それから、学校中がぴりぴりとしといました。

移動のほとんどは先生方の引率で、夕方6時以降の外出はなし。
クィディッチの練習、試合も延期になってしまいました。

「……ハグリッドに会って話さなきゃ」
「でも、先生は寮から出てはいけないと…」
「今こそ、パパの透明マントをまた使う時だと思う」

ハリーは『透明マント』というのを持っていました。

被ると自分達の姿を透明にしてくれて、誰にも知られずにこっそりと学校を抜け出すことができます。
私とハリー達は談話室の入り口付近で待ち合わせて、学校を抜け出し、ハグリッドさんの小屋の前でやっとマントを脱ぎました。

扉を叩くと、ハグリッドさんが石弓を持っていました。びっくりした私が思わずロンに隠れます。
ハグリッドさんがまじまじと私達を見ていました。

どこか上の空なハグリッドさんにハリーが聞きます。

「ハグリッド、大丈夫? ハーマイオニーのこと、聞いた?」
「あぁ、聞いた。確かに」

ハグリッドさんが答えたその時、扉を叩く大きな音が聞こえました。

顔を見合わせた私達はさっとマントを被って部屋の隅に走りました。
私達が完全に隠れたあと、ハグリッドさんが扉を開けました。

「こんばんは。ハグリッド」

ダンブルドア校長先生でした。その後ろから、とっても不思議な格好をした男の人がついて来ました。ロンが囁きます。

「コーネリウス・ファッジ。魔法省大臣だ!」

ファッジさんは重々しく、ハグリッドさんにいいます。

「状況はよくないハグリッド。
 もう始末に負えん。本省が何かしなくては」
「俺は、決して」

すがるようにダンブルドア校長先生を見るハグリッドさん。
私達が息を潜めているあいだに、また激しく扉を叩く音がしました。

入ってきたのは、ドラコくんのお父さん、ルシウス・マルフォイさんでした。
冷たくほくそ笑む彼に、私の背筋が恐怖に震えました。

ぎゅうとロンの腕を抱きしめます。

「ただ学校に立ち寄っただけなのだが、校長がここだと聞いたものでね」
「それでは、いったいわしに何の用があるというのかね? ルシウス?」

校長先生の言葉は丁寧で静かでしたが、怒っているようにも感じました。

「酷いことだがね。ダンブルドア。
 ここに『停職命令』12人の理事が全員署名している」
「ちょっと待ってくれ、ルシウス。ダンブルドアが『停職』…今という時期に、それは絶対困る」
「理事会の決定事項ですぞ。ファッジ」

マルフォイさんは淀み無く答え、ハグリッドさんの怒声が響きました。

「ダンブルドアをやめされられるものなら、やってみろ!
 そんなことをしたら、マグル生まれの者はおしまいだ! この次は『殺し』になる!」
「落ち着くんじゃ、ハグリッド」

静かな声にハグリッドさんが一瞬止まりました。

「しかし、覚えておくがよい。わしが本当にこの学校を離れるのは、わしに忠実なものが一人もいなくなったときだけじゃ。
 ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる」

ダンブルドア校長先生の言葉は、私達にも投げ掛けられているような気がしました。
それからマルフォイさんは小屋を出て行き、ファッジさんもハグリッドさんが先に小屋を出るのを待っていました。
そこでハグリッドさんは言葉を選びながら、言葉を投げ掛けました。

「誰か何かを見っけたかったら、クモの跡を追っかけて行けばえぇ。そうすりゃちゃんと糸口がわかる。
 俺がいいたいのはそれだけだ」

ファッジさんは呆気に取られた様子でハグリッドを見つめました。
戸口でハグリッドさんがもう1度大声で言いました。

「それから、誰か俺のいねぇ間、ファングに餌をやってくれ」

扉が閉まりました。

私達が透明マントを脱ぎます。

「大変だ…。ダンブルドアがいない。
 今夜にも学校を閉鎖した方がいい。ダンブルドアがいなけりゃ、1日1人は襲われるぞ」

私はロンの声を聞きながら、静かに窓の外を見つめていました。


†††


防犯のためにも医務室は面会謝絶になってしまい、私達はハーマイオニーのお見舞いにもいけなくなってしまいました。

「クモの跡…、ですか」
「うん。問題は城の中にクモが1匹もいないみたいなんだ」
「もう少し、探してみましょう」

校内は暗い雰囲気に包まれていました。
静かな校内で、先生方のぴりぴりとした空気。

私は壁を見つめながら、フェインの行方と、リドルくんの行動を不安に思っていました。
ハーマイオニーの体調もわかりませんし、ジニーちゃんは元気がありませんし、心配事ばかりです。

授業を終えた私は長い溜め息をつき、スプラウト先生に連れられ、DADAへの授業へと向かいました。

席が遠く、離れていたハリーがひそひそと私に囁きます。

「リク、さっき、クモを見つけたよ。『禁じられた森』の方に向かってるみたいなんだ。
 もう1度透明マントを使わなくちゃ」
「……ハリー、その、危ないのでは…?」
「ファングを連れていくよ。何か役に立つかもしれない」

不安そうな私の隣。禁じられた森に入った事のないロンも落ち着かない様子でした。

「えーと、ほら、あの森には狼男がいるんじゃなかったかな?」
「狼男が皆が悪くて狂暴なわけじゃありませんよ」

思わず返した声にロンが驚いていました。ハリーも直接答えるのは避けます。

「あそこにはいい生き物もいるよ。ケンタウルスも、一角獣も大丈夫」

そこでロックハート先生がうきうきと陽気に教室に入ってきたのに、皆が唖然としていました。
もちろん、私も驚きました。最近の先生方は深刻な表情をしていたのですから。

「さぁさぁみなさん、危険は去ったのです! 犯人は連行されました」

その後もロックハート先生の浮かれように、ハリーとロンの方が苛々としていました。
私は2人を丁寧に諌め、ロックハート先生を苦笑しながら見つめていました。

暫く授業が進みましたが、ハリーから走り書きが回ってきたことで、それは止まりました。

〈今夜決行しよう〉

私は静かに目を軽く伏せたまま、頷きました。

出来れば私も行きたくはなかったのです。


†††


そして私達が城を抜け出す事に成功した時には、結局12時を過ぎていました。

こっそりと、見回りの先生方にぶつからないようにこっそりと城を抜け出したあと、私達はハグリッドさんの小屋へ向かいました。
ハリーが扉を開けると、ファングが吠え声を上げながら飛び跳ね、喜びました。

その声は城の人達起こしてしまいそうな勢いでした。
私はファングの前で人差し指を立てます。

「ファング、静かに。静かにして下さい」

ゆっくりと吠えるのを止めたファングを見て、ロンが私の肩を叩きました。

「やるじゃん、リク」
「ふふ。動物の扱いにはなれてますよー。
 ファング、散歩に行きましょ」

隣でハリーが杖を取り出し「ルーモス(光よ)」と唱えていました。私も同じ呪文で杖先に光をともします。
ロンが顔をしかめました。

「僕も点ければいいんだけど…僕のは爆発したりするかもしれない…」

不安げなロンの肩をハリーが叩きました。
指差した先にはクモが2匹程、木の影に隠れていくところでした。

「オーケー、いいよ。行こう」

ごめんなさい。リーマスさん。私、ばりばり危ない事しています。
お約束守れないで、ごめんなさい。


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