息をのんだ私は自分自身が縛られていることも忘れて、駆け出そうとします。ですが、数歩も歩くことが出来ないまま、そして。

その一瞬の間に沢山のことが一斉に起こりました。

禁じられた森の方から沢山の声が聞こえてきたかと思うと、ハグリッドさんの弟であるグロウプが城の側面から大地を揺るがしながら現れたのです。
グロウプさんを援護するようにさらに現れるのは、大量の蹄の音と弓弦の音。そして死喰い人の上に降り注ぐ矢達でした。ケンタウロス達に不意をつかれた死喰い人は隊列を乱して、次々に杖を抜いていきます。

火に包まれていたロングボトムくんを真っ先に助けたのは、ホグワーツ側から出てきたリドルくんでした。
リドルくんはロングボトムくんにかけられていた『金縛りの術』を解いて、そのまま私を縛っている縄を握るルシウスさんの手元に呪文を向けました。ルシウスさんは再び私の縄を掴もうとはせず、喧騒に紛れてドラコくんを探し出すために走りだしていきました。

焼き落とされた縄に私が自由になります。それと同時に身動きができるようになったロングボトムくんが、燃えている組み分け帽子の中から何かを取り出しました。

輝くルビーの柄が一瞬だけ見え、次の瞬間にはロングボトムくんはグリフィンドールの剣で、ヴォルデモートさんの足元にいたナギニの首を叩き落としていました。

巨人のぶつかり合う音、荒々しいケンタウロス達の蹄の音に包まれる中、ナギニの首が高々と空中に舞います。
ヴォルデモートさんの怒声は沢山の音の中に紛れてしまいました。

怒りに満ちたヴォルデモートさんとやりきった顔をするロングボトムくんの間に、誰が出したかわからない『盾の呪文』が現れ、ロングボトムくんに向けられていた『死の呪文』がはじかれます。

喧騒の中でリドルくんに向かって走り出した私。
リドルくんが悲痛な顔で私に手を伸ばす瞬間、私は急に縄で縛られた両手を引かれて、勢いよく転んでしまいました。縄の先を、いつの間にかヴォルデモートさんが握っていました。

何もかもが混沌とする再戦の中、リドルくんは特別声を張り上げるわけでもなく、怒りを浮かべているヴォルデモートさんに声をかけていました。

「本当、ハリー・ポッターを殺し損ねてから僕達の計画って崩れてばかりだよね。
 部下が誰もいなくなって、身体の復活に時間がかかるし、あれだけ必死に作った分霊箱は壊されるしで…。
 たった1人の子供を殺せないし…、奪えない」

リドルくんの視線はちらりと私に向けられました。ヴォルデモートさんはリドルくんの視線の意味を理解しているようでした。

「それがどうした…。もうポッターは殺した! …リクもここにいる!」
「僕は死体が動くとは思えないけどね」

静かにリドルくんが言葉を零します。沢山の喧騒の中でハリーを抱えていた筈のハグリッドさんが大声で、ハリーを探す声が私達の耳に飛び込んできました。
この場にいたはずのハリーがいなくなったのです。ヴォルデモートさんの視線が軽くあたりを彷徨い、すぐに忌々しそうに舌打ちを零しました。

「……もう1度殺すだけだ」
「そう。でも、リクは君のものじゃない」

再びリドルくんの杖先から炎が生み出され、炎はヴォルデモートさんが持つ縄に向けられました。ヴォルデモートさんの手が炎に包まれますが、彼は縄を離そうとはせず、やがてすぐに縄が焼ききれて私は再び自由になります。

自由になってリドルくんの元に向かうと、リドルくんはヴォルデモートさんから視線をそらさないままに「そのまま走り続けて」と短く答えました。

途端に始まるリドルくんとヴォルデモートさんの戦い。
私は両手を縛られたまま、何をすることも出来ず、そのまま走っていきます。

暫く走ってホグワーツの壁に背中を預けて、縄を解こうとしますが、なかなか外れてはくれません。縄を解いてくれたのは、私を見つけ駆けつけてきてくれたリーマスさんでした。
泣き出しそうな彼に身体を強く抱きしめられて、胸がいっぱいになります。

私はリーマスさんの背中に手を回して抱きしめ返します。ですが、お互いすぐに離れて杖を構え直しました。辺り一面、どこもかしこも戦いの閃光が走っていました。
背中を合わせて飛んでくる呪文を弾きます。近くにいたトンクスさんも私達のすぐそばに来て、3人で小さな輪を作って背中を合わせて戦い始めました。

遥か遠くで見えるリドルくんとヴォルデモートさんの戦い。迫り来る死喰い人を退けつつも私の意識はそちらに向けられてしまいます。
ヴォルデモートさんが失神呪文を放ち、それがリドルくんに命中して彼の身体が吹き飛ばされたのを一瞬だけ見てしまったあと、私を呼ぶ声が響きました。

「見ぃつけた!! 気味の悪い穢れた狼の娘だ!」

杖を楽しそうに降っているレストレンジさんの姿が目の前にありました。
私の背中を守っていてくださっていたリーマスさんやトンクスさんが、レストレンジさんの声に気がついて、2人とも私を庇うように前に立ちました。
レストレンジさんの杖先が私達に向きます。

「家族まとめてシリウス・ブラックの所に送ってやるよ!」

杖先がリーマスさんに向けられているのを見て、咄嗟に私の身体が動きます。リーマスさんを押しのけて前に飛び出ます。
私が盾の呪文を唱えるよりも早く、杖の先がリーマスさんから私に変えられるのが見えて、指先から血の気が引くのを感じました。

リーマスさんの悲鳴のような怒声が聞こえる中、レストレンジさんの目がギラギラと輝いているのを見えたあと私の視界が緑一色で満たされました。


†††


聞こえたのはリドルくんの怒っている声でした。私の名前を何度も呼ぶ彼に内心溜息をつけます。

そんなにレストレンジさんを怒らないであげてくださいよ。レストレンジさんはヴォルデモートさんが大好きで大好きで、その分私が憎かっただけなんですから。

「リク! 立て!! ぼんやりするな!」

立てって…そんな無茶な。私はもう、死んで


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