そして私が彼の手を取って立ち上がった時、再び爆音が響きます。一気に音の方向へ視線が集まります。そこではフレッド先輩と、魔法省からホグワーツに戻ってきたであろうパーシー先輩がそれぞれ一騎打ちをしていました。
ハリー達も即座に戦いに混ざります。駆け出す私に合わせるようにリドルくんもハリー達を追いかけました。

パーシー先輩が一騎打ちをしている相手のフードが戦いの最中外れます。そしてその人物が魔法省大臣であるシックネスだとわかると、パーシー先輩はニヤリと笑って大きな声をかけました。

「やぁ、大臣! 辞職すると申し上げましたかね?」
「パース、ご冗談を!」

呪いが飛び交いつつ、パーシー先輩の冗談に反応してフレッド先輩が朗らかな声を上げます。フレッド先輩は戻ってきてくれたパーシー先輩を見て、本当に嬉しそうにしていました。

そして杖を掲げていた私が新たに現れた死喰い人に呪文をかけようとした瞬間、焦燥感に顔を引きつらせたリドルくんが乱暴に私の腕を引っ張りました。
疑問を抱くよりも先に空間に響き渡る爆発音。私は自分の身体がリドルくんに強く抱きしめられるのを感じながら、それでもリドルくんごと地面に叩きつけられる痛みを覚えました。

爆音の後の数瞬の静寂のあと、私は短い息を繰り返しながら、私を抱きしめるリドルくんの安否を確認します。

「リドルくん…? リドルくん、大丈夫ですか?」
「僕はいい。リクは?」
「大丈夫です」

短く返事をして、私の顔を覗き込み安堵の表情をするリドルくんに微笑みを返します。
私達2人にかかった瓦礫を押し返して立ち上がり、ホグワーツ城の側壁が吹き飛ばされたのだということを理解します。

そして私はきょろきょろと一緒の空間にいたはずのハリー達やフレッド先輩とパーシー先輩を探します。
痛みに呻く声が聞こえて慌てて駆け寄ると、パーシー先輩が頭から血を流して目を閉じているフレッド先輩を抱えていました。私の血の気が一気に引いていきます。

「フレッド先輩!?」

彼の傍に近づいて、フレッド先輩の手に触れます。
頭から血を流しているフレッド先輩でしたが、私が握った手はまだ暖かく、彼が気絶しているのだと理解しました。

「頭に瓦礫が当たったみたいだけれど…、『運』が良かったよ。気絶しているだけだ」

パーシー先輩がそう言いながらフレッド先輩の顔を覗き込んだあと、次にロンの姿を探して、ハーマイオニーを助け出している姿を見て安堵していました。私も取りあえずは誰も死んでいないことを確認して安堵の息が溢れます。

「残念だけれど、一息つく余裕はないよ」

リドルくんがそう声を掛ける通り、壊れた城壁の先から大きな蜘蛛がこちらに向かっているのに気が付きました。私の口から思わず短い悲鳴が溢れます。
ロンとハリーが同時に呪文を叫び、少し離れた場所で私とリドルくんが同時に呪文を唱えました。大蜘蛛は仰向けに倒れて長い脚をビクビクと気味悪く痙攣させていました。

「仲間を連れてきているぞ!」

ハリーの叫び声が示すように、遠くに見える禁じられた森から、大量の大蜘蛛が溢れ出してきていました。
パーシー先輩とハーマイオニーが気絶しているフレッド先輩を運びながら、私達は移動を始めます。今のホグワーツの中はどこもかしこも戦いで溢れ、安全な場所がないように思えました。

迫り寄ってくる大蜘蛛に炎をぶつけながら追い払っていると、私達とハリー達の間に死喰い人が上階から階段の手摺を超えて割って入ってきました。
それぞれ両サイドから死喰い人を退治しながら、喧騒の中、リドルくんが私に大声を当てました。

「リク! ここはもういい。移動するよ」
「でも、ハリー達は向こうに」
「ポッターぐらいの悪運なら放っておいても大丈夫だ。
 リクはやるべきことをやるんだ」

厳しい声をかけられて私は視線をまっすぐ前に向けます。リドルくんが見事命中させた失神呪文を片目で見送ったあと、私とリドルくんはまた走りだしていました。
走りながらもお互いに声を掛け合います。私は恐怖ゆえに、リドルくんは私の恐怖を和らげさせるための会話でした。

「これで分霊箱はナギニだけだ」
「ナギニを破壊してしまったら、残るはヴォルデモートさんの体内に残っている魂だけなんですか?」
「あぁ。『アイツ』は7分の1の魂しか持ち得ていないことになる」

分割された魂の力がどれほどのものなのか、私には理解が追いつきません。それでもそれが『良いこと』ではないというのは理解していました。

校内を走り続けながら、いたるところから現れる死喰い人を失神や気絶させていると、不意にまたリドルくんが私の身体を抱き寄せて、素早く盾の呪文を唱えました。
目にも止まらぬスピードに驚く間、再び廊下の壁が凹むように壊され、私達に向かってきた瓦礫は、盾の呪文を押し、私とリドルくんを城の外へと押し出しました。

2人で4階の窓の外へと投げ出されます。私の肩を強く抱いたリドルくんの、珍しく焦った表情が私の視界に映りました。私は迫り来る地面に向かって杖を向けて、口早に呪文を唱えました。

途端に固い地面が柔らかいクッションへと姿を変えました。私達2人はクッションにうまく落ちますが、勢いを殺しきれず流石に圧迫感に痛みすら感じます。
ですが、勢いが収まった時、私も、そして私をぎゅうと抱きしめるリドルくんも、無事だと分かり、私達は顔を見合わせてお互い安堵の息を零しました。

ようやっと盾の呪文を解いたリドルくんが珍しく弱気な言葉を零します。

「流石に死んだかと思った」
「でも近道できましたね」
「2度としたくない近道だ」

私の軽口にリドルくんはクスクスと笑って立ち上がりました。まだ心臓がバクバクと煩くなっている私も、リドルくんから差し出された手を取って立ち上がります。
4階から一気に1階の中庭にまで落とされた私達は、迫り来る巨人を遠くに見据えながらホグワーツの大きな玄関へと向かいました。

既にいたるところから死喰い人が侵入しているといえども、ホグワーツの玄関は一応の最前線らしく、数多くの生徒達が巨人や大蜘蛛達と対峙していました。
私とリドルくんもその多くの生徒達の中に混ざります。リドルくんが再び緑色の巨大な炎を生み出し、大木を振り回す巨人の足元をすくって転ばせました。

数人の視線がリドルくんや私に向きます。全く気にしていない様子のリドルくんでしたが、生徒達の中に混ざって1人、何故かホグズミードのホッグズ・ヘッドのバーテンダーさんがいて、リドルくんは怪訝そうに視線を向けました。

ですが、バーテンダーさんが振り返ってリドルくんを見たとき、その目が深いブルーの瞳をしているのに気が付いて、リドルくんはなにか思い至ったのでしょう。1人の名前を出しました。

「…あぁ、そうか。アバーフォース、だったのか」

私は視線でリドルくんにどなたか問います。アバーフォースさんは戦いの中で、じぃとリドルくんを睨むように見ていました。
そしてリドルくんはアバーフォースさんから視線をそらさないままに私の問いに答えてくださいます。

「ダンブルドアの弟だよ」
「え? そ、そうなんすか?」

ダンブルドア校長先生に弟さんがいただなんて知りませんでした。
私が知ろうとしていなかっただけかもしれませんけれども。

ダンブルドア校長先生とヴォルデモートさんは絶対的な敵対関係にありました。
そして今ここにいるのはそのダンブルドア校長先生の弟さんと、ヴォルデモートさんの分身といってもいいリドルくん…。

私はどこか気まずさを感じてリドルくんの腕に触れます。アバーフォースさんを睨み続けていたリドルくんでしたが、私が腕に触れると彼は苦笑を零しました。

リドルくんは溜め息と共に杖を握り直して、ちゃんと私に向き直ってから、いつものように私を甘やかすような優しいキスを髪に落としました。

「……僕はここに残って城を守るよ。
 この場に誰がいようが知ったことじゃない」

彼は私の髪に口をつけたままそう言葉をかけました。私はリドルくんの胸元辺りに視線を向けてから、そして彼を見上げます。
きっと心配そうな表情でリドルくんを見上げていたのでしょう。リドルくんは優しく微笑んで私の頬を撫でてくださいました。

「ヴォルデモート卿が、この城を守るって?」

アバーフォースさんの怪訝そうな声に、リドルくんは少しだけ無言になったあと、変わらず微笑みながら私を見つめていました。
リドルくんの赤い目は酷く優しげでした。

「僕は『リドル』さ」

それはずっとずっと『トム・リドル』という名前を嫌っていたリドルくんから出た言葉とは思えずに、私は大きく目を開いて驚いていました。
ですが、すぐに真剣な表情になったリドルくんに合わせて、私も真剣な表情でリドルくんを見つめました。リドルくんの手にはいつの間にか黒い日記が握られていました。

「日記はリクが持っていて。僕はリクと共にありたい」
「…わかりました」

手渡された日記を両手で包んで、私はポケットにしまいこみます。日記に手を重ねていると、リドルくんの珍しく不安げな声。

「気をつけて」
「リドルくんも」

微笑みかけて、私は彼に背を向けて駆け出しました。


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