気づけば私はほとんど誰もいない公園に立っていました。ここがどこであるのかを理解する前に視界の中に入った人物に目を奪われました。
幼い女の子が2人と、その女の子を遠くから見つめている男の子がいたのです。

女の子は姉妹のようで、仲良さげに公園のブランコで遊んでいます。
そして男の子の方は、決して裕福とは言えない身なりをしていました。

私はその男の子の数歩後ろで立っていました。男の子も、姉妹も、私に気がつく様子は一切ありませんでした。

男の子は女の子を、赤い髪をした姉妹の、姉の方をじぃっと見つめていました。

私はその男の子を『知って』いました。


――場面が変わります。赤い髪をした姉妹のうち、姉の方と男の子がいました。


女の子と男の子が並んで公園の芝生の上に座っていました。周りには誰もいません。

「――それで、本当にふくろうが手紙を運んでくるの? その…ホグワーツに入学するために」
「普通はね。でも君はマグル生まれだから、学校から誰かが来て、君のご両親に説明しないといけないんだ」
「何か違うの? マグル生まれって」

女の子は不安そうに男の子を見つめていました。男の子は一瞬だけ答えを躊躇います。
きっと男の子は魔法界には『純血』と自身を呼ぶ人達の事や、その人達がマグル生まれを『穢れた血』と呼ぶことも知っているのでしょう。

「いいや」

それでも男の子は答えました。

「何も違わないよ」
「…よかった」

女の子は緊張が解けたようにそう言うと、にっこりと花が咲くように笑顔を浮かべました。男の子はそれに魅入られたように、女の子の笑顔に釘付けになっていました。

男の子は女の子に恋をしていたのです。


――再び場面が変わります。それはホグワーツでの新入生の組み分けの場面でした。


「グリフィンドール!!」

高々と響いた声に、男の子は小さく呻き声を上げました。女の子はグリフィンドールに所属されたのです。

そして。

「スリザリン!!」

帽子をとった男の子は浮かない表情のまま、緑色のテーブルへと向かって歩きだしたのです。


――場面が変わります。前の場面から数年経ったようで、男の子はとても成長していました。


男の子はOWLの試験を受けていました。そして試験が終わり何の気なしに彼は大広間を抜け、校庭に出ました。
そこで男の子は4人の別の男の子に出会います。5年生の、リーマスさん達でした。暇そうにしていたジェームズさんとシリウスが意地悪そうに男の子を見ていました。

そしてジェームズさんとシリウスが一斉に男の子に呪いをかけます。男の子は憎しみを込めた視線で2人を睨みますが、2対1では勝てるはずもなく、男の子は校庭で宙釣りにされます。
それを止めたのは、成長した女の子でした。赤い髪に緑の目をした彼女は、凛と声を張ってジェームズさん達を止めます。

女の子に助けられたという事実が、男の子にはきっと屈辱だったのでしょう。ジェームズさんの言葉に反論するために、男の子は叫んでしまいます。

「あんな『穢れた血』の助けなんか、必要ない!」

女の子は目を瞬かせました。『穢れた血』と呼ばれた女の子は深く傷ついたようでした。
男の子も、女の子の表情を見て、大きく目を開いていました。


――場面が変わります。男の子は必死に女の子に謝り続けていました。


「許してくれ」
「聞きたくないわ」
「許してくれ」
「言うだけ無駄よ」

女の子は男の子の言葉を完全に拒絶していました。

「口が滑ったって? 私を『穢れた血』と呼ぶつもりはなかったって?
 でも、貴方は私と同じ生まれの人を全部『穢れた血』と読んでいるわ。どうして、私だけが違うと言えるの?」


――場面が変わります。男の子はいつの間にか大人になっていました。


彼の前にいるのは、若干の軽蔑の視線を浮かべたダンブルドア校長先生でした。大人となった男の子は必死にダンブルドア校長先生に哀願していました。

「『あの方』は、『あの方』はリリーの息子を予言の男の子だと考えた。『あの方』はリリーを追い詰め…全員を殺すおつもりだ――」
「あの女がお前にとってそれほど大切なら、ヴォルデモート卿はリリーを見逃してくれるに違いなかろう。息子と引き換えに、母親の慈悲を願うことは出来ぬのか」
「そうしました。――私はお願いしました」
「見下げ果てた奴じゃ」

ダンブルドア校長先生の声はこれ以上にないほどに侮蔑が込められていました。

「リリーの夫や子供が死んでも気にせぬのか? 自分の願いさえ叶えば、あとの2人は死んでもいいと言うのか?」
「………それでは全員を隠してください。あの人を、全員を、安全に、お願いです」

男の子は必死にお願いしました。男の子にとって、女の子が安全であればそれで良かったのです。
ダンブルドア校長先生の静かな声が聞こえました。

「その代わりにわしには何をくれるのじゃ?」
「か、代わりに…?」

男の子は暫く黙ったあとに、真っ直ぐにダンブルドア校長先生を見つめ、答えました。

「何なりと」


――場面が変わります。男の子の願いも悲しく、女の子は闇の帝王に殺されてしまったのです。


男の子は慟哭の声を上げていました。悲痛な切ないその声。それをダンブルドア校長先生が静かに見ていました。

「リリーもジェームズも、間違った人間を信用したのじゃ」

ダンブルドア校長先生の声は例え真実だとしても非情でもありました。
男の子は苦しそうに息をすると首を左右に振って、校長先生の声を遮断しようとしていました。

「…リリーの息子は生き残っておる。その男の子は彼女の目を持っている。リリー・エバンズの目の形も色も、お前は覚えておるじゃろうな?」
「やめてくれ!!」

男の子は叫びました。叫んだあと、静かに椅子に座り込んで頭を抱えこみます。

「やめてくれ…、もう、もういない。…死んでしまった」

そして男の子は絶望が篭った目のまま言葉を続けます。

「私も…私も死にたい…」
「…お前の死が、誰の役に立つというのじゃ」

校長先生の言葉は冷たいままでした。

「リリー・エバンズを本当に愛していたなら、これからのお前の道ははっきりしておる。
 ――闇の帝王が戻ってくる。そしてその時、ハリー・ポッターは非常な危険に陥るのじゃ」

長い長い沈黙のあと、男の子は口を開きました。

「わかりました。…しかし、ダンブルドア。決して、決して誰にも明かさないでください! 誓ってそうしてください!
 私には耐えられない…特にポッターの息子などに……約束してください!」

ダンブルドア校長先生は男の子の苦悶に満ちた表情を見下ろしながら、深い溜め息をついて頷きました。


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