黙って見ている事はできなかった。緑谷が素早く起き上がり、窓際の壁に避難する。そこは先程無線で確認した柱の近くだった。緑谷は爆豪の後ろにいる逹紀に目配せする。逹紀はいつでも飛びかかれる体制だった。尚も爆豪は余裕なさげに緑谷に怒号を浴びせる。
「俺を舐めてたんか、てめェはぁ!!」
「君が凄い人だから、勝ちたいんじゃないか!!勝って!超えたいんじゃないかバカヤロー!!!」
「その面やめろやクソナード!!!」
今度は直撃コースだ。逹紀は爆豪に飛びかかる。同時に緑谷は麗日に無線を飛ばした。緑谷の攻撃は、予定通り飯田と麗日がいるフロアまで床を突き崩した。逹紀は爆豪の攻撃を晒す為に肩口に飛びかかり、爆豪を踏み台にして勢いそのままに上の階に向かってジャンプした。
「飯田くん!ごめんね、即興必殺!彗星ホームラン!!」
上階から麗日の声が聞こえる。逹紀は底が抜けた4階のフロアまで上がってきていた。タイミングは一瞬だ。
そして、麗日が柱を軽くして振りかぶる"フリをした"。あくまで飯田の視線を麗日に集中させるのが目的だった。麗日の声と共に下の階から逹紀が現れる。飯田は麗日の必殺技という言葉に身構えており、下から現れた逹紀に反応出来ずに押し倒された。素早く麗日が自身を軽くして核にタッチする。
「ぬあぁぁー!!核!!」
逹紀の下で飯田が無残な声をあげた。オールマイトが無線でヒーローチームの勝利を告げる。同時に麗日と緑谷は床に崩れ落ちた。逹紀は飯田から足を退かし、麗日の背中をさする。だが緑谷の方も心配だった。"個性"を使ったので確実に反動で怪我をしているだろう。ここは申し訳ないが、飯田に任せて緑谷の様子を見に行こう。麗日も、「私よりデクくんのが重症やろし、行ったげて」と言ってくれた。
逹紀が2階に着地すると、うつ伏せで倒れる緑谷と、自分の右手を見て呆然と立ち尽くす爆豪が居た。爆豪は逹紀と目が合うと、呼吸が荒くなってゆく。瞳孔も完全に開いている。まずい、過呼吸かと人型に戻り駆け寄る。正面から背中に手をまわし、反対の手で爆豪の目を隠す。
「落ち着いて。」
背中に回した手を上下にゆっくりさする。逹紀自身、以前にやってもらって落ち着いた方法だった。視界が暗くなる事で自然と落ち着く事が出来た。3.4回さすると自然と呼吸は落ち着いてきた。オールマイトが来たので、もう大丈夫かと思い離れる。オールマイトが爆豪の肩に手を置くと、呼吸は完全に落ち着いたようだった。瞳は見開かれたままだったが、瞳孔の開きは治まっていた。
緑谷はハンソーロボに乗せられ保健室に搬送された。オールマイトから、逹紀も保健室に行くように言われるが、そんなに酷い傷じゃないので授業が終わってから行くことになった。講評を行う為にモニタールームに移動するようオールマイトから指示が飛び、各々が重い足を進めた。
「まぁ、つっても・・・今戦のベストは飯田少年と地井少女だけどな!」
飯田と逹紀は突然の名指しに驚く。それは生徒側も同じだったようで、蛙吸が疑問の声をあげた。オールマイトに当てられた八百万が順番に生徒の総評を始める。
「・・・地井さんは、爆豪さんの暴走によるヒーロー側の被害を最小限に抑える立ち回りや、機動力を活かした最後の局面での、核よりも飯田さんを確保するという判断も見事ですわ。訓練でなかったとしたら、敵を先に確保する事で逃走を阻止することに繋がりますから。」
緑谷の建物を破壊する攻撃を止めなかった事はオールマイトから指摘された。確かに、八百万の評価はありがたく受け取るが、もっと良い立ち回りも出来たはずだと、課題はしっかりと受け止めた。
爆豪は総評を聞いている間も、他の生徒の訓練をモニターで見ている間も、ずっと暗い表情をしていた。逹紀はモニターを見ながらも、そんな爆豪の様子が気にかかっていた。