鈍臭かった私はそれを顔面で受け止めてしまいました。
「ッきゃ」
「穴の開いた日記など、私に必要ない」
それはリドルくんの日記でした。私はそれを両手で抱えてマルフォイさんを見つめました。
マルフォイさんは既に階段を降りていってしまっていましたが、私はその背中に声をかけました。
「ありがとうございます!!」
そのままマルフォイさんはホグワーツの敷地内から立ち去っていきました。
「……リドルくん、またよろしく頼みます」
抱えた日記の、穴の開いた表紙をゆっくりなでました。
リドルくんのお返事はもう返って来ませんでしたが、リドルくんが呆れて溜め息をつくのは想像できました。
「シュル」
「フェイン?」
暫くリドルくんを抱えていると、地下牢教室においてきたフェインが玄関から、私のいる場所まで這い降りてきました。
ジニーちゃんハリー達を歓迎する宴会が開かれているようで、夜中でしたが城の中が賑やかになってきてました。
フェインが1人で歩いて、生徒を驚かせなかったのか、少し心配。
リドルくんの日記をローブのポケットにしまい込んで、私はフェインに頬をすり合わせました。
「フェインも宴会に行きましょうか?」
フェインに聞くと、フェインはスッとマルフォイさんが立ち去ったあとを見つめていました。
フェインが中々動かないのを不思議に思い、同じ方向を見つめると誰か人影が見えました。
マルフォイさんが戻ってきたのかと思いましたが、その人影が見慣れた者だと気がつきました。
「リーマスさん!!」
「リクちゃん、怪我は――わッ!」
走ってきたリーマスさんが階段下まで来たときに、私は階段の途中あたりから彼の胸に飛び込みました。
少しよろけたリーマスさんでしたが、私のことをぎゅうと抱きしめてくれました。
甘いチョコレート香りがするリーマスさん。
強く抱きしめるとリーマスさんも抱きしめ返してくれました。
私の頭の後ろあたりを大きな手で掻き締めるリーマスさんの、不安が伝わってくるようでした。
「リクちゃんが『秘密の部屋』に連れていかれたって、殺されたって聞いて、本当に驚いたんだから」
静かな声に私はリーマスさんをぎゅうと抱きしめ返すことしか出来ませんでした。
「ごめんなさい」
「うん。家に帰ったらたっくさんお説教決定」
リーマスさんは小さく笑うと、私の髪に顔を埋めました。
回された腕が震えているねに気がつきました。
不安に、させていたんですね。反省。
リーマスさんが笑いながら呟きました。
「でも、あとでね。
今はリクちゃんを補給することにする」
「…私もリーマスさん、補給します」
暖かいリーマスさんの腕に抱きしめられて。
私の気がすぅと落ち着いて行きました。
「お疲れ様、リクちゃん」
「ごめんなさい、リーマスさん」
暫く私達、2人抱きしめあっていました。
†††
「あれ、フェイン?」
「噂の可愛いヘビかい?」
「本当に可愛いんですよーっ。今までいたんですけど…、どこいったんでしょう?」
ふと気がつくと、フェインの姿が見えなくなっていました。
リーマスさんから身体を離し(でも手だけは繋いだまま)、辺りを見回しました。
「でも、今はリーマスさんがいいです」
腕をぎゅうと握ると、リーマスさんがとっても嬉しそうな苦笑。
恥ずかしながら、階段の途中に座ってリーマスさんといちゃいちゃしていると、私達の間にフェインが駆け登ってきました。
「シャー! シャーッ」
「フェイン、どこ行ってたんですか?」
リーマスさんにヤキモチを焼いている様子のフェインに、ちゅと小さくキスしていると、私達に声がかかりました。
「お久しぶりじゃのう、リーマス」
振り返ると階段の上に、ダンブルドア校長先生が微笑みながら立っていました。
私達が立ち上がり、ダンブルドア校長に向き直ります。
リーマスさんは幾分懐かしそうに頭を下げました。
「お久しぶりです。
すみません。真っ直ぐに校長室に向かわなくて…」
「いいんじゃよ。親子の時間はいくらあっても足りぬ」
何故か寂しげに微笑んだダンブルドア校長先生。少し不思議に思いましたが、リーマスさんと手を繋いだまま、階段を上がっていきました。
ダンブルドア校長先生と向き合って、リーマスさんが改めて頭を下げます。
「リクちゃんを助けていただきありがとうございます」
「わしは何も出来なかった。助けたのはハリーじゃよ。
だが、1つ頼まれごとをしてくれはしないかのぅ」
暖かい目をしながらダンブルドア校長先生は微笑んでいました。
私はリーマスさんの顔と、校長先生の顔を見比べます。
不思議そうにしていたリーマスさんが深く頷いていました。
「私にできることなら、なんでも」
「よかった。
では、来年からホグワーツに来てもらいたい」
「はい。――はい?」
目を丸くしたリーマスさんに私は抱き着きました。
リーマスさんのお腹辺りに顔を埋めて、リーマスさんを見上げました。
ダンブルドア校長先生も微笑んでいました。
「やっとリーマスさんと学校通えますね! 嬉しいです!!」
「え? リクちゃん、何?」
「今年いた闇の魔術の防衛術が先ほど、忘却術にかかってしまってな。
またこの授業の先生がいなくなってしまってのぅ。探していたのじゃ」
目を丸くしたままのリーマスさんに抱き着いたあと、リーマスさんの両腕をとって私の前に回しました。
私はリーマスさんに後ろから抱きしめられた状態です。
ダンブルドア校長先生を見上げながら、リーマスさんに寄り掛かりました。
校長先生はリーマスさんを見て、微笑んでいるままでした。
「やってくれるかのぅ?」
リーマスさんは私の事を1度、見てからはにかみ、頷きました。
「私でよろしければ、やらせていただきます」
嬉しさに飛び上がった私が階段を転げ落ちそうになって、リーマスさんに助けられました。
「リクちゃん、気をつけなきゃ駄目だよ」
「ご、ごめんなさい。リーマスさん」
色々あった1年が終わる。そんな言葉では言い表せない1年間。
ハリーは優しくて、私にリドルくんを深く聞いたりはしませんでした。
私はそれに甘えてしまって、本当のこと言っていない事に気づいて、顔を曇らせてしまいました。
私はリーマスさんに腕を捕まれて顔をのぞきます。びっくりして目を丸くしました。
リーマスさんの顔はまた不安そうでした。
「リクちゃん、本当に大丈夫? 疲れていない?」
「………ちょっと、だけ」
甘えるとリーマスさんは頭を撫でてくれました。
頭を撫でられながら、私の心は決まっていきました。
もう、誰にもいなくなって欲しくなかったのです。
(狼さんの娘は2年生(the Chamber of Secrets))