と、そこでその時、扉が開いて新たな人影が入ってきました。レストレンジさんでした。

きっと騒ぎを聞きつけてやってきたのでしょう。フェンリール・グレイバックの姿を見ると、レストレンジさんは怪訝そうな顔を浮かべました。
ですが、縛られた集団の中にハーマイオニーの姿を見ると、すぐに状況を理解したようで、嬉しそうな声を上げました。

「これは、あの『穢れた血』のグレンジャーか?」
「そう、それだ! それがグレンジャーで隣のがポッターだ!
 ポッターと仲間がついに捕まった!」
「ポッター? それは闇の帝王にすぐさまお知らせしなくては…!」

レストレンジさんはすぐさま左の袖を捲くり上げ、ヴォルデモートさんを呼び戻そうとします。が、その手が一瞬で止まりました。レストレンジさんの視線はある1点に向けられていました。

彼女は急に荒々しく歩き出すと、フェンリール・グレイバックの仲間の1人が手に持っていたものを指さしました。その人は片手に剣を抱えていました。
レストレンジさんはその人の目の前に行き、剣を見下ろしながら淡々と言葉を掛けます。

「これは、何だ?」
「剣だ。俺が見つけたんだ」

バーンという音がして赤い閃光が走りました。リドルくんの腕が私の前に伸ばされ、盾になってくれます。驚きで肩を震わせた私は突然杖を振り上げたレストレンジさんの横顔を見ていました。
ベラトリックスさんは焦燥感に満ちた表情で、剣を持っていた男の人を弾き飛ばしたあと、フェンリール・グレイバックに向いて彼を問いただします。

「この剣をどこで手に入れた?
 これはスネイプがグリンゴッツの私の金庫に送ったものだ!!」

レストレンジさんの手には赤いルビーの収まった剣が握られていました。グリフィンドールの剣です!
私にはその剣が偽物かどうかの判断はつきません。ですが、ハリー達が持っているということは私とスネイプ先生があの湖の中に残してきた本物の剣なのでしょう。

剣がグリンゴッツから盗まれたと思っているレストレンジさんは、苛々と神経質そうに歩き回りながら妹のナルシッサさんに命令します。

「私がどうするかを考える間、捕虜達を地下牢にぶち込んでおくんだ!」

指図され、不機嫌そうな表情をしたナルシッサさんでしたが、すぐに視線をフェンリール・グレイバックに移します。

「捕虜を地下牢に連れて行きなさい、グレイバック」
「待て。『穢れた血』だけは残していけ」

鋭く笑ったレストレンジさんがそう言います。ハーマイオニーの表情が青ざめ、私は顔をしかめました。
小刀を取り出してハーマイオニーに近づくレストレンジさん。私は思わずハーマイオニーとレストレンジさんの間に駆け入りました。

レストレンジさんの表情が歪みます。ですが、すぐに私の後ろで警告するように瞳を輝かせているリドルくんの気配を感じたのでしょう。彼女は片手で小刀を弄びながら私に固い笑みを向けました。

「あー…、その『穢れた血』に何か用でも?」
「私の目の前で、とにかくただ単純に血が流れるのが嫌なだけです。
 何か情報を引き出したいというのならば、私が『真実薬』でも調合しますが?」

私はレストレンジさんを睨む勢いで見つめ続けます。その間にもハリー達はグレイバックさんに連れられ、地下にあるという牢獄に連れて行かれていってしまいました。

レストレンジさんは苛々とした表情のまま、声を荒上げました。

「それでは遅いんだ! この方が手っ取り早い!」
「何をそんなに慌てているというのです?」

ハーマイオニーを背中に庇いながら、私は凛と声を張ります。レストレンジさんは怒りを貯めているかのように思えました。
リドルくんの視線が私に向いて、尚且つそれが怒っているかのようにも思えましたが、私はリドルくんから視線を外し、ただレストレンジさんを見つめていました。

「こいつらは私の金庫に入ってこの剣を盗んだんだ!! どうやって私の金庫に入ったんだ!」

声は私の後ろにいるハーマイオニーに向けられていました。ハーマイオニーは涙を浮かべながら首を左右に振ります。

「み、見つけたの、見つけたのよ…!!」
「お前は嘘をついている! 『穢れた血』め!
 他に何を盗んだんだ!」

怒りの声を真っ向から受けながら、私は恐怖を堪えるために拳を握り締めながら、レストレンジさんに意見します。

「この剣が偽物の可能性もあります。グリンゴッツに預けた物は盗まれることなどありません」
「偽物? それはうまい言い訳だろうな!
 ドラコ! 地下牢から小鬼を連れてくるんだ!! 剣が本物かどうか、あいつならわかる!」

命令されたドラコくんは肩をビクッと震わせてから、ゆっくりと歩き出しました。そのドラコくんの後ろを、私をちらりと見たリドルくんがついていきます。
ドラコくんについていったリドルくんがうまいこと機転を利かせてくれるのを期待しながら、私達はドラコくんが小鬼を連れてくるまでの短い間を無言で睨み合いました。

やがてすぐにドラコくんが小鬼を連れてきました。リドルくんも手をポケットに入れたまま一緒に戻ってきました。
小鬼は顔中に傷を負っています。その酷い行いに恐怖を覚えながら、長い両手が剣を持ち上げるのを見つめていました。
レストレンジさんが小鬼を見下ろしながら問います。

「どうだ? 本物の剣か?」
「…、いいえ。偽物です」

厳粛なる声がそう告げました。私は誰にも知られないように内心で安堵の溜め息をつきます。同時にレストレンジさんの顔にもやっと安堵の色が浮かび上がりました。

「…よし、それでは闇の帝王をお呼びする!!」

レストレンジさんは勝ち誇った声でそう言うと、袖を捲くり上げて闇の印に人差し指で触れました。闇の印がどす黒く光るのが見えました。

リドルくんが顔をしかめて私の傍に来ます。見るとリドルくんも少し苛々としているかのようにも思えました。
私はリドルくんの表情を見つめます。彼は真剣な表情のまま私にだけ言葉を囁きました。

「どうやら呼び出しのタイミングが悪かったようだね。『アイツ』の機嫌が最悪みたい」
「わかるんですか?」
「僕の感情よりも外側で怒りを覚えている。多分『アイツ』の怒りだと思う」

その言葉に不安を覚えて、私は顔をしかめます。リドルくんは静かに瞳を閉じたあと、私を安心させるような笑みを浮かべました。

「大丈夫、リクは護るから――」
「『エクスペリアームス(武器よ、去れ)!!』」

そこで突然赤い閃光が真っ直ぐにレストレンジさんに向かいました。レストレンジさんの杖が弾かれ、捉えられていた筈のロンとハリーが部屋に飛び込んできました。
驚く私をよそに、リドルくんが素早く動いて、私の手を引いて部屋の隅に向かいます。杖を構えたリドルくんが真っ直ぐに侵入者に杖を向けていました。

「『ステューピファイ(麻痺せよ)!』」

再び閃光が走り、今度はルシウスさんの姿が暖炉の前で倒れます。レストレンジさんが『盾の呪文』で赤い閃光を弾いてから、杖先を縛られているハーマイオニーに向けました。

「やめろ、動くな! さもないと、この娘の命はないぞ!!」

ハーマイオニーに杖が向けられたことにより、ハリーとロンの動きが止まります。レストレンジさんは怒りを押し殺した声で、ハリー達に命令します。

「杖を捨てろ。さもないと『穢れた血』がどうなるか……」
「………わかった…!」

ハリーが苦渋の判断をし、杖をレストレンジさんの足元へと放り投げました。同じくロンも渋々と杖を足元に放ります。
レストレンジさんはニヤリと笑うと、ドラコくんに杖を拾うように言い、ドラコくんが杖を集める間、じりじりとハーマイオニーに近づいて、ハーマイオニーの髪を持って彼女を無理矢理立たせました。

私が前に出ようとするのをリドルくんが押さえます。無言の抵抗をしますが、リドルくんは決して動こうとはしませんでした。


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