この前、クリスマス休暇が終わったような気がしますが、いつの間にかイースター休暇が訪れていました。

今回もまたホグワーツに残ろうとしていましたが、スネイプ先生に追い出されてしまい、私は頬を膨らませながらドラコくんの家に招かれていました。
ただ単純にドラコくんと休暇を過ごせるのならば喜ばしい限りなのですが、今のマルフォイ宅は闇の陣営の本拠地といっても過言ではありません。

大きな屋敷の中で度々すれ違う死喰い人の姿に、私は不服そうな顔をしていたはずです。文句は決して言えないのですけれど。

「なにしている」

長い廊下を、両手いっぱいに本を抱えながら歩いていると、不意に声が私に届きました。足を止めるとレストレンジさんが廊下の先で私を睨みつけていました。
今、私の隣には誰もいません。真っ向からの敵意を向けられていることに気がつきながらも小さく微笑みを浮かべました。

「休暇中、とっても暇をしているので『卿』のお部屋から本をお借りしてきたんです」
「我が君の部屋に勝手に入ったのか?」
「ちゃんとリドルくんからは許可を取ってますよ」

リドルくんのお返事は「いいんじゃない?」の一言でしたけれども。ふたつ返事と言うやつですね。

その時のことを思い出して、少し笑いそうになっていると、レストレンジさんは殺意を隠すこともなく私へとぶつけ、呪うかのような言葉を囁きかけました。

「小娘が粋がるんじゃないよ。利用価値がなくなればお前なんて直ぐに――」
「リク? 何をしている?」

言葉を遮るように現れたのは真っ赤な目を爛々と輝かせたリドルくんでした。レストレンジさんの血の気がサッと引いたような気がしました。
凛と隣に立ってレストレンジさんを見つめているリドルくんに、私はクスクスと笑いかけてレストレンジさんの方にゆっくりと歩き出しました。

「ただのお話ですよ」

軽く返して、私と私の隣を歩くリドルくんはレストレンジさんとすれ違います。レストレンジさんはリドルくんに向かって頭を下げていました。
廊下を曲がってレストレンジさんの姿が見えなくなってから、リドルくんは少しだけ怖い声で私を問いただします。

「ベラトリックスに何かされたのか?」
「いいえ。…だから心配しないでください」
「心配して言っているわけじゃない」

ふんと鼻を鳴らして、リドルくんは私が両手で抱えていた本を半分持ってくださいました。
慌ててお礼を言うと彼は赤い目を真っ直ぐに前に向けるだけでした。

「これをどこに?」
「居間で読もうと思いまして。確か、ドラコくんもそこにいたような気がして」
「ふーん。じゃあ、僕は本を置いたらもう少し屋敷の中を探索してくるよ」

探索といったリドルくんが少しだけ悪い顔をしていたので、私は苦笑を零します。何をするつもりかは全く検討がつきませんが、ヴォルデモートさんが嫌がることではあるのでしょう。

それに。と彼は言葉を続けます。

「マルフォイの息子がいるのならば僕が居ちゃ邪魔だろう?」
「そんなことないと思いますけれど」
「普通の子供には僕の姿は恐怖の象徴だってこと忘れてるよ」

ヴォルデモートさんの分身といっても過言ではないリドルくんが、苦笑を零して肩をすくめます。
はたと気が付いて目をぱちくりとさせていると、彼はもう1度笑みを零して私の隣を歩き続けました。

「リクにかかれば闇の帝王も形無しだねぇ」
「…うーん、返す言葉がありません…」
「悪い気はしてないさ。僕も『アイツ』も」

笑いながら、リドルくんは私より先を歩いて、本を抱えたまま器用に居間の扉を開いてくださいます。相も変わらず紳士さんです。

中を覗くと予想通りドラコくんの姿がありました。ドラコくんはリドルくんの姿を見て、青白い顔に少しだけ恐怖を滲ませていました。

どこか悪いことをしてしまった気がしつつも、私はドラコくんに安心していただけるように笑みを向けて、テーブルの上に本を重ねました。リドルくんが自由になった私の手をとります。

「じゃあ、大人しくここにいるんだよ。
 日記は手放さないように。何かあればすぐに戻るよ」
「心配してくださらなくても大丈夫ですよー」

苦笑とともに言葉を返すと、彼は微笑んで私の手の甲にキスを落とします。そうしてから扉を出て行ったリドルくん。ドラコくんが伺うように小さく声を出しました。

「……ホグワーツでも思ったけど、我が君と仲がいいんだな」
「『リドルくん』と仲がいいんですよ」

あまりリドルくんを怖がって欲しくなくて私は、言葉を続けます。

「リドルくんはとっても優しいんですよ」

困ったように苦笑を浮かべたドラコくんには逆効果だったのかも知れませんけれど。


†††


突然聞こえてきた騒音に、私は読んでいた本から視線を上げました。

扉を見つめながら、目の前のドラコくんとちらりとアイコンタクトを交わします。
ドラコくんの表情は蒼白そのもので、彼はなるべく扉から視線を逸らしていました。

私は静かに立ち上がってすぐに抜けるように杖に手を触れさせます。どんどんと響いてくる足音は騒がしくこの部屋にまで届いてきます。

「何かあったんでしょうか」
「……また誰か、マグルか穢れた血でも連れてきたんだろう」
「『卿』が不在だというのに?」

傍に置いておいた黒い日記に手を伸ばしながら私はドラコくんに問います。ドラコくんは不安げに聞き返しました。

「まだいないのか? 『あの人』は」
「はい。長いことお出かけしているみたいで、まだお帰りにならないんです。
 ……それに人攫い達がこの屋敷に来るだなんて…。彼らは魔法省に『人』を売りに行くのでしょう?」

マグル生まれが本格的に粛清され始め、魔法省への登録を拒否したマグル生まれが死喰い人に次々と襲われているという話は、私も聞いていました。

若干の嫌悪を感じながらそう呟き、そして日記の適当な場所を開いて、私は急いで文字を書き込みました。
書き込むと同時に現れるリドルくんの姿。ドラコくんが肩を震わせてリドルくんを見つめていました。

その間にも何やら騒がしい声がします。リドルくんは遠くの喧騒を聞きながら、怪訝そうな顔をしました。

「何?」
「まだ何もわかっていないんです」
「ここにいて。見てくる」

リドルくんがそう言った瞬間、部屋の扉が乱暴に開き、ルシウスさんの姿が現れました。続いてナルシッサさん、そのあとからフェンリール・グレイバックに連れられた数人の縄で縛られた人達が入ってきました。
一気に人が増えた空間に顔をしかめながら、私は凛と立ち上がるリドルくんの背中を見つめていました。

「ルシウス、何事だ」
「我が君。彼らがポッターを捕まえた、と」
「ハリーを?」

私は思わず聞き返してしまいます。リドルくんが視線で制するのも構わずに、縄で縛られている集団に駆け寄ります。

その中にはロンとハーマイオニー、きっとホグワーツから逃げていたと思われるトーマスくんや、傷だらけの小鬼の姿がありました。
そして真ん中にいるのは顔が酷く腫れ上がって顔の判別が難しくなっているものの、その男の子はハリーに間違いありませんでした。

顔をしかめて私は腫れ上がったハリーの顔を見つめます。
フェンリール・グレイバックは下卑た笑みを浮かべて私の表情を覗き込んでいました。

「さあ、お嬢ちゃん? よく見て。少々顔は崩れてるが、ポッターだろう?」
「……貴方が私に話しかけて欲しくありません」

私はフェンリール・グレイバックを一瞥してそっぽを向きます。フェンリール・グレイバックは一瞬驚いた表情をしてからまた笑いました。

「そうか。俺があんたの義理の父親を噛んじまったんだったっけ。昔のことだろ?」
「私は貴方を許しません。それだけです」

靴を鳴らす勢いで私はリドルくんのすぐ傍にまで戻ります。リドルくんは私の腰を引き寄せました。
私が離れたあたりで、ルシウスさんがドラコくんを呼びました。ルシウスさんは若干興奮しているかのようにも思えました。

「ドラコ、これが本当にポッターかどうか確かめるんだ。もし我々が闇の帝王にポッターを差し出したとなれば――」
「いいや、マルフォイ様、こいつを実際に捕まえたのが誰かをお忘れではないでしょうな?」

フェンリール・グレイバックがルシウスさんを制します。ルシウスさんはもどかしげに頷いていました。

そしてドラコくんは不安げな表情でハリーの顔を覗き込みます。ですがすぐに視線を逸らして首を左右に振りました。

「わからない。自信がない」

ドラコくんは酷く怯えているようでした。リドルくんが詰まらなそうにハリーに近づいて、その腫れ上がって潰れた緑の両目を見つめていました。

長い息を吐いたリドルくんは身体を起こして肩をすくめました。

「まぁ、なんだっていいが…、こいつがもし人違いだった場合、誰が責任をとる?
 …別にお前ら全員でもいいのだけれど」

リドルくんの言葉に空間にいた人達が一斉に顔を見合わせて怯えた表情を見せました。
私はリドルくんの腕に手を触れさせながら、もう1度ちらりとハリーを見つめました。

どうにかしてハリー達をここから逃がさなくては。


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