数日後、私とリーマスはダイアゴン横丁にいました。
教材を買っていただくためです。
「本当に、ありがとうございます」
「ううん。大丈夫だよ、これぐらい」
1冊1冊が予想以上に高価だったロックハートさんの本を、しかもリーマスさんに持って貰って、私はぺこりと頭を下げました。
リーマスさんは私と繋いだ手をぎゅうと握ってから、少し寂しそうに微笑みました。
「……私だってリクちゃんの父親なんだから、ね」
「…はい」
お父さん。そうです。リーマスさんは私のお義父さんなんです。
でも、やっぱりリーマスさんに迷惑をかけてしまうと思うと、私は一歩引いて、リーマスさんの負担にならないよう考えてしまうんです。
私はまだ、リーマスさんをお父さんとして見れていないんです。
寂しくなった私が俯きながら、でもぎゅうと手を握り返すとリーマスさんも強く手を握ってくれました。
「明日、ギルデロイ・ロックハートのサイン会だって、リクちゃん来る?」
「絶対行きたくないです」
思わず即答した私にリーマスさんがあははと笑っていました。
あ、でも、ということは明日ハリーくんもダイアゴン横丁に来るはずです。
少し揺れますが…、映画で見たロックハート先生…苦手だったんですよね…。私。
その時、私はなんだか見知った姿を目にして思わず足を止めてしまいました。
こちらに向かっていた彼も、止まっている私達を見て足を止めました。
私は少し俯きながら、リーマスさんの背中に隠れました。ぎゅー。
「やぁ、久しぶりだね。スネイプ」
「……リーマス・ルーピン。か」
なんでここにいるんですか、スネイプ先生!
スネイプ先生はリーマスさんの顔を見て、とっても不機嫌そうに顔をしかめています。
対してリーマスさんは笑顔。私はリーマスさんの後ろにいながら2人を見ていました。
「教師になったんだってね。 リクちゃんがお世話になってるよ」
「グリフィンドールの点数を随分と減らしているようだがな」
「増やしてもいるだろうから、釣り合いが取れていいんじゃない?」
な、なんでしょう…!! 見えない火花が飛んでいるような、そうではないような。
私に冷や汗がながれます。ドキドキ。
「リクちゃん、家に帰ってきてから君の話ばかりで、少し妬くなぁ」
「りりリーマスさん!? 私、別にスネイプ先生のお話ばかりとかじゃ…」
だんだん尻窄まりになる私の声。リーマスさんがにこにこしながら私の頭を撫でてくれました。
スネイプ先生を改めて見ると、なかば呆れたような顔をしながら私達を見ていました。
手には紙袋。きっと魔法薬でも入っているのでしょう。また何か調合するのんでしょうか。
じゃなくて。
「り、リーマスさん、あのまだお買い物…」
「あぁ、そうだったね。じゃあまたね、スネイプ」
「………」
「あの、えっと…また新学期によろしくお願いします…」
私が引っ張るようにリーマスさんを連れていきます。スネイプ先生の姿はもう私は見ていませんでした。
あぁ、緊張しました。なんで緊張したのかはわかりませんが。
今日のお洋服、お気に入りの服でよかったです。………よかった? えっと、別になんでもいいんですけれど。えっと?
「よかったね、リクちゃん」
…どこらへんがよかったの、でしょうか!?
また、む。とする私の頬をリーマスさんが面白そうに突きました。
†††
そして今年もキングズ・クロス駅にいました。
ですが今年は去年と違ってリーマスさんがお見送りに来てくれています。はぁ、幸せ。
「ハリーくんも、ロンくんも見かけませんね」
「この人混みだもの。きっとどこかにはいるよ」
確か、ハリーくん達は9と3/4番に入ることは出来ずに、空飛ぶ車で行ったはずです。
心配になりながらも、私はトランクを引いていました。
発車時刻が近くなってきて、リーマスさんと離れるのがまた寂しくなっていきます。
ぎゅうとリーマスさんが小さな私を抱きしめてくれました。
「また手紙書くからね」
「私も沢山書きますね」
「危ないことはしちゃ駄目だよ」
「………努力します」
困ったように眉を下げると、リーマスさんが笑いながら私の身体を少し離しました。
頭を撫でて貰ってから、私は列車に乗り込みます。
閉まっていく扉の反対側から、リーマスさんの顔を見つめます。
列車中から手を振る子供に混ざって、私もリーマスさんに手を振りました。
リーマスさんも私に手を振っていてくれました。
列車が発車しました。また長い、長い1年が始まります。