次の日になりました。
「朝食、しっかり食べないと」
「何も食べたくないよ」
「トーストをちょっとだけでも」
「お腹空いてないんだよ」
「ハリー、力をつけておけよ。シーカーは真っ先に敵に狙われるぞ」
「わざわざご親切に」
私はクィディッチ試合に緊張している様子のハリーくんのそばに行きました。
「おはようございます! 今日試合ですね」
「あー、うん。そうだよ」
「ハリーくん、右手出して貰えますか?」
首を傾げるハリーくんの手首に、私は昨日徹夜で作った『ミサンガ』を結びました。
「リク、これは?」
「ミサンガですよ。勝利のお守りになると思って…。
頑張ってくださいね」
笑うとハリーくんも笑い返してくれました。元気が出たようで嬉しくなります。
「絶対に勝ってくださいね!」
「もちろん!」
「私、この前、スネイプ先生に『今年はグリフィンドールが優勝ですから』って啖呵切ってきてしまったのです!」
「うっわ、なんてことしてるんだよ、リク!?」
ハリーくんの笑顔が少し泣きそうな笑顔へと変わりました。
†††
そして11時には競技場に沢山の人がつめかけていました。
私達も観客席の最上段で大きな旗(『ポッターを大統領に』!)を持っています。
フレッド先輩、ジョージ先輩の後ろについてハリーくんが出てきました! 審判のフーチ先生が声をかけます。
「よーい、箒に乗って」
笛が鳴り響きました。試合開始です。
「ハリーくーん!!」
私達は声のかぎり叫びます。ジョーダン先輩の実況放送が流れながら、クァッフルが飛び交います。
アンジェリーナ先輩にクァッフルが渡り…、やった! グリフィンドールが先取点です!
「ちょいと詰めてくれや」
「ハグリッド!」
ハグリッドさんが来て、私達はギュッと詰めました。
ハグリッドさんは首から大きな双眼鏡を下げています。
「俺も小屋から見ておったんだが…やっぱり、観客の中で見るのとはまた違うのでな。
スニッチはまだ現れんか、え?」
「まだだよ。今のところハリーはあんまりすることがないよ」
「トラブルに巻き込まれんようにしておるんだろうが。それだけでもええ」
暫く試合が進み、ファールなどがありましたが、まだグリフィンドールが勝っています。
その時、ハリーくんの箒がぐわんっと大きく揺れました。
私はちらりと遠くにいるクィレル先生を見ました。よくは見えませんが、じっと誰にもばれない程度には睨んでおきます。黒幕さんめ。
「一体ハリーは何をしとるんだ。あれがハリーじゃなけりゃ、箒のコントロールを失ったんじゃないかと思うわな………しかしハリーにかぎってそんなこたぁ……」
ハグリッドさんがブツブツと呟いています。
今はハリーくんは片手だけで箒の柄にぶら下がっています。
私は思わず顔を覆ってしまいます。大丈夫。大丈夫。
「思ったとおりだわ。スネイプよ……見てごらんなさい」
ハーマイオニーちゃんがロンくんへ双眼鏡を渡します。
「何かしてる。箒に呪いをかけてる」
「僕たち、どうすりゃいいんだ?」
「私に任せて」
ハーマイオニーちゃんが立ち上がり、走って行きました。私はそれを静かに見送ります。
ここで私が出来ることはありません。
またじっとハリーくんを見つめて、それから自分の両手を握って目を閉じました。
ハリーくんに贈ったミサンガに込めた願いを思い出し呟きます。
「ハリーくんを守ってあげてください…」
「リク、ネビル! もう見ても怖くないよ!」
ロンくんの声に私は目を開きました。
次に私がハリーくんを見たのは彼が口を押さえているところでした。
地面に四つん這いになり着地します。
コホン。と金色の綺麗なスニッチがハリーくんの口から手の平に落ちました。
「スニッチを取ったぞ!」
相手のスリザリンリーダーのフリント先輩が喚いていましたが、ジョーダン先輩は大喜びで試合結果を叫び続けています。
「グリフィンドール、170対60で勝ちました!」
†††
試合終了後、私達はハグリッドさんの小屋にいました。
ハリーくん達は何度も来ていたようですが、私は初めてです。
大きなファングに跨がったり、抱きしめたり、尻尾を追い掛けたりして、遊んでいました。犬、大好きなんです!
全くハリーくん達ととハグリッドさんの話には参加していませんね。
やっぱりスネイプ先生が疑われているようで、それをハグリッドさんが否定します。
ちなみに4階の立入禁止の部屋にいたという三頭犬の名前はフラッフィーというそうです。
「俺はハリーの箒がなんであんな動きをしたんかはわからん。
だがスネイプは生徒を殺そうとしたりはせん。4人ともよく聞け。おまえさんたちは関係のないことに首を突っ込んどる。危険だ。
あの犬のことも、犬が守ってる物のことも忘れるんだ。あれはダンブルドア先生とニコラス・フラメルの………」
「ハグリッドさん」
「あっ!」
私が小さくハグリッドさんを呼びましたが、ハリーくんは聞き流さなかったようです。
「ニコラス・フラメルっていう人が関係してるんだね?」
自分自身に腹を立てているハグリッドさんを見ながら、私は後ろからファングの頭に自分の首を乗せていました。