クリスマス休暇が明日から始まるという日。ホグワーツから出て行く馬車はいつもよりも多いような気がしました。
安全ではなくなってしまったホグワーツに残ろうとする生徒はもう誰もいないのでしょう。
純潔思考の集まるスリザリン生も、今年は誰もホグワーツに残ろうとはしませんでした。
生徒のいなくなりガランとした城の中、私はダンブルドア校長先生の最期の場所である塔の上から、ホグワーツから離れていく沢山の馬車を見下ろしていました。
「マルフォイ宅に行かなかったのか」
不意に声が掛かって私は身体ごと振り返ります。スネイプ先生でした。
先生は私の隣まで来て、一緒に外を眺めています。
普段忙しいであろうスネイプ先生が塔の上まで来たことに意外さを感じながら、私は再び前を向いて小さく返事をしました。
「はい。ヴォル…『卿』も久しく帰っていないという話でしたし、ご親族で集まっている中にお邪魔するのもどうかと思いまして」
ドラコくんはヴォルデモートさんを1番に怖がっているようでしたし、彼が不在の今なら落ち着いてクリスマスを過ごすことが出来るでしょう。ドラコくんもホグワーツにいるあいだ中、何かに怯えていたような顔をしていたのですから…、短い間だとしても休息を取ってもらいたかったのです。
リーマスさんのところに帰るわけにも行きませんし、私は最初からスネイプ先生の残るホグワーツにずっと居ようと思っていました。
2人で無言のまま最後の馬車を見送り、一瞬寒さに身体を震わせるとスネイプ先生が徐に杖を振るって何処からともなく緑色のマフラーを取り出して渡してくださいました。
いつかもこうやってスリザリンのマフラーを貸してくださったことを思い出して、思わず頬が緩みます。
緑色のマフラーを受け取りながらお礼を言って、スネイプ先生に振り返ると先生はいつもの格好をしていました。折角マフラーを渡してもらった所ですが先生の方が寒そうです。
「休暇明けにアンブリッジの作った学生集会禁止令を復活させようと思う」
声を掛けようとした時にスネイプ先生の方が先に話しだしました。急に振られた話題に私は一瞬首を傾げて誤魔化すようにはにかみました。
「…なんでしたっけ、その条例…。
あの、だって沢山条例が作られた時期じゃないですか!」
呆れたような表情をするスネイプ先生に慌てて弁解します。
ドローレス・アンブリッジが教師になった時には結局、数え切れない程の条例が作られ、そしてその全てが廃止されたのですから。
先生は呆れたようにしつつもやがて軽い説明を始めてくださいました。
「3人以上の集会や非公式組織の禁止をする条例だ。
…最近特に騒ぎが多すぎるのでな」
スネイプ先生の言うとおり、新学期に入ってからずっと、強硬派の生徒による小規模の反乱がほぼ常に起こっていました。
彼らはカロー兄妹やスネイプ先生に隠れて反乱を続けています。
時に教師も協力をしているようで中々首謀者が見つからないままに、騒ぎだけが日々起こっていました。
きっと、中心人物はきっとジニーちゃん、ロングボトムくん、ルーナちゃんの3人でしょうけれど。
私は表情を暗くさせつつ小さく言葉を零します。
「……それでもDA軍団は止まらないでしょうね」
「だろうな。それでもやらないよりかはいい。…カロー兄妹も少しは静かになればいいが」
カローさん達は日々起きる反乱を収めようと躍起になって荒れていました。
ですが反乱している生徒達の逃げ足の方が早いらしく、カローさん達は決定的な手札を用意できずに腹いせと言わんばかりに関係ない生徒に罰則をかけることも多々ありました。
カローさん達が罰則している時に発見できれば私が止めることも出来るのでしょうが、それでも医務室には罰則で傷ついた生徒が溢れていました。
そのことを思うとどうしても表情が暗くなってしまいます。
ほぼ無意識のうちに俯いていると、スネイプ先生が私の耳を引っ張るようにして無理やり顔を上げさせました。
「痛いです?」
頬を膨らましながら文句を言うと、スネイプ先生は真剣な目をしながら私を見下ろしていました。
真剣な彼を見上げながら私は不安を抱いて口を閉ざします。どうしたのでしょう。
言葉を待っているとスネイプ先生は静かに手を離して、扉へと向かい出しました。混乱する私ですが、とりあえず先生を追いかけます。
先生は私が追いかけてくることを知っていたかのように、廊下を進みながらゆっくりと話しだしました。
「生徒の間ではMs.も死喰い人ではないかという噂が流れている」
「……でしょうね。むしろ今に始まったことじゃないと思いますよ」
私がこうやってスネイプ先生と一緒に歩いている姿を多くの生徒が見かけています。
カロー兄妹を止めてはいるのですが、結局は仲間内の争いとしか捉えられていないのでしょう。
何より、多くの生徒の前でヴォルデモートさんの分身であると宣言したリドルくんが私の隣にいるのですから、私が死喰い人だという話が出るのは当然の流れのような気がします。
急にその話題が出たことに首を傾げていると、先を歩くスネイプ先生がちらりと私をみて怪訝そうな顔をしていました。
「悠長すぎるのでは?
君が被害を受けないという保証はない」
「……心配してくださってます?」
もしかして。と微笑みを浮かべながら言葉を続けると、隣を歩いていたスネイプ先生に私の額をぺちんと叩かれてしまいました。先程も耳を引っ張られましたし、今日は特段酷い先生です。
不満げにむすーと頬を膨らましていると、スネイプ先生は小さく溜め息をついたあと言葉を続けました。
「これから校長室で昼食をとるが、Ms.は?」
「私もついていきます!」
珍しくお誘い頂いたことに驚きつつも元気よく返事をします。
少し先を歩いていたスネイプ先生に駆け寄って隣に並びながら私はにっこりと笑顔を浮かべました。
スネイプ先生はまた呆れたように溜息をついていました。失礼な。