「リク、あまり長くここにいると風邪を引く」
声が聞こえて、私は薬草をすり潰していた動きを少しだけ止めて彼を見ます。
見るとリドルくんは私の寝室から持ってきたであろう赤いマフラーをしていました。
彼はグリフィンドールカラーのマフラーにさほど抵抗はないのでしょう。マフラーをぎゅうと掴みながら寒そうに肩をすくませています。
それもそうです。ホグワーツ内でももっとも寒い場所でしょうし、暖房なんてありませんしね。
「はい。でももう少しですから」
私はそう答えて作業を再開させます。昨日スネイプ先生から貸して頂いた緑色のマフラーは、汚してしまわないように私の鞄の上に畳んで置かれていました。
リドルくんは動きを止めない私にむすとした表情を向けたあと、床にそのまま座っている私のすぐ隣に座りこみました。
拗ねたように私の鞄の中を探りながら、彼は心底不満そうにしながらも私へと背中を預けて声をかけます。
「僕は忠告したからね。風邪引いても知らないからね!」
「ふふ。ありがとうございます。
でも、本当にもう少しですから」
不機嫌そうにしながらも私の傍から離れようとはしないリドルくんに微笑みを浮かべつつ、すり潰した薬草を火にかけ、数秒数えてすぐ火から下ろし、再びすり潰していきます。
そう難しい作業ではありませんが、この作業を間違ってしまえば魔法薬の質が下がってしまいます。火にかけることとすり潰すことを丁寧に繰り返します。
欠伸をしているリドルくんが私の作業を邪魔しないように見てから言葉を零します。
「それが終わったら帰るからね」
「はい」
今度は素直に返事をして微笑みを浮かべます。火が弱くなる前に再び杖を振るっていると、不意にリドルくんが言葉を零しました。
「そんなに無理しなきゃいけない?」
「無理ではありませんよ。無理をしてはいません」
これは本心でした。私がこの魔法薬を作りたかったのは本当ですし、多少普段よりも忙しくなったとしても、魔法薬の調合自体は好きでしたから。
そうリドルくんに返すと声を潜め、ゆっくりと話しだしました。
「…ねぇ、リク。リクは『アイツ』がいつか海外に行くだろう。って言っていたよね」
「はい。どうかしたんですか?」
「あたりだよ。今、『アイツ』は海外に居る」
言葉を聞いて私の手が1度だけ止まります。作業を再開させながらも私は目を細めて言葉を零しました。
「………わかるんですね」
「言ってしまえばあっちが本体だからね。大まかな居場所ならわかる」
リドルくんは肩をすくめながら不本意そうにそう言います。作業を終えた私は粉末状になった薬草を零さないように瓶詰めします。
冷ましながら瓶に詰めていると薬草は茶色から透明な緑へと変色し、いつの間にか液状に変化していました。どうやら上手く下準備は出来たようです。
「……時間がありません」
ようやく出来た液体を眺めながら私は小さく呟きます。私をリドルくんが優しく引き寄せながら小さく微笑みました。
リドルくんはいつの間にか置いてあった緑色のマフラーを持っていて、それを私に巻いてくれました。
「でも、焦っても成功は近づかない」
「…はい。無駄にするわけにはいきませんから」
ここまで作るのに長い時間がかかってしまいました。それにこれからもまだ多くの行程が残されています。
出来上がった液体が入った瓶にしっかりと蓋をしてからその瓶を、水をはった大鍋の中に沈めて保管しておきます。
私が立ち上がる横で、リドルくんは物珍しげに大鍋の中を覗き込んでいました。リドルくんの肩に手を置いて一緒に大鍋の中を見つめました。小さく言葉を零します。
「下準備はようやく終わりました。
……うまく完成するのでしょうか」
「大丈夫。出来るよ、リクなら」
リドルくんに優しい声をかけられて私も表情が緩んでしまいます。そして私はふと思いついて、私の冷え切った手をリドルくんの首元に当てました。
ふるっと身体を震わせたリドルくんが私に振り返って鋭く私を睨みつけます。
「冷たいんだけど」
「リドルくんはあったかいですね〜」
「…なにやってんのさ。ほら、早く行くよ」
同じく立ち上がったリドルくんが頬を膨らませながら、私と手を繋いでくださいます。
ちらりと後ろを振り返って途中まで出来ている薬を見ます。
物語の最後の時にまで、必ず間に合わせなければなりません。物語を変えるためにも。必ず。