どのくらいの時間私はリドルくんの傍に居たのでしょう。呼吸が落ち着いてきたあたりで、私は顔を袖でごしごしと拭って、にこりと笑いながらリドルくんを見上げました。

「リドルくん、そうです。メリークリスマスですね!」

にっこりと笑いかけると、リドルくんは酷く優しい表情で私を見ていました。そしてやがて微笑み返しながら、私の頭を優しく撫でてくださいました。

「……そうだね。メリークリスマス。リク」

優しい声のリドルくんによしよしと頭を撫でられながら、私は頬を緩ませます。
私は頭を撫でて下さるリドルくんの手に自分の手を重ねて、繋いでくれるように求めます。リドルくんはすぐに私の手を優しく包んでくださいました。

手を繋ぎながら私達は塔の上から見える景色を眺めていました。私はリドルくんに言おうと思っていた謝罪を口にします。

「昨日はすみません。リドルくん、ずっと1人でしたよね…」
「僕はずっと日記の中で寝てたから。そう気にしてないよ。
 校長室には嫌でも入りたくないし」

心底嫌そうな顔をするリドルくんに私は苦笑を零します。彼は本当にダンブルドア校長先生にだけは会いたくないようです。

そこで私はローブのポケットに入っている小包を思い返しました。
慌ててポケットから探り出し、怪訝そうな顔をするリドルくんの前に差し出します。

「あ、あの。これ、リドルくんに。クリスマスプレゼントです!」
「僕に?」

驚くリドルくんの手前、私が取り出したのは何の変哲もない、銀時計でした。

「何にしようか凄く迷っちゃいまして…。ほら、リドルくんもヴォル…『卿』も何でも持っていますから。
 結局、つまらないものになってしまいましたけれども……」
「……。ありがとう」

数瞬黙りこんだリドルくんは少しだけ笑みを浮かべて銀時計を大切そうに見つめていました。なんだかその眼差しを見て私も気恥ずかしくなってしまいます。
じぃとリドルくんを見つめていると、リドルくんは私の方を見て優しげに微笑んでくださいました。

「僕からも贈りたいものがあるんだ。
 リク、こっちにおいで。少し寒いけれど…」

そう言うリドルくんについて私達は校庭に降りていきます。多くの雪が降り積もったホグワーツの湖のそばまで来るとリドルくんは徐に杖を掲げて、あたりに向かって振りました。

そして変化は私達の足元から広がって行きました。辺り一面に降り積もっていた雪が意思を持っているかのように持ち上がり、やがてそれらは綺麗な花の形へと変化していきました。
広がったのは辺り一面の雪の花。私は目を輝かせて花畑の中へと歩みだしていました。キラキラとした雪の花達は朝焼けを受けて輝いているかのようにも見えました。幻想的な景色に私は目を奪われます。

「わぁ…凄いです! 冬なのに、花畑です!!」
「作り出したはいいけど…、思ったより寒い」

顔をしかめているリドルくんから離れて、私は花畑の真ん中にかけていきます。しゃがみこんで様々な形のお花を象った雪に触れながら、その冷たさに思わず頬を緩ませました。
私は花を少し摘んで、丁寧に編み込んでいきます。適度な長さになったあたりで輪にしたものを、ポケットに手をいれて立っているリドルくんへと向けました。

「リドルくん、見てください! 雪のお花の冠です!」
「元気だねぇ…」

苦笑を零しながら、彼は私の傍まで来てすぐ隣に腰を落としました。リドルくんはよしよしと私の頭を撫でてからもう1度小さく囁きかけました。

「……うん。ちょっとは元気が出たみたいで良かった」
「…ふふ。ありがとうございます、リドルくん」

私ばかりがこんな素敵なものを頂いてしまって。心の支えになって下さるリドルくんに、いくら感謝しても足りないぐらいでした。
微笑みを零した私は今完成させた雪の花冠をリドルくんの頭に乗せました。冷たさに顔をしかめたリドルくんは、頬を膨らませて不満げにしていました。私はくすくすと笑います。

「リクが頭にのせればいい。阿呆っぽくて似合う」
「冠は王様が頭にのせるんですよ」
「減らず口」

そう言葉を返していると私達は顔を見合わせて、不意に笑い出してしまいました。
2人で笑い合ってから、リドルくんは頭にのせた花冠を私に突き返しました。それを受け取った私は周りの花を見渡します。このままこの花達が溶けていってしまうのはとってももったいないように思いました。

「うーん。持っていけたらいいんですけれど…」
「任せて」

呟くと、リドルくんはぱっと杖を振って近くにある数本の雪の花に向けます。そうすると花がきらきらと一瞬輝きました。きっと溶けないようにしてくださったのでしょう。
目を輝かせる私の横、リドルくんは私の髪にキスを落としていました。私は苦笑を零します。

「これで、部屋にも飾れる」
「ありがとうございます、リドルくん」
「どういたしまして。銀時計のお礼さ」

溶けなくなった雪の花を摘みながら、私は花に視線を向けます。そしてまたリドルくんへと微笑みかけました。

「……もう1つ、溶けないものを作って貰ってもいいですか?」
「? いいけれど? そんなに気に入ってくれた?」

不思議そうにしながらも私が望んだように雪の花を溶けないようにしてくださるリドルくん。特に綺麗なものを摘んで小さな花束にしながら私は言葉を紡ぎました。

「折角なんで校長室にも飾りたいんです」

そう言うと、リドルくんは一瞬黙り込んで私を睨むように見ていました。彼は咎めるような声を出します。

「…また行く気?」
「呆れてます?」
「心底ね。
 辛いなら、何故?」

リドルくんの質問に、私は一瞬戸惑います。辛いことは私が1番理解しています。それなのに…。
戸惑いながらも私は自分に確認するかのように声を零します。冷たい雪の花を抱えながら、いつのまにか諦めるかのような笑みを浮かべていました。

「辛くても…、消えてなくなってしまうよりはマシですから。
 そばにいたいんです。そばにいられる限りは。許されている限りは」

彼に拒まれる、その最後の一瞬まで。

リドルくんは始終私を見つめたまま、やがて私の頬にキスをして私を軽く抱きしめてくださいました。

「本当に馬鹿だね。君は」


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