合言葉を告げてゆっくりと校長室に入っていきます。雪で出来た花を持ちながらゆっくりと中に入ると、探しているスネイプ先生の姿が見つかりませんでした。

断腸の思いでやってきた私は姿の見えないスネイプ先生をそれでも探して、長い溜息を零します。
変に緊張してしまっていた私は思わず力を込めていた肩を撫で下ろし、奥へと進んで行きました。

「スネイプ先生?」

ひとまず声を掛け、きょろきょろと周囲を見渡しつつ花を執務室の上に置くと、奥の部屋にいるダンブルドア校長先生の肖像画と目が合いました。

思わず肖像画の前に歩み寄った私は、相変わらず優しげな瞳をしている校長先生を見つめました。

「こんにちは、リク」
「こんにちは。
 あの…、スネイプ先生はいらっしゃらないのですか?」

ダンブルドア校長先生は私の言葉を聞いてから朗らかに微笑みました。

「おぉ、さっき慌てて出て行ったのじゃ。きっと君を探しにのぅ。
 …すれ違ってしまったようじゃがの」
「……そう、ですか」

言葉を聞いて私は表情を暗くさせます。先程すれ違ったスネイプ先生は、それからどこへ行ってしまったのでしょうか。

考えてもわからない答えに、私は溜息をこぼしてダンブルドア校長先生にぺこりと頭を下げました。
不在ならば仕方がありません。お花だけでも置いて校長室から出ようと踵を返しかけました。
そこで私の歩みを止めるかのようにダンブルドア校長先生が不意に言葉をかけました。

「リク。セブルスの傍に居てやっておくれ」

言葉に私は困惑します。ダンブルドア校長先生を見上げ、自虐するかのような弱々しい微笑みを浮かべました。

「…違いますよ。むしろ私の方が離れられないんです」

どれほど彼がリリーさんを愛しているとしても、ほんの少しだけでも視界に入っていられるように、私の視界に入れておけるように。
きゅうと締め付けられる想いにつき動かされて、私はスネイプ先生の傍を離れることが出来ずにいました。

ダンブルドア校長先生は優しげな瞳で私を見つめ続けていました。私は静かに肖像画の前で独白を続けます。

「……でも、いつか…。いつか、あの人は私が追いつかないような所まで行ってしまうんでしょうか」

私はどうしようもなく子供で、彼はどうしようもなく大人なのですから。

不安を抱え続ける私。ダンブルドア校長先生は微笑みを崩さないまま、根気強く私に優しい言葉をかけ続けてくださいました。

「セブルスは君を待っていてくれるじゃろうて」
「そう…、でしょうか…?」

こんな子供の私を、大人なスネイプ先生が待っていてくださるのでしょうか。
先を歩んでいるスネイプ先生が私のために振り返って、くださるのでしょうか。

想いは張り詰め、胸にじわじわとした痛みを生み出していました。
その痛みから逃れたくて私は振り払うようにダンブルドア校長先生から視線を逸らしました。

「お花を、置いていきますね。このお花、リドルくんが私にクリスマスプレゼントとしてくれたんです。
 とっても綺麗なのでお裾分けです」

陽の光を浴びてもなおきらきらと輝き、溶ける気配を見せない雪の花。その美しさに数瞹目を奪われつつも私は校長室の出入口へと足を向けました。
その途中でどうしても彼に伝えて欲しい言葉が思い至って、私は遠くに見えるダンブルドア校長先生の肖像画に声を掛けていました。

「『また来ます』と伝えておいてくださいますか?」
「必ず」

返答はすぐに返って来て私はほんの少しだけ安心します。ダンブルドア校長先生は必ず伝えてくださるでしょう。
私は何処かで待ってくれているはずのリドルくんを探して、長い廊下を歩き出しました。


†††


クリスマスの日から数日経った日。お昼すぎぐらいに私は再び校長室の前に立っていました。
なんだかんだ言いながらも結局、飽きもせずにここに来てしまう私。自嘲のような笑みを一瞬浮かべて、私はガーゴイルに合言葉を告げました。

扉が開かれると同時に、向こう側から人影が現れました。
ぶつかることだけは避けたのですが、驚いた私は目の前の彼の胸元に両手を置いてしまいました。

「スネイプ先生?」
「Ms.?」

会いたかった人に扉の前でばったりと会ってしまって私は目を丸くします。スネイプ先生も酷く驚いているように思えました。

「何かあったのか?」

一瞬にして真剣な表情になるスネイプ先生が、私の肩に手を触れさせます。私は慌てて両手を左右に振って誤解を解きます。
違うんです。違うんですよー。

「いえ、ちょっと暇をしていたのでまた一緒に紅茶でも…、と」
「………」

はにかみながら答えるとスネイプ先生は真剣な表情をしながら私を見下ろしていました。その視線を受けながら私は愛想笑いを返します。

「先生はどちらへ?」
「……会議へ。少し空ける」

なにやら急いでいるかのような先生に聞くと、短くそう返事をしてくださいました。
忙しそうなスネイプ先生に私は苦笑を零します。私は暇をしていますが、先生はそうではないようです。

「いつもそうですけれど、今日は特段忙しそうですね。
 また日を改めて来ますね」

また今度にしようと思ってそう声をかけると、私が踵を返すより早く、スネイプ先生は私に言葉をかけました。

「机の上を片付けておきたまえ」
「え?」
「すぐに戻る。待っていたまえ」

若干慌てたかのようにそう言ったスネイプ先生は私の顔の近くへ手を伸ばし、そしてどこにも触れないまま手を下ろして、長い廊下を歩いて行ってしまいました。
どこかスネイプ先生らしくない行動に首を傾げた私は、先生の背中を見えなくなるまで見送ってから、校長室の中に入っていきます。

頼まれた机の整理をしようと思って机に近づき、そして私は表情を暗く落とします。

「……綺麗じゃないですか」

元から綺麗に整えられている机の上を見下ろしながら、私は長く息を吐いて校長先生が座る椅子に腰をかけます。

ふかふかの椅子に身を埋めてから、私は机の上に伏せるように身体を曲げます。
綺麗に整えられた机の上には私が先日置いてきた雪の花が飾られていました。伏せたままその花を指先でつついていると、思考の波が私を飲み込んでいきます。

先程のスネイプ先生の言葉が私を引き止めておくだけの嘘とも思えて、そんな自分の都合の良いように考えてしまうこの思考が憎らしくも思えます。

そんなはずはないのに。

期待をするだけ、苦しむのは私だというのに。


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