コンパートメントの中は今年も満席だらけで、私はフレッド先輩、ジョージ先輩、ジョーダン先輩のコンパートメントにお邪魔させて貰いました。
「リク、これ食べてみろよ」
「はい。なんでしょう、コレ? 紫色ですけど…」
「やめろよジョージ、リクに何でも食べさせるのをさ」
「いいって、リー。ほらリク、これは?」
「綺麗な色ですねぇ。今度は緑です」
「ったくフレッドまで」
フレッド先輩、ジョージ先輩が開発したと思われるお菓子を口にいれながら、苦笑をこぼすジョーダン先輩が見ていました。
ちなみに食べると動物の鳴き声が口から出るクッキーや、色んな味が楽しめるキャンディ、犬の耳が生えるタルトなどがありました。
列車を降りてもまだ効力の切れていなかった犬耳に、出会ったハーマイオニーちゃんが悲鳴を上げていました。
犬耳。とても可愛くてお気に入りです。リーマスさんにも食べてもらいたいです。
新入生歓迎会が始まっても、ハリーくんとロンくんの姿は見えませんでした。
ハーマイオニーちゃんの心配顔に切なくなります。
「あの人たち、全く何してるのかしら…」
ハーマイオニーちゃんが料理を食べながら、呟きました。
やってきたロックハートさんはお話通りにDADAの先生となり、沢山の女の子の歓声を浴びていました。
ハーマイオニーちゃんの頬が少し染まっていたので、私は苦笑を何度も零していました。
そこでまた違った小さな、ざわざわとした噂が聞こえてきました。
生徒が車を飛ばしてホグワーツの暴れ柳に突っ込んだ。と、どこからか流れてきます。絶対にハリーくん達です。
その話をフィネガンくんとトーマスくんが話し合っています。
話し声を遠く聞いていると、ハーマイオニーちゃんの心配顔が強くなりました。
「………まさかとは思うけどハリーとロンのことじゃないわよね」
「ですが、そんな感じが、しますね…」
怪我していなければいいんですけど…。
心配のまま歓迎会が終わってしまい、ハーマイオニーちゃんと談話室に戻る途中で、噂のハリーくんとロンくんを見つけました。
「ハリーくんとロンくんですよ」
「やっと見つけた! どこに行ってたの?
バカバカしい噂が流れていたわよ。まさかほんとに空を飛んでここに来たの?」
「お説教はやめろよ」
「心配したんですよ」
ハーマイオニーちゃんと私で頬を膨らませているとハリーくんがたじたじとしていました。
「アー、うん、いいから新しい合言葉教えてくれよ」
「『ミミダレミツスイ(ワトルバード)』です」
ハーマイオニーちゃんがまだ言葉を続けようとしていましたが、パッと開いた寮の先からの拍手で掻き消されてしまいました。
グリフィンドール寮生はまだみんな起きてハリーくん達を待っていたようです。歓声がハリーくんとロンくんを包みます。
「やるなぁ! なんてご登場だ!」
ジョーダン先輩が笑いながら叫んでいます。しかめっつらのハーマイオニーちゃんの隣で私は苦笑をこぼしていました。
ハリーくん達が寝室に上がって行くのを見送ってから、私はハーマイオニーちゃんの手を握りました。
「お疲れ様、ハーマイオニーちゃん。
今日はもう寝ましょう?」
「……そうするわ。リクも寝るでしょ?」
「はい。荷物は明日解く事にします」
私とハーマイオニーちゃんで寝室に向かい、それぞれ1ヶ月ぶりのベッドに寝転がりました。
いつものように少し厚着をして、寝転がりました。
†††
私が寝ると、幽体離脱をしているみたいに、ある場所へと意識が飛んでいきます。
そのアズカバンで、私は変わらず毎晩シリウスさんとお話をしていました。
「こんばんは、シリウスさん」
「こんばんは、リク。進級おめでとう」
リーマスさんの友人のシリウスさん。世間では極悪だなんて言われていますが、実際は友人思いのとってもいい人です。
いつものようにシリウスさんの隣に腰を下ろして、2人並んでお話です。
今日の話題はもちろんハリーくんとロンくんの空飛ぶ車事件です。
また朝まで彼とお話をしていました。
やっといつものホグワーツでの暮らしに戻ってきたような気がします。
†††
次の日の朝、大広間からは大きな怒鳴り声が聞こえてきました。
ロンくんのお母さんから『吠えメール』が送られて来たのです。
怒鳴り声が本物の100倍にも拡張されて、私は思わず涙目になりながらも耳を塞いでいました。
怒鳴り声が終わったあと、赤い封筒に火がつき燃え上がり、灰となりました。
ハーマイオニーちゃんが読んでいた本を閉じて、少しだけ清々しい顔でロンくんを見ていました。
「……当然の報いを受けたって言いたいんだろ」
「いいえ。ただ、リクを泣かしたのをどうしようかと」
「な、泣いてませんよ、ハーマイオニーちゃん…。びっくりしちゃっただけで…」
ロンくんがそこで申し訳なさそうに私を見ました。私は首を左右に振ります。
「あ、最初の授業は薬草学ですよ、行きましょーよ」
4人で温室に向かうと、スプラウト先生の隣にロックハートさ…、ロックハート先生が一緒にいました。
私は思わず背の高いロンくんの影に隠れます。
そしてあれよあれよという間にハリーくんが彼にさらわれて行き、私はひょこりと顔を覗かせました。
「なんだよ、リク」
「私、あの人が少し苦手で…」
「あぁ、なんだ。そんなこと当たり前だよ」
「あら、いい先生じゃない」
ハーマイオニーちゃんの言葉に私とロンくんが顔を見合わせてしまいました。
戻ってきたハリーくんを見計らって先生が授業を始めました。
強力な回復薬となるマンドレイクの植え替えでした。
そして予想外に大変だった植え替えに、終わった時には体中、泥だらけにして肩を落としていました。
それから変身術を受け、ロンくんの杖が悲惨な状態だったのに気付き、午前中は慌ただしく終わって行きました。
午後からは今年初めてのDADAの授業があります。実際、少しサボりたい気持ちになってしまいました。
そしてDADAの授業では1番最初にロックハート先生の事が書かれているペーパーテストをしました。
54問もある問いを30分間でこなし、これが成績に関わるだなんて! 泣きそうです! と内心叫んでいました。
ハーマイオニーちゃんが全問正解だなんて信じませんからねっ。
「さて、授業ですが…、気をつけて! どうか叫ばないようにお願いしたい。連中を挑発してしまうかもしれないのでね」
ロックハート先生は低い声で言うと、バッと籠の覆いをとりました。
中から出てきたのはピクシー小妖精と呼ばれる小さな、妖精達、20匹ぐらいでした。
フィネガンくんが思わず吹き出していました。
「連中は厄介で危険な小悪魔になりえますぞ! さぁ、君達がどう扱うかやってみましょう!」
私はその時にはすでに机の下に隠れていました。
近くにいたロングボトムくんの腕を引き、一緒に隠れました。
教室の中は悲惨な状態です。硝子は割れて、インク瓶はひっくり返り、シャンデリアが落下してきました。
肝心のロックハート先生はピクシーに杖を奪われて、教卓の下に潜り込んでいました。
チャイムが鳴ると同時に駆けて出ていく生徒に混じりたかったのですが、運悪くロックハート先生に見つかってしまい、結局4人でピクシー達を籠に戻すことになりました。
「プロテゴ(守れ)! ロンくん…大丈夫ですか?」
耳を噛まれているロンくんからピクシーを剥がします。
ハリーくんもピクシーをつまみ上げながら籠に戻します。
「本当…耳を疑うぜ」
「私たちに体験学習をさせたかっただけよ」
「体験だって?
ハーマイオニー、ロックハートなんて自分でやっていることが全然わかってなかったんだよ」
「違うわ。彼ってあんなに目の覚めるようなことをやってるじゃない…」
「ご本人はやったとおっしゃいますがね」
ロンくんの呟きに私は一生懸命頷きました。
そこで、飛んできたピクシーを避けて机に手を付くと、小さな痛み。
「っ」
「リクも大丈夫?」
「落ちてた硝子で指を切ってしまっただけですよ。大丈夫です」
掌から流れた血にハンカチを当てながら、今年のDADAの授業が全くもって楽しみではなくなってしまいました。