「ハリーくん、ロンくん、ハーマイオニーちゃん!」
「リク、私、思ったんだけど…」
もう少しで10月に差し掛かろうとしていたある日、ハーマイオニーちゃんが私の頬を両手でぎゅうとつぶしました。なんでしょう?
「私達、もう1年過ぎも一緒にいるわよね」
「はい」
「私達、友達よね」
「はい!」
「1年も一緒にいる友達なのに、貴女ってば、まだ私達のことMs.やMr.付けで呼ぶの?」
ハーマイオニーちゃんの声にハリーくんとロンくんも私を見ました。深く頷いています。
「それ、僕も思った。ハリー『くん』じゃなくても、僕いいのに」
どうやら『くん』や『ちゃん』付けは翻訳されると『Mr.』『Ms.』になっているようです。
Mr.ハリー。確かに他人行儀かも知れません。
「んーと…ハーマイオニー。」
「うんうん」
「……ちゃん」
「ハーマイオニー。よ! リク」
笑うハーマイオニーちゃんがとっても綺麗でしたので、私も笑い返す事ができました。
「ハーマイオニー」
呼ぶと彼女は私をぎゅうと抱きしめてくれました。
†††
「ということがあったんです」
ハーマイオニーやハリー、ロンとの話をシリウスさんにしていた私は、少し照れたように笑っていました。
友達を呼び捨てにするだなんて、実は久しぶりだったので私の嬉しさもよっぽどだったのです。
にこにこと笑っていると、シリウスさんは逆に頬を膨らませていました。
シリウスさんが触れられない私の頬をつねりながら、正面を向かせました。
な、なんでしょう。
「私は君と1年一緒にいるよな」
「はい」
「友人だよな」
「はい!
あ、はい、でもシリウスさんは年上さんなんですから…」
シリウスさんを呼び捨てには出来ませんって!
私がぶんぶんと手を振るとシリウスさんは座っている私の顔を覗き込みました。
「本人が言っているんだからいいだろ」
「で、でも、シリウスさん」
「シリウス」
「……シリウス、さん」
膨れたままのシリウスさんが私の隣に座ったまま、いじけたようにしています。うぅ…。シリウスさんの、この姿にはあまり強く出られません…。
「じゃ、じゃあ、明日来たときに、その、さん付けはやめます」
「本当か?」
いじけていたはずのシリウスさんが笑顔を浮かべました。シリウスさんってば!
クスと笑った後、私はシリウスさんの頭を撫でました。
大人の方の頭を撫でるなんて初めてなのですが、シリウスさんは嬉しそうに笑ってくれました。
「はい。約束します。お友達ですもん」
「あぁ、少し年は離れすぎているかもしれないが」
ニコッと笑うシリウスさんを見ながら、朝日が差し込み始める監獄の窓を見て、私は立ち上がりました。
シリウスさんが少し惜しむように声をかけます。
「じゃあまた明日、来いよ」
「はい。明日また来ますね。
シリウス」
驚いた彼の顔を見ながら、私は目を覚ましました。
今日も素敵な1日が始まります。
†††
ハロウィーンが近づいてきました。
ハリーが『ほとんど首なしニック』さんの絶命日パーティーに誘われて、私達も彼のパーティーに行くことになりました。
パーティーでは何十人ものゴーストが飛び回っており、私はハーマイオニーの腕にしっかりとしがみついていました。
風味を強くするために腐らせた料理や、黒板をひっかくような音楽。
さすがに生身の人間には辛いものがありました。
最後にはがたがたと震えながら私達は後ずさりしながら、出口へと向かっていました。
「今からでもデザートとかは残っているかも知れませんよ」
私が大広間へと誘おうとすると、突然、ハリーが立ち止まり、じっと辺りを見回していました。
「ハリー?」
「またあの声なんだ…。ほら聞こえる!」
私やロン、ハーマイオニーには何も聞こえません。
ハリーは突然走り出し、3階の廊下を飛び回りました。私達も必死について回ります。
私の頭の端がじわじわと痛み出していました。まさか。
「みて!」
ハーマイオニーが廊下の隅を指差しました。何かが光っています。
そこの壁には、なんと血のような赤いもので文字が書かれていました。
『秘密の部屋は開かれたり
継承者の敵よ、気をつけよ』
そして松明の下にぶら下がっている猫、ミセス・ノリスを見て、私の手足はがたがたと震えました。
「ここを離れよう」
「助けてあげるべきじゃないかな…」
「ハリー、急いで」
私が戸惑うハリーの腕を掴んで走り出そうとすると、私の頭が鈍く、だが酷く痛みはじめました。
痛みに足が止まった数秒後に、パーティーが終わったらしい生徒達が私達を見つけました。
「継承者の敵よ、気をつけよ! 次はお前達の番だぞ『穢れた血』め!」
ドラコくんの大声に私の体から体温が奪われて行くのに気がつきました。
キッとドラコくんを睨んでいると、フェルチさんが人混みを押し分けてやってきました。
フィルチさんはミセス・ノリスを見ると叫び声を上げました。
「私の猫だ! ミセス・ノリスに何がおこったというんだ!」
叫ぶとフィルチさんはそのままハリーを指差しました。私もびっくりしながらハリーの腕を強く握りました。
「お前だな! お前だ! お前が私の猫を殺したんだ! あの子を殺したのはお前だ! 俺がお前を殺してやる! 俺が……」
「アーガス!」
そこでダンブルドア校長先生が私達の側に来ました。スネイプ先生、マクゴナガル先生、ロックハート先生もいます。
校長先生がミセス・ノリスを松明からはずすと、私達に呼び掛けました。
「アーガス、一緒に来なさい。君達もおいで」
1番近い部屋、ということでロックハート先生の部屋に向かいました。
静かに緊張したままついていく私達。私は不安になって、少しスネイプ先生を見ました。
机におかれた黒猫をダンブルドア校長先生とマクゴナガル先生がくまなく調べます。
その間ロックハート先生はあれこれと意見を言っています。
あまりこの場に相応しいとは思いませんでしたので、私は顔をしかめていました。
暫くすると、ダンブルドア校長先生が優しくフィルチさんにいいました。
「猫は死んでおらんよ」
「死んでない? それじゃ、どうしてこんなに…」
「石になっただけじゃ」
ダンブルドア校長先生が答えたあと、ちらりと彼は私を見ました。
こうなることを知っていたのか、と見透かすような目に私は視線をそらしました。
「どうしてこうなったのか、わしには答えられん…」
「あいつに聞いてくれ!」
フィルチさんがハリーを指差しました。ダンブルドア校長先生はきっぱりと否定します。
ハリーも反論しました。
「僕、ミセス・ノリスに指一本触れていません!」
「校長、一言よろしいですかな」
スネイプ先生が声をかけました。私はぷくと頬を膨らまします。意地悪さんです。
「ポッターもその仲間も、単に間が悪くその場に居合わせただけかもしれませんな。
とはいえ、連中は何故3階の廊下にいたのか? 何故、4人はハロウィーンのパーティーにいなかったのか?」
その言葉に私達は一斉に『絶命日パーティー』の話をしました。
スネイプ先生はそれでもまだハリーを睨んでいました。
「何故夕食も食べず、パーティーにも来る事もなく、3階の廊下に行ったのかね」
「………私達、疲れていて空腹よりも睡眠が欲しかったんです。ゴーストのパーティーはとっても寒かったので」
私がすらすらと答えていくとロンが目を丸くしていました。ハーマイオニーに肘で付かれていました。
スネイプ先生は私を睨むように見下ろしていました。が、私も見つめ返します。
頭の端がまたピリピリと痛みだしていました。