「爆散した大釜の痕跡とシュラウドの証言により、大方の整理はついた。結論から言うと、シュラウドが持ち込んだ鉱石とハッタ―がぶち込んだ、賢者の石のレプリカが強く反応した結果だ。レプリカといえど、賢者の石……はぁ。Naughty Boy は、ちょっと 来なさい。シュラウドへの罰は、お前との紐付きがどうも固く結ばれた Girl の面倒を見ること。責任を持って。いいか? 溜めこんだ寮長の仕事分、せいぜいしっかりこなすんだな」


「ハイ」


 ちょっと、来なさい。が に変換されて聞こえたのはイデアだけではなかった。いつもへらへらしている同級生の顔が虚無で彩られていた。イデアは心の中でプギャー、乙です。と指をさす。ちなみに、アズール氏は少し前にログアウトした。さすがに、教員室まで見送ってはくれなかった。話は聞いてあげましたから、僕はこれで。次またその鉱石を取り寄せるときは僕に、必ず、連絡してください。と契約書にサインさせる勢いで、迫られた。そんな良いもんじゃないのに、物好きですなあ。……はぁ、回復ポイント求ム。

 イデアは自分に注目が集まる中で、発言を求められるシチュエーションが地雷だ。自衛はしている。どうしようもなく鼓動が早くなるし、言葉がどもって仕方ないのだ。現在も、情報共有を、と教員室に呼び出されたものの。共有ではなくて、これはもはや取り調べに近いのでは? とイデアは感じていた。共有だけなら、さくっと聞いて、さくっと帰るつもりだったのだ。陰謀のにおいがする。この拙者相手に、……デュフフフ、いいでしょう。かかってきなさい、完璧にフラグをへし折ってみせましょうぞ。とむりに現実逃避をすることで、心を守ることにした。


「私の方でも、これまで確認された歴史的な事件や事象を集めたデータベースにアクセスした。錬金術関連に絞り、調査を行ったが。本件は、例を見なかった。きわめて珍しい事象と言えよう」

「なるほど……困りましたねぇ。……あぁ、そう言えば。シュラウドくんは、召喚術が得意でしたよねえ?」

 そちらの毛のモノでは? クロウリーは疑いをもった目でイデアを見た。ぐっとイデアに視線が集まる。ドッドッド、心臓が大きくはねて、イデアは否定も肯定も返せないでいた。だめだだめだ、ちゃんと否定しろ自分!!!! 責めるような周りの視線に、イデアは口をわなわなと開閉するだけだった。

 ふっ、鼻から息が抜けた音が聞こえる。発生源はジェフリー・ハッタ―だった。面白いことは何もないが、なぜか彼にはややウケたようだ。へー、おもしれぇじゃん? みたいな顔してこっち見んなし。イデアは他人事で笑うジェフリーに、ぷっつーんときた。先ほどイデアも同じことをしたが、それは棚に上げたようだ。おやおやおや?? どう考えても、貴殿の今後の行方のほうがおもしろいんですわ。え? あ、もしかして、自覚されていらっしゃらない?? あッちゃー、スペックの足りない頭では こんな でさえも処理落ちですかぁあ? マジ GG ですわ。草も生えぬ。クルーウェルと共に部屋を退出していくジェフリーに、イデアなりの罵詈雑言をかけた。心の中で。


「ご存じでしょうが、召喚術は、召喚者の気持ちやおもい、そして召喚者が持つ縁に呼応して発動するのですよ。特に、召喚者の気持ちが強ければ強いほど、結びつきが鮮明になり召喚に応じ易い。シュラウドくん、事象発生前に何か強いおもいを抱いていませんでしたか?」
「?………………ォワ」

 あ"〜、思い当たりしかない。最初はぴんとも来ていなかったイデアだが、心当たりを見つけたようだ。退出していったジェフリーら同級生に対して「魂からやり直せ」と強気だったイデア。まさかそんな些細なことが、引き金で……? やめて! 拙者の得意科目で、これ以上不名誉な烙印を押されたら、身体を張って授業に出ている拙者の精神が擦り切れちゃう! お願い、弱らないで拙者の胃! ここで倒れたら、エレはどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば部屋でオルトが待っているんだから! 次回「イデア死す」。デュエルスタンバイ。

「どうやら心当たりがありそうですねぇ。であれば、魂の結びつきがトレイン先生並みに頑固なのも、うなずけるというものです。 シュラウドくん、 で召喚させてしまったのであれば、お2人を引き離すのは少々酷というもの。あぁ、私はなんて優しいンでしょう……! しっかり面倒をみてあげてくださいね?」

 クロウリーは、独特の抑揚で歌うように告げた。面倒ごとがこれ以上回ってこないことを確信して、気分がよくなったのだ。しめしめ、仮面の奥に潜む瞳がふざけたニコニコに切り替わる。トレインは軽くディスられた事実に、おい、クロウリー。ゴミ捨て場の決戦でも披露してやろうか? とルチウスを嗾けしかけるのだった。

「あだだっだだだ!! ひどいじゃないですか、トレイン先生! えー、コホン。さあさあ、問題が解決したなら授業にもどってください。君は、生徒なのですから」



 クロウリーはそう言って、あぁ忙しい忙しい、やれやれのポーズをした。……さんざん魂ガー、やら結びつきガー、やらなんとか言われたけどさ。素人は、だまっとれ――――。嘆きの島出身のイデアは静かに不快感を感じていた。気持ちをくべて髪もメラァと大きくなる。がそれは一瞬の出来事だった。相手に期待して、文化を理解してほしいと願うだけ無駄だ。気持ちを拳のように振り上げることは、できなかった。代わりにぎゅっと、拳をにぎる。どうせ呪われた僕たちを理解する人なんて……。

 ぺこりと、イデアは何も言わず教師たちに、ただ一礼をした。そして、部屋の窓際でおとなしく座って待っていた少女に目を向ける。少女はトレインの魔法にかかったように、こくりこくりと舟を漕いでいた。教員室に来るときも、ねむねむと手で目をこすっていた。

「よっこいせ」
「ぅん、……ちゃ?」

 ぽやぽやしているエレをイデアは持ち上げて、抱えた。もちあげかたはこれでいいのかな?? やヴぁ、顔近。ちっっちゃ。え、僕が持ち上げていいの? これ放送いける? いきなり捕まったりしない???

 名付け親でしょうが、胸を張りなさい。パァァンッとイデアの背中をアズールは叩く。めっちゃ痛い。いつバルガスに筋肉授かったの? この裏切り者ェ! というやり取りをしたのはついさっきのことだった。自分より高い体温が胸のあたりに伝わってきて、イデアはちょっぴり泣きそうになる。オルトは機敏に動けるよう軽量化していたので、馴染みのないずしりとした重さに、イデアはちゃんと寮まで運べるか不安にかられた。




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 ハッタ―をリーチ兄弟風にいうと、これは絞めたにあたるのだろうか。ふとクルーウェルは考え込んだ。いや、レプリカと言えど貴重なあの素材をくすねてぞんざいに扱ったのだから、これぐらい当然だ。一教師である前に、彼は一人のコレクターだった。駄犬の躾を終えて、教員室に戻れば、なぜかるんるんのクロウリーに、クルーウェルは頭が痛くなった。大方、面倒ごとを 誰か に押し付けたのだろう。俺が出した結論を聞いていなかったのか? この馬鹿烏め。と吐き捨てる。何かあればシュラウドからくるだろう。そう結論づけて、気にすることをやめた。さて、ただの貴重な鉱石同士による錬金にしては、予想の斜め上を行きすぎたこの事象。どう調教してやろうかと、クルーウェルは舌なめずりをした。彼は根っからのサイエンティストなのだ。

 いつか明らかになる要因。それは、人形が抱えたきもちと、それを見かねた賢者の石が紡ぎだした奇跡のオンパレードによって、爆誕したこと。それを、知っているのは木っ端みじんになった大釜だけだった。



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