数日がたって、ハリー達も秘密の部屋の事を調べはじめていました。

ビンズ先生は『秘密の部屋』に関しては怒り気味みたいでしたが、生徒はとってはとっても気になるものでした。

『秘密の部屋』は純血主義をいいはじめたサラザール・スリザリンが作ったと言われているそうで。その継承者がいるのだと。
その継承者が『秘密の部屋』にいる怪物を使い、ホグワーツから純血以外の人達を追い出してしまうという伝説が残っているようです。

「だけどいったい何者かしら」
「何者とは? ハーマイオニー」

火を噴いたロンの杖を鎮火させながら、私はハーマイオニーを見ました。

「出来損ないのスグイブやマグル出身の子をホグワーツから追い出したいと願っているのは誰?」
「では、我々の知っている人の中で、マグル生まれはくずだ、とおもっている人は誰でしょう?」

ハーマイオニーの言葉にわざとすましたロンの声が聞こえました。私はむぅとロンを見ます。

「ロン、もしかしてドラコくんの事言ってます?」
「モチのロンさ!
 あいつがミセス・ノリスが襲われた時には何て言っていたか聞いたかい? 『次はおまえたちだぞ、『穢れた血』め!』って」
「マルフォイが、スリザリンの継承者?」

ハーマイオニーが疑うような顔をしました。私も困り顔。
ですが、ハリーも教科書をパタンと閉じて、話に混ざりました。

「あの家計は全部スリザリン出身だ。
 あいつらならスリザリンの末裔だっておかしくはない」
「あいつらなら何世紀も『秘密の部屋』の鍵を預かっていたかもしれない。親から子へ代々伝えて……」
「そうね。その可能性はあると思うわ…」

ハリーとロンが確定しているようですが、ハーマイオニーは慎重です。
ハリーくんはどう証明するのか顔を曇りましたが、さすがハーマイオニーは方法がないことはない。と考えながら話します。

「ポリジュース薬が少し必要なだけで」
「それ、なに?」
「んっと…この前スネイプ先生が言ってましたよ」
「僕たちがスネイプの話を聞いてると思ってる?」

ロンがぶつぶつといいました。私は苦笑しながら、指を振りながら軽い説明をします。

「自分と動物以外の誰かに変身出来る薬なんです。…スリザリンの談話室に入るならそれは簡単にはなりますけど…」
「そのポリジュースなんとかって、少し危なっかしいな。
 もし、元に戻れなくて、永久にスリザリンの誰かの姿のままだったらどうする?」
「ちゃんと調合すれば、しばらくすると効き目は切れますよ」

苦笑しながら返すと、ハーマイオニーがもどかしげに手を振りました。

「むしろ材料を手に入れる方が難しいわ。『最も強力な薬』という本にそれが書いてあるって、スネイプがそう言ってたわ。
 禁書の棚にあるはずよ」

禁書の本を読むには先生のサインがないといけません。

実は去年作ったことがあるんですという事はいわずに、ちらりと3人の顔を見つめていました。

「先生だってそんなに甘くないぜ。
 ………でも、騙されるとしたら、よっぽど鈍い先生だな」

すぐさまロックハート先生が出てきた私、ごめんなさい。


†††


ピクシー妖精以来、ロックハート先生の授業はさらにつまらなくなっていました。

それは先生の本の中の場面を演じていく、という…実はホグワーツに来て、初めて為にならない授業だと思っていました。
私には珍しく、先生も苦手で、廊下ですれ違う度に隠れていました。

しかし今日はハリーたちのためにもロックハート先生を上機嫌にしなければいけません。
私も、今日はとってもわくわくしている、というように前の席に着きました。

ですが、今、やっぱり前になったのを後悔していました。
今日のお話が狂暴な狼男の話だったのです。

急にリーマスさんを思い出してしまって、私の機嫌は既に底辺。
それはハーマイオニーとロンがびっくりするくらいでした。

「――満月の度に狼男に襲われる恐怖から救われ――」

ムカムカとしながら待っていると、終業のベルが鳴り、私達は教室の後ろの方で待機していました。

やがて他のみんなが出ていったあと、紙切れを1枚持ったハーマイオニーが前にいきました。

「あの、ロックハート先生?
 私、あの、図書館からこの本を借りたいんです。参考に読むだけです。
 先生の『グールお化けとのクールな散策』に出てくる、ゆっくり効く毒薬を理解するのにきっと役に立つと思います」
「あぁ、『グールお化けとのクールな散策』ね!
 おもしろかった?」
「はい、先生」

ハーマイオニーがどこか熱を込めて答えます。
私はそんな気分ではなかったので、ロンの後ろにいながら、不機嫌に立っていました。

ロックハート先生は何の本を借りるのか見もせずに、サインをいれました。
あぁ、もう、そんな簡単に! 呆れた私の口をロンが塞ぎました。むー。

私達がそそくさと部屋と出ると、そのまま急いで図書館に向かいました。

「リク、大丈夫? ずっと不機嫌そうだけど」
「……大丈夫ですよ、ハリー。
 ただちょっと、ロックハート先生が…」
「苦手なんだ」
「はい。苦手」

笑顔で返してみるとハリーくんは苦笑を零していました。
だって、苦手なんですもん! 全部の狼男さんが凶暴みたいな言い方してましたし!

図書館で怪しむマダム・ピンスから本を借り、隠れながら歎きのマートルちゃんがいる女子トイレに向かいました。

マートルちゃんの泣き声が個室から聞こえていて、私が話し掛けようとしましたが、ハーマイオニーに止められてしまいました。

『最も強力な魔法薬』の本には身の毛がよだつような魔法薬が沢山ありました。
あまり見たくないものばかりで、ハーマイオニーも顔をしかめていました。が、やがて興奮したように声をあげました。

そこにはポリジュース薬の文字。

「こんなに複雑な魔法薬は初めてお目にかかるわ」

クサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワヤナギ。これは生徒用の材料棚にあります。
あと、ニ角獣の角の粉末、毒ツルヘビの皮の千切り。これはスネイプ先生の薬品棚を見なくてはいけません。

「それに、当然だけど、変身したい相手の一部」
「なんだって? どういう意味? 僕、クラッブの足の爪なんか入ってたら、絶対飲まないんだからね」
「でも、それはまだ心配する必要はないわ。最後に入れればいいんだから……」

ロンが絶句してハリーを見ましたが、ハリーは何やら別の考え事。

「ハーマイオニー、毒ツルヘビの皮の千切りなんて、どうするの? スネイプの個人用の保管倉庫に盗みに入るの?
 うまくいかないような気がする……」
「そう。2人ともおじけついて、やめるっていうなら、結構よ」

珍しく、ハーマイオニーがハリーやロンよりも生き生きとしています。

「私は規則を破りたくない。わかってるでしょう。
 だけどマグル生まれの者を脅迫するなんて、ややこしい魔法薬を密造することよりずーっと悪いことだと思うの」

まさか、あのハーマイオニーが規則を破るように言っています!
これは、私も協力しないわけにはいけません!

私はぴょんと跳ねるとハーマイオニーの腕を絡めます。

「毒ツルヘビの皮と、二角獣の角は私が持ってきますよ!」
「えっ?」
「ほら、最近、私、スネイプ先生の教室に行く機会がありますし。
 ハーマイオニーが頑張るんですもん。私も頑張らなきゃ!」

笑うハーマイオニーとぎゅうと腕を組んで、私達は薬の作り方を一緒に眺めていました。

「明日、君がマルフォイを箒からたたき落としゃ、ずっと手間が省けるぜ」

後ろで小さくロンがハリーに囁いていました。


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