フェインに夢を使って薬を渡してから、数日たった日のことでした。

「スネイプ先生…?」

真夜中。私は隣の空間に寒さを感じてゆっくりと目を覚ましました。
掠れた声で先生を呼んで、身体を起こそうとすると、ベッドサイドに腰をかけていたらしきスネイプ先生の手が私の瞳を覆い隠してしまいました。

「眠っていろ。まだ朝は来ない」

聞こえてきた声は優しくて溺れそうになります。
ですが、指先の間から見えたスネイプ先生の表情が酷く真剣で、意識が一気に覚醒していきました。

「…目、覚めちゃいましたよ。何かあったんですか?」

私の問いにスネイプ先生は深く黙り込みます。
それから先生は何も言わないまま立ち上がり、寝室を抜けていってしまいます。目を擦りながら首を傾げ、身を起こします。

ベッドの近くに掛けておいたローブを羽織って、先生の後を負うと、先生は校長室の出入り口辺りに行き何か小さく呟いていました。

途端に開く扉。扉の先を覗くと不機嫌そうな顔をしたリドルくんが立っていました。

「リドルくん。こんばんわ」

リドルくんの姿に驚きつつも、ローブが肩からずり落ちないように手で押さえてリドルくんのもとに駆け寄ります。

彼は何故か忌々しそうな顔をしつつ、私やスネイプ先生の横をどんどん進んでいき、あれだけ嫌っていたダンブルドア校長先生の自画像が見える位置まで移動していきました。
眠っていたダンブルドア校長先生はゆっくりと目を覚まして、現れたリドルくんを優しげな瞳で見つめています。ですがリドルくんはそれと反するように、ダンブルドア校長先生を睨みつけていました。

リドルくんを追うように私は彼の背中についていきます。その途中でスネイプ先生が不意に私の手をとりました。冷たい手が私の小さな手を包み、一瞬驚いて息が詰まります。
きっと私を安心させるためにそうしてくれたスネイプ先生に、思わず私はふにゃりと笑って手を握り返します。
ちらりと私に振り返ったリドルくんは心底面白くなさそうな表情をしたあと、静かに話しだしました。

「……ハリー・ポッターが分霊箱を探していることに『アイツ』が感づいた。
 今は指輪とペンダントを確認しに行ったが…、無くなっていることに気づけばすぐにここに来るだろう」

リドルくんの言葉に私は息を止めます。隣にいるスネイプ先生も一緒に話を聞いていました。私は表情を暗めてリドルくんに聞きます。

「分霊箱がホグワーツに…?」
「ある。…僕も確認している」

リドルくんとはずっと一緒に行動していたというのに、いつの間に確認していたのでしょう?
きっとリドルくんがそういうのならば分霊箱は確実にホグワーツにあるのでしょうけども。
私はリドルくんに詰め寄ります。

「それはどこにあるんですか?」
「……聞いてどうするだい? リクが破壊するの? 隠すの?」
「………」
「決まってないなら聞かない方がいい。…聞いてしまったら忘れられないのだから」

彼の表情は少しだけ寂しそうでした。私の肩を抱き寄せて額にキスを落としていきます。手を繋いだままのスネイプ先生の手が、一瞬強く私の手を握りました。

肖像画の中にいるダンブルドア校長先生はリドルくんに言葉をかけます。

「リドル…、これはリクの生命にも関わるのじゃ。
 疾くに見つけて分霊箱を破壊しなくては」

分霊箱を破壊してしまえばヴォルデモートさんは2度と復活することが出来なくなります。
バラバラになった魂は、今や数個しか残っていないはずです。

魂がヴォルデモートさんの中に残る1つだけになった瞬間、ヴォルデモートさんは真に殺すことが出来る身体となり、きっと誰かに…、きっとハリーに殺されてしまうでしょう。

戸惑う私の横、リドルくんは爛々と赤く輝く瞳をダンブルドア校長先生に向けながら、嘲るような口調で言葉を続けました。

「いいや。関わらないね。『アイツ』はリクだけは何があろうと殺さない。絶対に。
 それにお前が『僕』を『リドル』と呼ぶな」

リドルくんの声は心底怒りに満ちていて、彼が今でも自分の名前を嫌っていることを悟ります。
声を聞いて、私は不安そうな顔をしていたのでしょう。リドルくんは私を見ると、困ったように眉根を下げたあと、私に向かって優しげに微笑みかけてくださいました。そして言葉を続けます。

「…。兎にも角にも『アイツ』が来る。……ハリー・ポッターもね」

最後の決戦のために、ホグワーツへ。

そこで突然、スネイプ先生が私の手をバッと離して、左腕あたりを強く押さえつけました。

「先生…?」

先生の表情には一切変化がありません。ですが、左腕の闇の印に熱による痛みが発生したのだと悟り、声をかけながらスネイプ先生の腕に小さく触れます。

じぃと見つめていると先生は少ししたあとすぐに左腕から手を離して、尚且つ私の手からも少し逃げます。手は怯えているかのようにも見えました。
いつものように背筋を伸ばしているスネイプ先生は、真っ直ぐにダンブルドア校長先生を見ていました。

「……アレクトからの連絡です。侵入者を捉えた、と。恐らくポッターでしょう」
「言ったそばから、ということじゃな。
 セブルス、上手くやっておくれ」

その言葉にスネイプ先生は微かに頷きます。そしてそのあとに隣にいる私を見下ろしました。
少し黙り込んだスネイプ先生は私から視線を逸らしたあと、言葉を続けました。

「…。Ms.はここに残りたまえ」
「それ本気で言ってます? こんな状況で待っているだなんて出来ません」

既に出て行く気満々の私は凛とスネイプ先生を見上げて言葉を紡ぎました。

「守ります。出来うる限り」

そのまま先生を見つめていると、先生は私から視線を逸らして目を閉じました。

リドルくんはスネイプ先生が離した私の手を奪うように握り、軽く引きました。

「…押し問答をしている暇はない。リクは僕が守る。
 ……行こう。リク」

リドルくんが手を引くのに任せて私も扉の方へと向かいます。扉のところまで来てスネイプ先生に振り返ると、ダンブルドア校長先生がスネイプ先生に何かを話しかけていました。
何を話しているのかは聞き取れませんでしたが、スネイプ先生の視線が一瞬だけこちらに向いたような気がしました。


†††


「出来てる?」
「………そう、願います」

魔法薬が入った瓶を眺めてから、鞄の中にしまいます。迫り来る戦いに向けて私が出来ることを未だに探しながら、震えそうになる手はリドルくんの手を強く握ることで誤魔化そうとしていました。

「私が最初から持っていた分はハリー達に渡してしまいました」

フェインは頭のいい子です。うまくハリーに渡してくれたことでしょう。
鞄の中に入れた薬を思いながら私は顔をしかめます。

「私の力じゃ結局これしか……」
「………。急ごう」

先導するように歩き出したリドルくんに、私もついていきます。


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