校内は騒がしい。
グレンジャーが襲われたのもあり、さらにはここの校長が委員会に追い出されたらしい。
さらには森番もいなくなり、学校は騒然としていた。
「君はリクの所に行かなくてもいいのかい?」
ここは秘密の部屋。学校の地下に作られた隠し部屋だ。
パーセルマウスが使える者しか立ち入ることは出来ない。
そこに倒れた黒い日記の側にはヘビみたいな赤い瞳をしたリドルが、ゴーストのような半透明な姿で座っていた。
黒い日記に書き込みすぎたウィーズリー妹の魂を削って、リドルはそこに朧げだが、存在していた。
本当、リクの魂が削られなくてよかったと思う。
ぼんやりそう思っていると、隣のリドルはクックッと笑っていた。なんだこいつ。
「君はリク以外の人間に興味はないみたいだね」
なんだこいつ超能力者か。馬鹿見たいにそう思ったが、子供の姿とは言え闇の帝王。開心術ぐらいは使えるか。
『一応、リクが主だし』
「僕は?」
『その主が気にかけてる奴。俺からしたら赤の他人』
きっぱりと言ってやると闇の帝王はまたクスクス笑って頬杖をついた。
何がそんなに楽しいんだが。
あ、わかった。俺はこいつが嫌いみたいだ。
何故か? それはリクを危険な目に合わせるからに決まってる。
「あぁ、そうだ。もう少しでリクがここに来るよ」
『はぁ?』
「ジニーに連れて来るように『命令』した。
リクは僕のだ。ここに来る権利はある」
いつからリクはリドルの所有物になったんだか。
呆れていると、リドルの言った通り、ウィーズリー妹と、その後ろにリクを乗せたバジリスクの姿が見えた。
違和感。バジリスクがリクを床に横たえた時、リクは頭から血を滲ませているのが見えた。
俺の怒声が後ろのリドルにぶつかる。
『リクに何をした!!』
「僕じゃないよ。気絶させたのはジニーだろ」
涼しい顔のリドルを無視し、俺はリクの身体の上で落ち着いた。
ゆっくり近付いてきたリドルはジニーの杖を手に取ると、リクの頭にそれを向けた。
「エピスキー(癒えよ)。…これでどう?」
『当たり前だ』
リクの傷が瞬時に塞がる。
少し離れた場所ではウィーズリー妹が身体を横たえていた。
残念ながらウィーズリー妹まで助ける義理はないし、余力も俺にはない。
リドルはリクのすぐ横に腰を降ろしてリクの頬を撫でていた。
その瞳はリドルからは初めて見る『慈愛』にも似た空気を感じて、俺はまた声を荒上げた。
『リクに触るな。あんたが闇の帝王だろうとなんだろうと、俺には関係ないんだ。
目的があるならさっさと済ませろ』
「わかってるって、煩いなぁ…。ったく早く起きなよ」
油断も隙もない。といった所か。
リドルは散々リクを玩具というが、俺からみたらそれ以上の感情があるように見える。
本人にそれを言っても肯定はしないのだろうが。
リクの身体の上で、リクの心音に耳を澄ませていると、うっすらと瞳を開けたリク。
「リドルくん……?」
「おはよう、リク。随分、お寝坊さんじゃないか」
最初にリドルを呼んだのは気に食わないが、そのあと安心した顔で俺を抱きしめたから良しとする。
リドルの不満げな声だけが響いた。
突然、リクはウィーズリー妹の名前を叫んだ。
優しくて馬鹿なリクは自分の安全よりも他人を優先する。俺とは違って。
倒れたウィーズリー妹に駆け寄ったリクは、数瞬悩むように瞳を閉じると次にリドルに向いた。
「……リドルくん、日記を出してください」
「は?」
立ち上がったリクはリドルを見つめていた。
ウィーズリー妹を元通りにし、その変わりにリクがリドルに魂を注ぐというのだ。
そんなことをすれば今倒れているウィーズリー妹の場所に、リクが倒れる事となる。
リクは馬鹿か。自分の身の安全だけ確保すればいいのに。
俺が制止の声を上げるより先に、リドルがリクの手を掴み、引いて、リクの身体を抱きしめやがった。
「嫌だよ、リク」
ニヤリと笑うリドルは狂気と、独占欲を孕んだ瞳をしながら抱きしめたリクの髪を撫でていた。
笑いながらも、手は優しくリクを撫でる。
「日記も、この肉体も、渡さない。
リクも、渡しはしないさ。
ね? 君は僕の玩具なんだよ?」
リクの身体を少しだけ離したリドルが浅く微笑みながら、リクの額に軽く口づけをしやがりやがった。
真っ赤に頬を染めて慌てるリクに、俺はリドルへと文句を言った。
『リクで遊ぶなっ』
「なんだよ。煩いなぁ、さっきから」
舌打ちをするリドルに腹をたてていると、秘密の部屋にポッターの声が響いた。
ウィーズリー妹を助けに来たのだろう。
リドルはリクを強く壁に押し付けると、そこから動くな。と警告をした。
そしてリドルとポッターの戦いがゆっくりと始まった。
†††
簡潔にいうと勝ったのはポッターだった。
ウィーズリー妹は無事に助けられ、バジリスクは死に、リドルの日記もバジリスクの牙に貫かれ、リドルは死んだ。
バジリスクの犠牲者達も復活し、ホグワーツ側としては完全なる勝利だった。
だが、リクは。
校長室の前で座るリクの表情は浮かばれない。
ホグワーツとしては勝利だったが、『全てを守る』気だったリクにはリドルの死は『敗北』でしかなかった。
リドルは敵だ。リクはそれも理解しているのか、困ったように眉を下げてしゃがみ込んでいた。
暫くリクの肩に乗っていたが、リクが元気を取り戻すのには、俺はまだまだ役不足だった。
リクの足元で俺の存在を気付かせる。
リクは俺を見ると弱々しく微笑んだ。
「………ごめんなさい、フェイン…今は私、疲れていて…後でいいですか?」
謝るなよ。リクは俺の。俺の、
元気のないリクに苛々しつつも、俺はリクを無理矢理立ち上がらせた。
「……どこか行きたいんですか?」
行きたいんじゃなくて、連れていきたいんだ。
俺じゃあリクを元気にはさせられない。
ならば、リクに元気を与える事の出来る奴の所へ。
俺が出来るのはこのぐらいしかない。
そして地下牢教室に向かい、見えたスネイプにほんの少しだけリクの表情に色が戻った。
俺の世界もやっと色付く。