「先生。『愛の妙薬』の作り方って」
「グリフィンドール60点減――」
「冗談です。冗談ですから減点はしないでください!」
ムスとした表情のままのスネイプ先生に私は肩を撫で下ろします。危ない。危ない。
スネイプ先生は今日もやってきた私を見て、幾分、不思議そうに見ました。
「もう罰則の期間は終わったが?」
「でも、まだお仕事は残ってますよね? やっていきますよ」
まだ不思議そうなスネイプ先生を見ながら、私は、はっ。と鞄を漁りました。
そしてチョコを取り出します。
「先生。バレンタインのチョコレートです。
よかったら食べてください」
こんなに不思議そうな顔をしたスネイプ先生は中々見られないと思います。
私はそんな先生を見ながら、チョコを差し出しました。
「あの、日本では女性から親しい人にあげるのが一般的なんです」
「親しい?」
「お世話になっている人にもですっ」
中々受け取ってもらえないチョコに、だんだんと恥ずかしくなってきました。
はっ。先生、甘いものが苦手なのかもです!
「何故、我輩に?」
「せ、先生だけじゃないですよ。
ハリー達にもあげましたし、リーマスさんにも贈りましたし。
先生にも、お世話になってますから」
本当はシリウスにもあげたかったんですけど…。
困っていると、スネイプ先生はやっと私からチョコを受け取ってくれました。
ほっとすると同時に、何故かにやにやしてしまいます。先生には見えないようにですけども。
「毒などは」
「入ってませんって。リーマスさんから教わった特製トリュフチョコですよ」
「甘そうだな」
「いちよう、ビターチョコ、何ですけど…」
甘味に関しては、私とリーマスさんは当てにはなりません。
2人とも甘いものが好きなので、酷く甘くなってしまうのです。
「美味しくなかったら、ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げると、スネイプ先生が意地悪そうに笑いました。
先生の笑顔にもびっくりでしたが、次の言葉にもびっくりしました。
「案外、子供らしい事をする」
「ひ…、酷い…!」
頬を膨らましていると、先生が微笑んだ気がして、私はすぐに視線をそらしました。
胸の中がもやもやするような、ぐるぐるするような不思議な感覚を暫く味わっていました。
†††
「ハグリッドさんが犯人ですって?」
ハリーがリドルくんで見た過去は、ハグリッドさんが犯人のようなシーンでした。
説明を聞いた私は頬を膨らましながら、黒い日記を見つめます。
沈黙を守る日記を囲みながら、私達4人は堂々巡りの議論を続けていました。
ハグリッドさんに直接きいてみる。という案もでましたが、結局は次の犠牲者が出るまで何も言わないことに決まりました。
そして復活祭休暇を挟み、私達2年生は3年生で選択する科目を決める時期となりました。
ハーマイオニーは悩みながらも全科目を受講し、ハリーとロンは同じ科目を選んでいました。
魔法なんて全くわからない私は、不安に思ってリーマスさんにお手紙を書いてアドバイスを貰って、大体ハリー達と同じ科目に決めました。
それと同時にハリーのクィディッチの試合も近づいてきてました。
ハリーは毎晩、ウッド先輩達とクィディッチの練習をしており、今年の優勝はみんなとっても期待していました。
ですが、そのクィディッチ試合の前日。
ハリーの寝室が荒らされ、リドルくんの日記が盗まれたというのです。
「グリフィンドール寮生しか盗めない筈でしょ。他の人は誰もここの合言葉を知らないもの……」
ハーマイオニーが不安そうに呟きます。ハリーも「そうなんだ」と返したあと、また寝室へと戻っていきました。
次の日は青空の晴れ渡った、いいお天気でした。
クィディッチの試合に向かおうとするときに、急にハリーが叫び声をあげました。
私とロン、ハーマイオニーは驚いて、ハリーから飛びのいてしまいました。
「あの声だ! また聞こえた…。君たちは?」
私とロンは首を左右に振ります。そこでハーマイオニーがハッとしたように息を呑みました。
「ハリー、私…図書館に行かなくちゃ!」
「ハーマイオニー――、ちょっとフェイン!」
と、颯爽と階段を駆け上がっていってしまいました。私の鞄から滑り落ちたフェインもハーマイオニーについていなくなってしまいました。
ハーマイオニーが嫌がらなければいいんですけど…。
「何を思いついたんだろう?」
「うーん、と?」
「計り知れないよ。ハーマイオニー流のやり方だよ。何はともあれ、まず図書館ってわけさ」
肩を竦めたロンがハリーに声をかけました。
もうすぐクィディッチの試合が始まってしまいます。
ハリーは大急ぎで箒を取りに走り、私とロンは先に観客席に行くことにしました。
やがて試合開始の時間になり、グリフィンドールとハッフルパフのチームが沢山の拍手に迎えられました。
私も見えたハリーに声をかけます。
「今年こそ優勝ですね!」
「当たり前さ!」
ロンと一緒にハリーを応援していると、グラウンドの向こうから、マクゴナガル先生がメガフォンを手に走るようにやってきました。
「この試合は中止です」
メガフォンでのアナウンスに沢山の野次や怒号が飛び交いました。
ロンも私もぽかんとしたまま顔を見合わせていました。
「全生徒はそれぞれの寮の談話室に戻りなさい。みなさん、出来るだけ急いで!」
「……ロン、ハリーの所に行きましょう」
「あぁ。そうしよう」
マクゴナガル先生と一緒に城に向かおうとするハリーを見つめ、私はロンと一緒に観客席を駆け降りました。
マクゴナガル先生は私達を見ると、深く頷きながら優しい声を出しました。
「少し、ショックを受けるかもしれませんが、また、襲われました。
また2人一緒にです」
医務室の近くまで来て、私の息は止まりそうになりました。
先生がドアを開け、ハリーとロンは入っていきましたが、私は入り口辺りで足を止めてしまいました。
「Ms.ルーピン?」
「は、はい。…大丈夫、です」
恐る恐る見る私の目線。
固まったレイブンクローの5年生さんの隣に。
「ハーマイオニー!」
ロンが呻き声をあげました。
手足が痺れ、ただ呆然とハーマイオニーを見つめていました。
ふらふらとハーマイオニーの側に寄り添います。
「ハーマイ、オニー……?」
マクゴナガル先生が私の肩に手を起きながらいいました。
「2人は図書館の近くで発見されました。
これは2人の側の床に落ちていたのですが…」
先生は小さな丸い鏡を差し出しました。ハリーとロンが首を横に振る中、私は小さく呟きました。
「わ、私がクリスマスに贈った…鏡、です…」
「そうでしたか…。
………グリフィンドールまであなたたちを送って行きましょう」
呆然とした私を促すようにマクゴナガル先生が声をかけました。
はっとした私は先生に振り返ります。
「あの、先生。フェインは……私のペットのヘビを見ませんでしたか?
ハーマイオニーと一緒にいた筈なんですが」
「…いいえ。見ていません」
静かに答えるマクゴナガル先生に私は視線を伏せます。
近くにいたハリーの手をぎゅっと強く握っていました。
未来を知っている筈なのに、私は何も、何も出来ませんでした。