言葉を聞いて私はぱちぱちと瞬きをします。ハリー・ポッター!? 本の主人公さんが今、目の前に!
というか、気付かなかった私にびっくり。こんなに可愛い系の顔立ちだったんですね。
じゃあ隣の大きい方はきっとハグリッドさんですね。

1人で勝手に納得して、私はポッターくんに微笑みかけます。

「じゃあポッターくん、これからお買い物ですか?」
「ハリーでいいよ。リクも買い物?」
「いいえ。私のお買い物はもう終わっちゃいました。
 今はリーマスさ…えっと、…私の保護者さんが荷物置いて来てくれてるんです。私は留守番中です」

にぱと笑うと、ハリーくんも笑い返してくれました。隣のハグリッドさんが銀時計を取り出して時間を確認していました。

「ハリー、もう行かんと…」
「あ、ハグリッド待って。
 じゃあね、リク。ホグワーツで」
「はい。ホグワーツで」

ハリーくんに手を振ります。周りにいた人が羨ましそうに私を見ました。照れちゃいます。

ハリーくんがいなくなったあと、私はクィレル先生を見上げました。
そういえば自己紹介の途中だったような。

「……。
 リクです」
「く、クィレルです」

改めて自己紹介。クィレル先生はきょどきょどしたままでしたが、私は思わず笑ってしまいました。

「リクちゃん、お待たせ」

リーマスさんが暖炉から帰ってきました。
くたびれたカーディガンがなんだか好きで、またにこにことしてしまいます。

私はクィレル先生に頭を下げてから、リーマスさんに駆け寄りました。

「リーマスさん!」
「ご飯食べ終わった?」
「はい。さっきまでハリーくんがいたんですよ」
「ハリー? ハリー・ポッターかい?」

こくこく頷くとリーマスさんは少し残念そうな顔をしました。

「へぇ、私も久しぶりに会いたかったな」
「ハリーくんも今年1年生なんですって。
 同じ寮になれたらいいですねぇ」

私はリーマスさんと同じグリフィンドール寮がいいんですけど。
そう言うとリーマスさんは照れたように私の頭を撫でてくれました。


†††


9と3/4番線。

かろうじて映画を覚えていた私はちゃんと1人でもホームに入ることが出来ました。

はい。1人です。

リーマスさんは今晩、満月でしたので、お見送りには来れなかったのです。
でも出る前に私をぎゅうとしてくれました。ふふ、嬉しいです。

他にも沢山の見送りの人がいました。私はその中をくぐりながら空いていた席に着きました。

トランクを棚に入れようとしますが、……重いです。全然持ち上がる気配がありません。
諦めたくなりますが、必死にそのトランクを持ち上げます。どうにか発車する前に乗せておきたい!

「大丈夫なのか?」

頑張っていると、金髪の男の子が入ってきました。雰囲気的に1年生だと思います。
私が困ったようにはにかむと男の子は何も言わずに私のトランクを棚に上げてくれました。なんて英国紳士!

私はぱたぱたと手を振ります。

「ありがとうございます! この子、重たくて…」
「いや、大丈夫だ。それよりこの席は空いてるのか?」

男の子は私が座っていた反対側を指しました。私がコクコクと頷くと、男の子は私の反対側に座りました。
にこりと笑って私から自己紹介。

「私、リク・花咲といいます。今年、1年生になります」
「花咲? もしかしてジャパニーズなのか?」
「はい。日本生まれ日本育ちですが、今は魔法使いの方と過ごしています」
「……ふぅん。僕はドラコ・マルフォイだ。僕も今年入学だ」
「マルフォイくん」

覚えるように繰り返します。
…あ、ハリーくんのライバルさんって、マルフォイくんではありませんでしたか。映画の彼と顔が今、一致しました。

マルフォイくんは私が日本生まれだと言うと少し顔をしかめました。
確か純血主義さんなんでしたっけ。なんとなく悪いことをしてしまった感。

ですがめげてはいけません! 積極的に話しかけていきたいと思います!

「マルフォイくんは何処の寮に行きたいとかあるんですか?」
「僕は絶対スリザリンだ。父上も母上もスリザリンだったんだ。
 間違ってもグリフィンドールになんか入れないよ」
「え…。私はグリフィンドールに入りたいなと思ってたんですけど……」

また顔をしかめまるマルフォイくんに私は苦笑を返しました。
振るネタを間違ってしまった気がしますが、気にしては、いけない筈です。た、ぶん。

その時に通路に販売カートが通りました。おば様がコンパートの中を見て私達に声を掛けます。
マルフォイくんは立ち上がりましたが、私は首を振りました。彼が振り返ります。

「買わないのか?」
「はい。私、大丈夫です。お金あまり使えませんし…」

私はマルフォイに手を振って断りました。
リーマスさんから頂いたお小遣いも、大事に使っていかなくてはなりません。

ぼんやり、がたんがだんと揺れる窓の外を見ていると、買い物を済ませてきたマルフォイくんが沢山のお菓子をテーブルに広げました。
色取り取りのお菓子に(しかも見たこともないお菓子です!)少しだけ羨ましくなったり……、し、してませんよっ。

「何かやる。好きなの選べばいい」
「え? でも、いいですよっ。マルフォイくんの分ですし…」
「女性が食べてないのに、僕だけ食べてる訳にもいかないだろ?」
「…、英国紳士さんです……!!」

感動。リーマスさんもマルフォイくんも、英国には紳士ばかりで感動です。じゃ、じゃあ。お言葉に甘えて。

「蛙チョコ…?」
「はい。蛙チョコです。お家の人もこれ好きなんで」

沢山のお菓子から選んだのは、リーマスさんからよく貰ってました蛙チョコでした。
マルフォイくんは不思議そうに私を見ていましたが、私は幸せ。

もうすでにホームシックな訳ではありませんよ!

「うん、美味しいです」
「……。
 花咲もスリザリンに来ればいいのに」
「私はグリフィンドールがいーのですー。
 寮が違くても仲良くしてくださいね」

私が笑うと、マルフォイくんがやっと笑って下さいました。


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