私も肩を落としていると、ハリーが静かに言いました。
「ハグリッドが『秘密の部屋』を開けた訳じゃなかった。
ハグリッドは無実だった」
それから、私達は疲労で足を引きずりながらもグリフィンドールの談話室へと戻ってきました。
真っ直ぐに寝室に上がっていくハリーとロンを見送り、私は談話室のソファに深く座りました。
今年も、もう終わりに近付いて来ています。
お話は一気に進む、でしょう。
「………もう少し…」
もう少しで、秘密の部屋が開き、ジニーちゃんが――。
私はいつの間にかそのソファで眠ってしまいました。
今日は、本当に疲れていたようでシリウスの姿も見かけませんでした。
†††
次の日。起きてきたハリー達がこそこそと他のグリフィンドール寮生を気にしながら話し掛けてくれました。
「リク! 死んだ女の子なんだけど、アラゴクはトイレで見つかったって言ってた。
その子がそれから1度もトイレから離れず、まだそこにいるとしたら?」
「――マートルちゃん…?」
『歎きのマートル』。4階のいつも壊れているトイレに住んでいるゴーストちゃんです。
ポリジュース薬作成の時に何度も出会っている子です。
「あの時なら聞けたのに、今じゃあなぁ…」
悔しそうなロンが言うように、今のホグワーツの監視状況では抜け出すことなど出来そうにありません。
悩みながら変身術の授業に向かっていると、マクゴナガル先生の言葉に私達、全員が固まりました。
一週間後の6月1日に期末試験があるというのです。
すっかり忘れていました。一週間でどれくらい復習出来るんでしょうか。
他の皆も、ホグワーツがこんなときに試験があるとは思っていなかったので、不満の声が色んな所で零れました。
「こんなもんで試験が受けられると思うか?」
ロンが何故か音をたてはじめたセロファンだらけの自分の杖を持ち上げていました。
ですが、悪いことばかりでもありませんでした。
やっとマンドレイクの収穫ができ、今夜にも石化したハーマイオニー達を治すことができるのです!
報告された大広間では歓声か爆発しました。
拍手喝采の中、ジニーちゃんがロンの隣に座りました。
緊張していて、どうやら落ち着かない様子でした。
「どうした?」
「あたし、言わなければいけない事があるの」
お兄さんであるロンが促しますが、ジニーちゃんはためらっています。
ハリーが小さな声でしたジニーちゃんに言います。
「『秘密の部屋』に関すること? 何かみたの? 誰かおかしな素振りをしているの?」
ハリーの声にジニーちゃんが深呼吸をします。
また、口を開いたときにタイミング悪く、パーシー先輩が疲れきった表情で現れました。
ジニーちゃんは驚き、飛び上がってそそくさと立ち去ってしまいました。
ロンがパーシー先輩に怒っている中、ハッとした私はハリーに断りを入れ、ジニーちゃんの背中を追いかけました。
「待って、待って下さい、ジニーちゃん!」
大広間を出ていくジニーちゃんの綺麗な赤毛を見つけ、私は追いつきました。
びっくりした様子のジニーちゃんの腕を引いて、なるべく人気のない廊下の隅で私は小声で言いました。
「ジニーちゃん…、私、リドルくんを知ってます」
ピリッと頭の隅が痛みだしました。軽く手で押さえて、静かにジニーちゃんを見つめます。
ジニーちゃんは当惑の表情を驚きに変えていました。
「う、嘘、リクも…? 何で……リク、大丈夫!?」
頭が痛い。痛い。息をするのもやっとのような痛みが私の頭を襲いました。
廊下の隅にしゃがみ込んだ私をジニーちゃんが覗き込みました。
浅い息を繰り返しながら、視線を上げるとジニーちゃんが静かに私を見下ろしていました。
「え…?」
一気に雰囲気を変えたジニーちゃんが私の手を握り、歩き出しました。
「待って下さい、ジニーちゃん。何処へ…?」
ジニーちゃんはそのまま何もいわずに4階まで上がり、最初にミセス・ノリスが石になった場所にたどり着きました。
そこにはいまだに『秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ』と書かれたままです。
壁を指差したジニーちゃんに従い、文字を見ていた私。
すると突然、頭に何か棒のような物で殴られた痛みが走りました。
私は悲鳴を上げる間もなく、意識を飛ばしてしまいました。