夕食の時に会った3人は、先程あった時よりも少しやつれて見えました。私はそれに驚きつつ、小声で聞きました。
「どうかしたんですか?」
「……ハグリッドが内緒でドラゴンの卵を持っていたんだ。今、孵そうとしてる」
ハリーくんが本当に他の誰にも聞かせないように私に囁きました。
私はびっくりしてハリーくんを見つめて言います。
「ドラゴンって合法なんですか?」
「ううん。そんなわけないじゃないか。
石の他に…ハグリッドも心配だよ…」
ハリーくんの学生生活に平穏などないようですね。
それはそうとハグリッドさんの所にドラゴンですか…。凄く、見てみたいです。
「孵るのが楽しみですね」
答えると3人は心底嫌そうな顔をしたので、頬を膨らませ抗議しました。
†††
そしてハグリッドさんからお手紙が来て、ドラゴンさんがもう少しで孵るということがわかりました。
私達はハーマイオニーちゃんを説得して、休憩時間に入った途端にハグリッドさんの家に向かいました。
「もうすぐ出てくるぞ」
興奮した様子のハグリッドさんが私達を招き入れます。
テーブルに置かれた卵からはコツコツと音が聞こえます。
そしてやがてキーッという甲高い声を上げてドラゴンが生まれました!
まだまだ小さく真っ黒い身体に、大きな骨張った翼、こぶのように生えた角、大きくぱっちりと開いたオレンジの目。
「素晴らしく美しいだろう?」
「わぁ……可愛い…!」
私がわくわくとドラゴンの頭を撫でようとしたら、ロンくんが私の腕を引きました。
慌てた様子で、でも小声で私に言います。
「何するんだいっ? 噛まれちゃうよ!」
「えぇ…可愛いですよ?」
「リク、正気?」
失礼な。とっても可愛いのに。
その時突然ハグリッドさんが窓際に駆け寄りました。
ハリーくんが驚き飛びのきます。
「どうしたの?」
「誰かが見ておった…子供だ…、学校の方へかけていく」
ハリーくんに続き、私も窓の外を見ました。
あの、後ろ姿は。
「ドラコくん、ですね」
†††
それからずっとハリーくん達はドラゴンをどうにかしようと、ハグリッドさんを頑張って説得していました。
ドラゴンに付きっ切りの間、ニワトリさんなどの家畜達が荒れ放題でしたので、私もそのお世話で忙しくなりました。
そしてハリーくんの思いつきで、チャーリーさん……ロンくんのお兄さんに預けるという事になりました。
チャーリーさんはルーマニアでドラゴンの研究をしているそうです。うってつけですね。
「ロンくん、大丈夫ですか…?」
「うん。マルフォイにからかわれなければだいぶましなんだけどね」
ドラゴン――ノーバートはとっても大きくなり、昨日、ロンくんの手を噛んだのです。
そしてノーバートの牙には毒があったらしく、ロンくんの手は酷く腫れてしまい、マダム・ポンフリーのお世話になっていたのでした。
「……ドラコくんは私が説得しますね」
ノーバートの事を知っているドラコくんが、誰かにお話しないように、私がドラコくんを説得することにします。
土曜日にやっと迎えがくるそうです。
ノーバートに怪我をさせられてしまったらしいファングが小屋の外で座り込んでいました。
私はぎゅうとファングを抱きしめます。
「もう少し我慢して下さいね、ファング」
「くーん」
甘えるような声が凄く可愛いファング。むぎゅむぎゅとじゃれながら、土曜を待ちました。
そして土曜の夜。
ハリーくんとハーマイオニーちゃんがノーバートを1番高い塔へ。ロンくんは怪我で待機。
そして私は今、ドラコくんの腕を一生懸命掴んでいました。
「駄目ですよ、ドラコくん! ハリーくんが困ってしまいます」
「なんだよリク! そんなにポッターを庇うのかよ!
静かにしてくれないか? 見つかってしまう」
「駄目ですーッ」
塔の階段まで来たドラコくんを止めようと、私は少し声を大きくしてしまいました。
そこで、パッと私達を誰かが照らしました。
振り返るとそこにはマクゴナガル先生の驚いた顔が。や、やばいこれ。です。
「貴方達何をしているんですか!」
ぽかんとしてしまった私を置いてドラコくんが走り出しましたが、すぐにマクゴナガル先生に捕まってしまいました。
ドラコくんの耳を掴んで先生が声を張り上げます。
「罰則です! さらに、スリザリンから20点減点! こんな真夜中にうろつくなんて、なんてことを……」
「先生、誤解です。ポッターが、ドラゴンを連れてくるんです!」
「マクゴナガル先生、ドラコくんは悪くないんです…!」
「貴方もですよ、Ms.ルーピン!! グリフィンドール20点減点!
ついて来なさい!」
20点…! 初めて2桁にもなる減点を受けてしまいました! 泣きそう。
マクゴナガル先生の後ろに付いていくと先生はどうやらスネイプ先生の所に行くみたいです。
ドラコくんの顔色が悪くなります。私は彼に小さく謝罪しました。
「ドラコくん、私……」
「私語はしない!」
マクゴナガル先生の声が飛びます。びくっ。
ドラコくんは俯いた私の服の裾を引いて、じっと見ました。
ゆっくりと口が動きます。
きにするな そう動いた口に私はまた泣きそうになります。
スネイプ先生のお部屋に行くと、寝間着姿のスネイプ先生が出てきました。
ドラコくんと私を静かに見たあとマクゴナガル先生に視線を移しました。
「いかがなされましたかな」
「生徒が真夜中に1番高い天文台の前にいたのです」
先生2人が話をしているのを私達は静かに聞いていました。
自分がどうなるのかわからなくて、私はぎゅうとドラコくんの手を握っていました。
「Mr.マルフォイは罰則。罰則内容はマクゴナガル先生に従うように。
……Ms.ルーピンも同じ校則違反を?」
「えぇ、まぁ…」
スネイプ先生がマクゴナガル先生をから視線を外し、じとと私を見下ろしました。
いつもは大丈夫でしたが、今日は怖くてドラコくんの手を強く握っていました。
そこでばたばたとフィルチさんがどこからか走ってきました。
聞けばグリフィンドール生が3人もベッドを抜け出したという事だとか。
あぁ…きっとハリーくんとハーマイオニーちゃんです! あと1人は…どなたでしょう…?
マクゴナガル先生の顔が怒りで真っ赤になります。
それを見てかどうかはわかりませんがスネイプ先生がドラコくんと私を見ました。
「我輩が2人をそれぞれの寮に」
「……えぇ、セブルス。お願いします」
マクゴナガル先生がフィルチさんと一緒に立ち去るのを見てから、私はドラコくんの顔を盗み見しました。
やっぱり顔色は悪いままです。
そして3人は無言で歩き出しました。
ドラコくんには幸い、スネイプ先生からの部屋からスリザリン寮までは近かったので、すぐにお別れとなりました。
「…先生、お休みなさい」
「スリザリンの点数をこれ以上減らさぬように」
「………はい。気をつけます。
…リク、またな」
「お休みなさい、ドラコくん。また明日」
お別れを言ってしまうと、残りのグリフィンドール寮までの道のりは酷く長いものでした。
少し先を歩く先生を見ながら、私はしょんぼりと肩を落としていました。
そして長く無言のままグリフィンドール寮が見える位置まで来ると、スネイプ先生は私に振り返りました。