「疑わしきは罰せずじゃよ、セブルス」

ダンブルドア校長先生がいいました。スネイプ先生よりも、フィルチさんの方が憤慨しました。

「私の猫が石にされたんだ!」
「アーガス、君の猫は治してあげられますぞ。
 スプラウト先生がマンドレイクを手に入れられてな。十分に成長したら、すぐにもミセス・ノリスを蘇生させる薬を作らせましょうぞ」
「私がそれをお作りしましょう」

急にロックハート先生が声を上げました。

「私は何百回作ったかわからないぐらいですよ!」
「この学校では、我輩が魔法薬の先生のはずだが」

スネイプ先生が冷たく言った言葉に、とっても気まずい沈黙が流れました。
たじたじのロックハート先生がいました。思わずニヤリと笑うとスネイプ先生に睨まれてしまいました。

「帰ってよろしい」

ダンブルドア校長先生のかけた声に私達は扉に向かいました。が、ダンブルドア校長先生が私を引き止めました。

「Ms.ルーピンはわしと少しお話せぬかのぅ」
「……はい。よろこんで。
 ハリー、先に行っていて下さい。ゆっくり休んで下さいね。また明日」

ハリー達に手を振ると私はダンブルドア校長先生の前に立ちました。

彼はいつものように優しげな雰囲気をだしていましたが、私にはそれが酷く怖く思えました。
あぁ、どうやら私は校長先生が苦手なようです。

ダンブルドア校長先生と、スネイプ先生がロックハート先生の部屋から出ます。
マクゴナガル先生も不安そうに私を見ていましたが、ダンブルドア校長先生の言葉で納得したように踵を返しました。

廊下には私とダンブルドア校長先生、スネイプ先生の3人。

「今回のは何かハリーに関わりがあるのかのう」

世間話のようなダンブルドアの言葉に、私の頭がじわっと痛み出しました。
ダンブルドア校長先生は私を見て「無理はしないように」と言います。

この頭の痛みは、私が未来を変えようとすると発生するシグナルのようなものでした。

頭が痛み、酷いときは気絶をして私の存在をなかったことにしようとするみたいなのです。
そうすれば未来は変わらず、物語は筋書き通りに進むのです。

それを知っているのは私自身と、リーマスさんと、ダンブルドア校長先生。
もしかしたら、今ここにいるスネイプ先生も知っているのかも知れません。

じわじわと広がる頭痛を押さえながら、私は映画の内容を思い出して行きます。

小さく口を開きました。

「犯人はもちろんハリーじゃありません。ハリーは、ハリーにしか聞こえない声を聞いていて」

頭が痛い。息を潜めるように止めてから、私はまた話し出しました。
今、話せば被害者を抑える事が出来る筈。これから襲われる人達も、ジニーちゃんも、怖い思いをしないで済む筈です。

「今回、だけじゃないんです。今年、1年間、力を溜めて」

酷い痛みに私の足がふらりと揺れました。

止めようとするダンブルドア校長先生よりも早く、スネイプ先生がふらついた私を支えてくれました。
スネイプ先生からは薬品の匂いがして、何故か私の心臓が一瞬高鳴りました。

ダンブルドア校長先生が深く頷き、私を止めます。

「もうよい、ありがとう。でも無茶をしてはいけないよ」
「…………はい」

囁くように頷くと、私はスネイプ先生から手を離しました。

スネイプ先生を見上げて、改めて彼が長身な事に気がつきました。リーマスさんよりは小さいけれど。

「……ありがとうございます。
 先生方、おやすみなさい」

ぺこりと頭を下げて、私は談話室の方へ向かいました。

私が知っていることを全てを誰かに伝えられたら、未来はもっともっといい方向に変わるのに。
私はそう思いながらも痛みが治まらない頭を何度か摩っていました。


†††


最近。ドラコくんが私に話し掛けてくれません。
その逆もしかりで、私が話し掛けてもさっといなくなってしまうのです。

ハリー達に相談しようにも彼等は犬猿の仲ですし、シリウスも困った顔をします。

……もとからドラコくんは純血主義者でしたし、私の事を嫌いになってしまったのでしょうか。切ない。

ミセス・ノリスが襲われてから、ロンの妹…ジニーちゃんの元気がありませんし、ハーマイオニーはずっと真剣に本を読んでいますし、魔法史の宿題は大変ですし。

「色々忙しいんですよ…」
「学生の本分だ」

目の前にいるのは魔法薬学教授のスネイプ先生です。

今、魔法史の宿題を持ち込みながら、先生のお手伝いをしていました。
今年もスネイプ先生のお仕事をたまに手伝いに来ていたのです。

今回の魔法薬の調合は魔法史の宿題をやりながらでも出来るような簡単なものです。
スネイプ先生は珍しく私の手元を見ながら、時々、何か別の魔法薬を入れていました。

「中世はMiddle Agesだ。Medruだと意味がわからない」
「……ん、と…こう、ですか」
「翻訳薬を飲みながらも綴り間違えるとは」

む…。面目ないです。でも教えてくれる事には感謝です。

「あ、先生。先生は『秘密の部屋』の伝説について知ってますか?」

ふと、今回の話を思ったのでスネイプ先生に聞いてみました。
スネイプ先生はふんと鼻を鳴らすと、また大鍋を軽く掻き混ぜました。

「余計な事をすると頭痛がするのでは?」
「無茶はしませんよー。この質問は大丈夫みたいです。頭痛くなりません」

にこにこ笑っていると長い指先で魔法史の羊皮紙を指差されました。
あぁ、やらなくてはいけません。

「…うーん、1メートル。1メートルってこのくらいですよね」
「あと5センチ」

しょんぼりとまた私は羽根ペンを手にしました。えぇ、と…。

悩んでいるとスネイプ先生が杖を振って、大鍋を動かしていきました。

「次の授業が始まりますぞ」
「……次、DADAなんです。あまり行きたくないです」
「残念ながらこの教室も使う。早くいきたまえ」
「はーい…」

久しぶりです。嫌いな授業に出る前のこともやもやとした感覚。
ホグワーツに来てからは初めての感覚です。

戻るときに丁度ジニーちゃんとすれ違って、笑顔で手を振りました。


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