あの森の中でハリーにグリフィンドールの剣を渡してから数日がすぎ、クリスマス休暇が終わりを告げました。
休暇を終え、ホグワーツにはまた恐怖を抱えた生徒達が集まってきていました。

フィルチさんがいつものように生徒の名前が書かれたリストをチェックし、帰ってきている生徒を確認しています。
ホグワーツの玄関ともなる大きな扉の横に立ちながら、私は帰ってきている生徒を眺めていました。

「スネイプ校長先生。これで帰ってきた生徒は全員です」

チェックを付け終えたフィルチさんが私の方へと駆け寄ってきていました。
ちらりと後ろを見ると、スネイプ先生がゆっくりと私の隣にまで歩み寄ってきていました。

私の隣で止まった先生はフィルチさんからリストを受け取り、確認をしていきます。リストを渡したフィルチさんは既に校内へと入っていました。
リストを軽く確認している、変わらず青白い彼の横顔を見つめます。やがてリストを確認しおわった先生は私にもリストを渡してくださいまた。

「あ。ありがとうございます」

お礼を言ってリストを受け取り、帰ってきた生徒の名前を見つめます。クリスマス休暇から帰ってこなかった生徒の名前には×印が書き込まれていました。
印は片手で収まる量ではなく、余りにも多い名前に印が付けられています。そのことに私は表情を暗くさせます。

出て行った生徒よりも、戻ってきた生徒の方が確実に少ないのです。

今のホグワーツに戻りたくない気持ちはわかります。ですが、義務教育となったホグワーツに戻らないということは一家全員で隠れる必要があるということです。ヴォルデモートさんに逆らう意思があるとみなされてしまうのですから。そのことにただひたすらに不安が募ります。

死喰い人達から完全に逃れられる術は今のところないのですから。

そして見知った名前にも×印が付いているのを見て、私はスネイプ先生の顔を見上げて口を開きました。

「先生。ルーナちゃんが帰ってきていません」

学校内では反乱活動の中心でもあったルーナちゃん。国外逃亡をするような子ではないので私は心配に顔を歪ませます。
スネイプ先生は少し身をかがめて私と同じリストを眺めながら、小さく囁くように言葉を紡ぎました。

「彼女の父親が雑誌を編集していることは?」
「知っています。『ザ・クィブラー』ですよね?」
「その雑誌にはずっと『ポッターを助けるべきだ』と書かれ続けていた。それが死喰い人の目に止まった。ついでは我が君にも」
「………それが、ルーナちゃんがここに戻ってきていないことと関係があるんですか?」

深く黙り込んだスネイプ先生。私は表情を暗く落として、ぎゅうとリストを握り締めました。

ヴォルデモートさんの目にとまったというのならば、ヴォルデモートさんは『それ相応』の対処をしたのでしょう。
ルーナちゃんの身の安全を心配して私はスネイプ先生の言葉を待つように彼を見つめ続けました。先生は根負けしたかのように言葉を続けます。

「ラブグッドは今、マルフォイの館の地下にいる。……十分とは言えないが、生かされている」
「ドラコくんの家に…」

今、闇の陣営の本拠地はドラコくんのご自宅といっても過言でありません。
ヴォルデモートさんが海外に居るといっても、ルーナちゃんが闇の陣営の本拠地に囚われているということを知り、私はきゅうと締め付けられるような居心地の悪さを感じます。

表情を暗くしたままでいると、スネイプ先生はそんな私を見つめたあと、手を伸ばしてぎこちなく頭を撫でてくださいました。

「…Ms.が心配してもどうともならない。我が君が不在の今、ラブグッドは死ぬことはないだろう」
「………でも、怪我をさせられるかもしれません。
 彼女をどこか遠くへ逃がさないと」

ドラコくんの自宅へと『姿くらまし』をするべく、私は玄関先の階段を下りて禁じられた森にまで行こうとします。
ですが、足早に階段を下り始めた私の腕をスネイプ先生が強く握って引き止めました。

「今、Ms.が行っても何もすることはない」
「『卿』が不在ならば、死喰い人達は私の言うことを聞くしかありません。ルーナちゃんを逃がすことぐらいならできます」

ヴォルデモートさんのお気に入りである私の話なら、死喰い人達も聞いてくださるでしょう。
ルーナちゃんも、それとラブグッドさんも国外へと逃がさなければ。怪我をするまえに、すぐに。

腕を振り払おうとしても、先生の力の方が強くて振り払うことが出来ません。
スネイプ先生は腕を振っている私を見下ろしながら、少し早口で畳み掛けるように私に言葉をかけました。

「………そんなことをすれば我が君が帰ってきた時、死ぬのは死喰い人だ。君などではなく」
「……………」

スネイプ先生の言葉に私の動きが止まります。動きの止まった私を見て、スネイプ先生は小さく息を吐いたあと、落ち着かせるように再び私の頭を撫で始めました。
私は先生に振り向いて、問うように小さく声をかけました。

「…私は友人を助けることも出来ないのですか?」
「死喰い人を犠牲にしてもいいと考えるのなら、救出は可能だろう」
「…………先生は意地悪です…。私がそれを出来ない事を知っています」

結局私は誰も犠牲には出来ないのでしょう。たとえそれがとっても酷い事をする死喰い人だとしても。

ヴォルデモートさんが人殺しをするところは見たくありませんから。

深く深く黙り込んでいると、スネイプ先生は小さく優しげに微笑んだかのように思えました。

「それで、いい」

どこか安心しているかのような声は随分と近くで聞こえました。
私の前に立っていたスネイプ先生がいつのまにか私に寄り添うように背を曲げ、私の肩口に顔を埋めていたのです。彼の手は変わらず私の頭に触れています。
緩く抱きしめられていると実感するとともに、混乱で埋め尽くされる私の意識。

私にかかる短い溜め息。彼との近い距離。止まりそうになる心臓と、それに反して赤くなる頬。

「Ms.はそのままでいい」

彼はそう小さく言葉を零したあと、またいつものように凛と背筋を伸ばして、先に歩き出していきました。私はそんなスネイプ先生の背中を呆然と見つめます。
私の頭の中が混乱で満ち溢れ続けます。どうして急に、彼は。どうして。「そのままでいい」とは、私の何を示しているのでしょう。


prev  next

- 231 / 281 -
back