まぶたに透ける青と永遠 08
全ての組の訓練が終わり、オールマイトは急いで緑谷の元へ向かっていった。逹紀も背中の手当てを受ける為、保健室に向かおうと一歩踏み出した。「・・・ぅわっ」
授業の中盤あたりから、背中が熱いなぁと思っていたのだが、自分の予想より体力を消耗していたようだ。勢い良く方向転換した際に足がふらついてしまい、倒れそうになった。
「・・・お」
だが、地面に膝をつく前に誰かが腕を掴んで引き上げてくれた。向こうも咄嗟に掴んでしまったようで、驚いた声を上げていた。身体が熱い。逹紀は朦朧とする意識をなんとか振り払い、掴まれている腕に視線をやった。
「・・・とど、ろきくん・・・」
「地井、大丈夫か?身体熱いぞ。」
そこには、半身を氷で覆っている轟が居た。掴まれている右手が冷たくて気持ち良い。思わずそのまま寄り掛かりそうになる。だがそれだと轟に迷惑だ。ただでさえオールマイトに言われた通り、すぐ保健室に行かなくて悪化させているのだから。自分の不始末は、自分でなんとかしなければ。名残惜しいが、掴まれている腕をやんわり解こうとする。だが逆にフラついてしまい、本格的に支える体制にさせてしまった。
「・・・ごめん。すぐ離れるから・・・」
「無理してるだろ。保健室まで付いてってやるから、このまま寄り掛かってて良いぞ。気休めかもしれないが、右で冷やしててやるから。」
「いや、それは本当に轟くんに申し訳ないから・・・」
「俺が良いって言ってるんだから、甘えとけ。背中支えるぞ。」
そう言って轟は腕を掴んでいた右手を一旦離し、背中を支えた。意外と頑固なタイプらしい。冷たくて気持ち良い。いつもなら絶対にこんな風に人と密着などしないが、身体が火照っている為、無意識に冷たい轟の温度を欲してしまったようだ。逹紀は情けなさでいっぱいだった。他の生徒はもう更衣室へ向かったようで、誰とも鉢合わせしなかった。保健室の前に着く頃には、轟のお陰でだいぶ体の火照りも落ち着いていたので、自分で歩けるようになっていた。まだ心配そうにする轟に、もう保健室の前だから大丈夫と言い張り、そこで別れた。
保健室の中にはオールマイトもいて、なんだか深刻そうな雰囲気だった為入るのを戸惑ったが、向こうが気付いてくれたようで、すぐに招き入れてくれた。リカバリーガールには、「なんでもっと早く来なかったんだい!」と怒られた。火傷を放置したせいで服とこすれて炎症を起こし、皮膚がただれていたらしい。オールマイトには、「もっと早く気付いてあげられなくてすまない・・・」と謝られたが、自己管理が出来ていなかった自分の責任だと逹紀は逆に謝った。オールマイトはリカバリーガールから更に怒られていたが。
リカバリーガールに治癒してもらい、更衣室で制服に着替えてから鞄を取る為、教室に戻ろうとする。教室に向かう階段で、上から降りてくる薄い金髪の髪の毛が目に入った。爆豪だ。
丁度階段の踊り場を曲がってくる所で、逹紀が目に入ると何故か立ち止まった。逆光で爆豪の顔は暗くなって表情は分からなかったが、赤い瞳が逹紀を見ているのは分かった。逹紀もなんとなく立ち止まり、爆豪を見上げる。数秒、目が合う。体力テストの時もこうして目が合ったが、あの時より爆豪の目は幾分落ち着いて見えた。クラスメイトに、こういう時なんて言うべきだろうか。逹紀は、昨日自分が耳郎に言われた言葉を思い出す。
「爆豪くん、また明日。」
爆豪は逹紀の言葉を聞いて、目を見開き、舌打ちした。逹紀は何か間違った事を言ったかと思って首をかしげる。そんな逹紀はお構い無しに、爆豪はズンズン階段を降りてくる。階段の幅はいくらでもあるのに、何故か逹紀の真正面から降りてくるので、逹紀は横に避けた。爆豪は逹紀のいる段に片足を掛けた所で止まり、キッと逹紀を見る。
「いいか、もう俺は負けねェ・・・テメェも超えて、一番になってやる・・・!」
そう言って、肩をぶつけようとして来たので、逹紀はひょいと避けた。すると避けられた事が気に食わなかったのか、「避けんな猫女!!」とキレられた。いきなり怒鳴られるとびっくりする。尻尾と耳がピーン!となってしまった。ドスドスと歩いていく爆豪を後ろに見て、逹紀は教室に向かった。
教室の前で緑谷に出会い、爆豪と階段で会ったことを伝えると、急いで追いかけて行った。爆豪とコミュニケーションが取れてるなんて凄いなあと思いながら見送り、教室に入る。
「あ!戻ってきた!」
ピンク色の肌が目に飛び込んできた。芦戸だ。もうみんな帰ったとばかり思っていたので、緑谷と爆豪以外のほぼクラス全員が残っていて、逹紀は面食らう。そこからいきなり自己紹介が始まった。体力テストと戦闘訓練でなんとなく各々の名前は知っていたが、改めて自己紹介されると新鮮だった。芦戸、蛙吸、砂藤と終わり、逹紀は自分の自己紹介をした。一息つくと、耳郎が寄ってきて逹紀に声を掛けた。
「逹紀、怪我大丈夫?轟から聞いた。気付かなくてごめんね。」
「ありがとう、耳郎さん。リカバリーガールにすぐ治してもらえたから、大丈夫だよ。轟くんもありがとう。」
後方の席に座っている轟にも、声をかける。轟は手を上げて返事をしてくれた。すると蛙吸が不思議そうに尋ねてくる。
「地井ちゃんと耳郎ちゃん、仲良しだと思ってたのだけど、地井ちゃんは耳郎ちゃんの事苗字で呼ぶのね。」
「そう!ウチは名前呼びで良いって言ってるのに!」
逹紀はギクリとした。初日に名前呼びで良いと言われたのだが、友達のことを名前で呼ぶのは久しぶりで気恥ずかしかったのだ。「まだちょっと緊張してて・・・」と言うが、蛙吸は「梅雨ちゃんと呼んで」と追い打ちをかける。耳郎からも期待のこもった目で見られたので、呼ばざるをえなかった。
「つ、梅雨ちゃん・・・響香ちゃん・・・」
「はい、逹紀ちゃん。よろしくね。」
ケロ、と口癖なのか蛙吸はそう付け足し、女子にしては大きな手を逹紀に差し出した。逹紀はその手を握り、にこりと笑う。すると他の女子も便乗して名前呼びをせがんできた。何とか全員分言い終わり、ふうと肩の力を抜くと、それを見た耳郎が不思議そうに尋ねた。
「にしても、男子ならともかく女子の名前呼ぶの緊張するって、どんなお嬢様学校にいたの?」
八百万がそのタイプだったため、逹紀もそうかと思い、耳郎は疑問を口にした。逹紀は「別に普通の学校だったんだけど、」と前置きし、自分の中学の時の話をした。避けられていて友達と呼べる人が居なかったと。それを聞いていた生徒達は、微妙な顔をしていた。全員が思っているであろう事を耳郎が思わず口にした。
「それって・・・高嶺の花ってやつじゃ・・・」
逹紀は絶対無いよ!とすぐに否定したが、十中八九そうである。自己紹介が全員分終わり、訓練の反省会が再開された。30分程話していると、下校のチャイムが鳴ったのでその日はお開きとなった。逹紀も自分のリュックをかつぎ、女子達と談笑しながら下校する。中学の時には考えられなかった事に、逹紀は落ち着きなくソワソワしてしまった。ずっと尻尾が揺れていたが、決して嫌な気分では無かった。