意識がぼんやりとします。気が付けば見覚えのない場所に来ていることに気が付き、私はきょろきょろと辺りを見回します。
深い森の中では土砂降りの雨が降っていました。ですが雨は私の身体を透かしてそのまま地面に落ちていきます。
「…ここはどこでしょう?」
小さく呟くと足元に、雨音とは違ったバシャリという音が響きました。音がした方へと顔を向けると、なんとそこにはハーマイオニーが立っていました。
彼女の足元に落ちた杖と、地面で蜷局を巻いて起き上がっているフェインの姿を確認したところで、私の意識が急に起き上がろうとするのを感じました。
「リク!」
「シャー!!」
ハーマイオニーとフェインの声を聞いたあたりで、私の意識は完全に覚醒してしまいました。
†††
目を覚ますと、対面のソファに座っているスネイプ先生の姿が斜めに見えました。斜め?
そのまま瞬きを繰り返していると、スネイプ先生は私に視線を向けないまま、小さく言葉を零しました。
「寝ぼけているのかね」
どうやら私は校長室のソファに横になっていたようです。私は夢の内容を思い出しながらぼんやりと呟きます。
「……『夢』を見ていました。ハーマイオニーとフェインが…」
ハーマイオニー達の名前を出すとスネイプ先生の厳しい視線が私に向けられます。
ゆっくりと身体を起こして、私は掛けられていたローブに視線を移しました。スネイプ先生の黒いローブに私の表情が緩みます。風邪を引かないようにかけてくださったのでしょう。
眠気を飛ばすためにうんと背伸びをしている間、スネイプ先生の視線はじぃと私に向けられ続けていました。私の言葉を待っているような気がして、苦笑を零しながら掛けられていたローブを畳み、弁論の言葉を返します。
「ちゃんと薬は飲んでますよー。でも最近、時々『夢』をみるんです。なんででしょう?」
小首を傾げて畳んだローブを、先生の座っているソファの近くまで行ってお礼を言いながらローブを手渡します。
すると先生は不意に私の腕を掴んで引っ張りました。バランスを崩した私は先生のすぐお隣に座ることとなります。近づいた彼との距離に驚いていると、先生は私の熱を計るかのように額に手を合わせました。
目を閉じて彼の手に甘えていると、スネイプ先生は考え込むようにしてからゆっくりと言葉を零しました。
「薬を飲んでいても、Ms.は既に1度『剥がれている』。もしかしたら剥がれやすくなっているのかもしれない。
一般的には、感情の激しい動きでも剥がれかけるという事例があるらしい」
スネイプ先生はそう診断をすると、じぃと私を見つめ続けます。
その視線を少し恥ずかしく思って、誤魔化すように微笑むと、先生は呆れたような溜息をついてから視線を逸らしました。
「…何か、心配事でも?」
隣にいるこの距離でも聞き逃してしまいそうな囁く声。ご心配をかけさせてしまっているらしいスネイプ先生に苦笑を零しながら、私はこてりと首を傾げました。
「心配事と、いいますか…」
言葉はどうしても濁ってしまいます。近づいてきている終わりに、何をすればいいかわからないのです。
何をすれば最善か。何をすれば全てを助けることが出来るのか。
「何か、いい方法を思いつければいいんですけれど」
独り言のようにそう零すと、逸らされていた先生の視線が再び私に向けられていました。
不意に手が伸びてきて私の視界を塞ぐかのように、掌で私の瞼を閉じてしまいました。訪れる真っ暗闇に私は困惑します。でもその手を逃れることができなくて、少しだけ肩をすくめていました。
瞼の裏にある暗闇の中で、スネイプ先生の声が聞こえます。
「深く考えすぎるな。君が犠牲になる必要はない」
「…………今日のスネイプ先生は特段優しいですね。どうしたんですか?」
言葉を返すと私の瞼を覆っていた手が離れ、私に光が戻ってきます。
真正面に映ったスネイプ先生の姿を見たかと思うと、彼は何を思ったか私の頬を思い切り引っ張りました。私は頬を膨らませて不満の声。
「痛いです」
「それはよかった」
「意地悪!」
吹き出すように笑ってしまった私の、若干楽しげな悲鳴が校長室に響きました。