そしてクリスマス休暇に入りました。

ハーマイオニーちゃんはお家に帰ってしまって寝室は私の貸し切りです。
ロンくんとハリーくんがチェスをやっていたので、私もそれを見ていたりして過ごしていました。

「先生、あの薬があと少しになりました。また作って頂けませんか?」

クリスマスイヴの日。私は地下牢教室にいました。

金平糖の補充です。無くなるスピードがわかってきて、だいたい月に1回ぐらいの頻度で頂きに来ています。

「少しかかる。待っていたまえ」
「はい。わかりました」

先生は鍋を掻き混ぜています。もしかしたら丁度、今、作っていてくれたのかもしれません。

会話はやっぱりなかったので、私は教室の1番前に座って、静かにスネイプ先生を見ていました。

黒い髪、黒い服。指先が細くて長くて、とっても綺麗。
他の生徒には嫌われていて、でも。

「Ms.ルーピン」
「は、はい」

じいと見ていたら呼ばれました。いつのまにか金平糖の形になった薬が鍋の底に転がっていました。
30数個ほどしか出来上がっていません。調合がとっても難しい薬だとは聞いています。
また1ヶ月たったら頂きに来なくては。

「ありがとうございます、スネイプ先生。また来月頂きに来ますね」

スネイプ先生から答えはありません。

私はスネイプ先生から、とっても嫌われているようなのです。

ジェームズさんの息子であるハリーくんが嫌われてしまっているように、リーマスさんと一緒にいる私も嫌われているようでした。
少し、淋しい、です。何故淋しいと思うのかはわかりませんが。

私は扉に向かい、出ていく前にスネイプ先生に頭を下げました。

「では先生、メリークリスマス」
「……メリークリスマス」

聞こえた言葉に勢いよく顔を上げましたが、既にスネイプ先生は奥の準備室の方に行ってしまっていました。

少し頬が緩んだ私は金平糖の薬が入った瓶を両手で抱えて談話室へと戻っていきます。

そして、その事で気分が高陽していた私は、最近は慣れていたというのに、ホグワーツ内で道に迷ってしまいました。

休暇に入ってしまって誰もいません。ピーブズくんもいません。ピーブスくんはいないほうがいいかもしれませんが。

「………授業があるわけではありませんし…いいかな」

呑気に私は教室の散策を始めました。その内、知っている道に出るでしょう。

そして私はある教室に入りました。少し誇りを被ったその教室には、真ん中に大きな鏡があるだけでした。

「あ、れ」

鏡には『みぞの鏡』とかかれていました。

これは、確か人の『のぞみ』を映し出す鏡だった筈です。
ハリーくんはハリーくんの家族が映り、そして賢者の石を取り出したその鏡。

……私が今、本当にのぞんでいるものはなんなのでしょう。
もしかしたらリーマスさんでしょうか。リーマスさんに会えるのでしょうか。

なんだか気になってしまい、私は鏡をちらりとのぞきこみました。

「……あっ」

短い悲鳴。

私は鏡に背を向けて教室から飛び出しました。
がむしゃらに走り、とにかく階段を上がって、時々下がって、そしてやっとグリフィンドール寮に飛び込みました。

寮の談話室には誰もいませんでした。
空いていたソファーに座り、膝を抱え込んで顔を埋めました。息は上がっています。

嘘です。私は、そんなこと絶対にのぞんでなんかいません。
今の生活に充分満足していて、リーマスさんが大好きで。
さっき見えたのは、そうきっと、見間違いだったのです。絶対にありえないのです。

鏡には私の本当の日本に残してきた『両親』が見えたのです。

リーマスさんへの罪悪感が生まれます。


prev  next

- 15 / 281 -
back