それからハリーくんはずっと眠っていました。
ロンくんやハーマイオニーちゃんがお見舞いに来て、心配していきます。
私も隣のベットを伺いますが、まだハリーくんは目を覚ましません。

ハリーくん(そして私)のベットの回りにはたくさんのお菓子が溢れています。
全部、ロンくん、ハーマイオニーちゃん、フレッド先輩やジョージ先輩達からです。

本当はこの中にフレッド先輩とジョージ先輩から送られてきたトイレの便座があったのですが、衛生的ではない。とマダム・ポンフリーに没収されていきました。
思わず笑ってしまうと、先輩は嬉しそうに「やったかいがあったよ」と言ってくれました。

そして昨日、ドラコくんも私のベットの所にお見舞いに来てくれました。
運がいいのか悪いのかロンくんと鉢合わせしてしまい、2人ともマダム・ポンフリーに追い出されてしまったのですが。

「ダンブルドア校長先生」
「元気そうじゃの」

3日目の今日、ダンブルドア校長先生が来ました。
私とハリーくんの間にあった椅子に座り、私と軽くお話をします。

普通の生徒と同じように校長先生と話す機会なんてそうそうない私は、少し照れながらダンブルドア校長先生のキラキラした目を見ていました。

「実は、Ms.ルーピンの話は、リーマス・ルーピンから聞いておったのじゃ」
「え?」

急に校長先生が私を見て言いました。リーマスさんが私のお話を?

「君が違う世界から来たこと、これからの未来をある程度知っていることなどを、手紙でじゃが」
「そう、だったんですか。
 そのことはダンブルドア校長先生だけが?」
「おぉ、わしと、君とMr.ルーピンしか知らぬことじゃよ」
「……でも、どうしてですか?」

隠したかった訳ではありませんが、あまり広める訳にもいかないお話です。
それをリーマスさんがどうしてダンブルドア校長先生に?

「君は、これから起こる事を知っていてもなお知らないふりは出来ないじゃろうと、Mr.ルーピンが危惧しておった。
 だから君に気をつけ、守って欲しいと」
「………」

リーマスさんは、本当に私の事を考えてくれています。嬉しくなる反面、『みぞの鏡』で見た両親を思い出し、罪悪感にも苛まれます。

私は罪悪感を振り払い、でも、と声を出しました。

「でも、私、何も出来ませんでした。
 スネイプ先生が疑われていても、私、何も言えませんでした。
 他にもハーマイオニーちゃんがトロールさんに襲われて危なくなった時も、私、何も出来ませんでした」
「……これはあくまで推測じゃが…、君が何かをしようとしたときに何か変化はなかったかのう?」
「変化?」

私が何かをしようとした時に。
ハーマイオニーちゃんを探しに行った時や、クィレル先生が犯人ではないかと言おうとした時に。

「……あ、私…。とても頭が痛くなって…、それて1度気絶してしまって…」

そういうとダンブルドア校長先生は興味深そうに、微笑んでいました。

「きっとそれじゃろう。
 君はこれからの未来の筋道を知っている。だから、その筋道を外れたようなことをすれば、『何か』が君を止めようとしているのじゃろうて」
「……じゃあ、私がお話を変えていくことは出来ないんですか?」
「何か変えたい未来があるのかのう?」

キラキラした目が私を見つめていました。私は少し考えます。

『ハリー・ポッター』
私はあの映画を見て、笑って、泣いて、終われば面白かった。で、終われていました。
誰が死んだとしても、傷付いたとしてもお話の中でした。

ですが、今は。この世界で暮らしている今は。

「……変えたい、です。いい方向に。皆が幸せになれるように」

誰も死なないように。守れるように。

ダンブルドア校長先生はあくまで笑っていました。

「じゃが、無理はいけない。今は頭痛ですんでいるが、それこそ誰かの未来を変えてしまった時には、わしには何が起こるかはわからぬからの」
「はい。わかりました」

私は答えました。その時、ハリーくんが少し動いた気がしました。
私はばっとハリーくんの方を見ます。ダンブルドア校長先生もハリーくんを覗き込みました。

ハリーくんの目が開きます。ぱちぱちと瞬きを繰り返しています。

「ハリー、こんにちは」
「……! 先生! 『石』! クィレルだったんです。先生! 早く…」
「ハリーくん、ハリーくん、待って落ち着いて『石』は大丈夫です!」

目覚めて飛び起きたハリーくんを私は宥めます。混乱しているようでしたが、ダンブルドア校長先生と、隣の病室のベットにいる私を見て少し落ち着いたようでした。

「リク、僕はどのくらいここに?」
「今日で3日目です。ロンくんもハーマイオニーちゃんも、ハリーくんが起きたと知ったら安心できますよ」

にこりと笑うとハリーくんはまだ不安そうにダンブルドア校長先生を見ました。

「先生、『石』は……」
「君の気持ちをそらすことはできないようじゃの。
 『石』はクィレル先生は君から取り上げる事ができなかった。Ms.ルーピンの頑張りでわしが丁度間に合って、食い止めた。
 君たちは本当によくやった」

私は何もしてないです。と私は無言で首をぶんぶんと振っていましたが、校長先生は優しく微笑んでいるだけでした。

「先生があそこに? ハーマイオニーのふくろう便を受け取ったんですね」
「いや、空中ですれ違ってしまったらしい。
 わしがロンドンに着いた途端、わしが居るべき場所は出発してきた所だったとはっきり気がついたんじゃ。
 遅すぎたかと心配したが」
「もう少しで手遅れのところでした。あれ以上は『石』を守ることはできなかったと思います」
「ハリー。大切なのは君じゃよ…。君達があそこまで頑張ったことで危うく死ぬところだった。
 『石』じゃがの。あれはもう壊してしまった」

ダンブルドア校長先生の続けた声にハリーくんは呆然としているようでした。私もびっくりします。
『石』が無ければ校長先生の友人であるニコラス夫妻は死んでしまいます。

ですが、長い年月を生きてきた夫妻にとって、死は次の大いなる冒険に過ぎない。らしいです。


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