急速に意識が覚醒し、視界がはっきりとしてきます。横に倒れていた私が見るのはリーマスさんの背中と、トンクスさんの背中と、そしてリドルくんの横顔。

「あれ…? 私…」

頭がぼんやりとするということ以外は特別痛みも感じていない私は、困惑の声を零しながら握った杖を見つめました。
痺れを切らしたリドルくんが私のすぐ横に片膝をつけます。彼は先程ヴォルデモートさんに飛ばされた時に出来たであろう傷から、血とはまた違った透明な何かを零していました。

「リク! とにかく立て!!」
「何が、起きたんです?」

リドルくんが言うとおりに立ち上がって私はすぐに杖を構えます。リーマスさんが困惑と安心とを含ませた目で私を見ていました。

「その『印』だ」

私達の疑問にリドルくんが素早く答えました。そしてまた飛んできた緑色の閃光を弾き返します。
少し遠くでは私に『死の呪文』を放ったはずのレストレンジさんが倒れていました。ぴくりとも動かない彼女は死んでいるように見えました。

『インセンディオ(燃えよ)』の呪文で辺りを牽制しながら、私はリドルくんの話を聞きます。

「それは『ヴォルデモート卿』が考案した呪詛返しになってる。リクに掛けられた呪い全てを跳ね返すものだ。
 だからこそ『アイツ』はリクに呪いを絶対にかけない。呪いなんてかけたら自分に跳ね返ってくるからね。
 まだその呪いを解かなかったんだ。今でもリクを殺す気は無いんだろう」
「………」

言葉を聞いて黙り込んだ私に、リドルくんは咎めるような声をかけました。

「だからって変な希望を持つなよ。
 今までのような待遇は無くなる。奴隷か何かにしてずっと生かし続けるつもりなんだろうから」

私は視線を彷徨わせて、戦っているであろうヴォルデモートさんの姿を探します。舞い上がる砂塵に紛れて誰がどこにいるのか全くわかりませんでしたが、遠く遠くに黒い影が見えた気がして、目を細めました。
それがヴォルデモートであると確信するともに、リドルくんが私の隣でにっこりと微笑みました。

「もう少しなんだろう?」

物語の終焉は、もう何十分も残されていません。
長かったお話もこれでもう少しで終わりを告げるのです。

私はリドルくんに微笑み返して、彼に手を伸ばしました。リドルくんも微笑んだまま手を伸ばそうとしました。

そしてリドルくんのその手が半透明になっているのに気がついたのは、私とリドルくんもほぼ同時でした。

「え…?」
「……。本当、僕の計画は崩れてばっかりだ」

苦笑を浮かべたリドルくんは伸ばしていた手を引いて、私に言い聞かせるように言葉を続けました。

「元々僕は存在していないようなものだ。死ぬんじゃない。消えるだけだ」

私は目の前で消えようとしているリドルくんに嫌々と首を左右に振ります。
リドルくんも最後までずっと一緒にいて下さると思っていた私は、突然訪れる別れを理解出来なくて彼に触れようとローブに手を伸ばします。
ですが、その手は空を切って、それを見ていたリドルくんは寂しそうに笑うだけでした。私は声を張り上げます。

「待って、待ってください! 嫌ですよ!!
 私はもう誰にも居なくなって欲しくないんです!」
「ほら、泣いたら前が見えないよ」

ぼたぼたと溢れ出した涙を、リドルくんは笑います。私の静止の声など聞こえないとでもいう風に、彼は私を抱きしめる素振りをして囁きかけました。

「あの教師と幸せに。僕の、大好きな――」

言葉は最後まで聞くことが出来ませんでした。ゴーストのように半透明になっていったリドルくんは最終的に、私の目には見えなくなって消えていってしまいました。


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