新聞を握りしめているリーマスさん。私は後ろから彼に近付き、背中に触れました。

びくと身を震わせたリーマスさんの顔を見上げます。
視線が合うとリーマスさんはニコと弱々しく笑いました。

「おはよう、リクちゃん」
「おはようございます」

ぺこりと頭を下げると、リーマスさんは新聞を畳んで「朝ごはん、作ろうか」と笑顔を見せました。

その新聞にはシリウスの姿が写っています。
魔法界の新聞は写真でも動きました。その新聞に写ったシリウスが耳に聞こえない怒鳴り声を上げています。

普段は見ないシリウスの怒った顔はとても怖くて。

それを見つめているとリーマスさんが小さく弱々しく微笑みました。

「私の、同級生だったことは前にもいったよね」
「はい。学生時代の写真も見せてもらいました」
「………気をつけてね。
 シリウスを疑っている訳じゃないけど……でも、私は、ピーターは……」

表情を曇らせたリーマスさんを正面からぎゅうと抱き締めました。

シリウスがジェームズさんを殺す手引きをして、さらにはそれを問いただしたピーターさんをも殺して、アズカバンに入ってしまった。という事になっています。世間体で、そうなっています。

でもリーマスさんはシリウスさんがそんな事をする筈がない。という気持ちもあって、それ以上に私には理解できないような沢山の気持ちがあって。

「私はリーマスさんを信じています」

リーマスさんに本当の事を伝えられないことをもどかしく思いながら、私はリーマスさんをさらに強く抱き締めました。
今はまだ、シリウスのことを言うわけにはいかないのです。

私はぱっと笑顔を浮かべてリーマスさんから少し離れました。

「リーマスさん、私が今日私がスクランブルエッグ作りますね!」

リーマスさんも曇った表情を隠して、にこりと笑ってくれました。
キッチンに並んだ私の隣に立って、私の手元を覗きこみました。

「今日はスクランブルじゃないのを作ってみてごらん。
 そうだな…、私から目玉焼きをリクエスト」
「き、黄身が割れてしまいますよ…!? 無理です無理です私まだまだお料理下手で」
「大丈夫。黄身が潰れちゃっても味は変わらないから。ほら、力抜いてー」

フライパンの前に立ち、卵を持った私がドキドキと立ち向かいます。
緊張する私の横で、リーマスさんがあははと笑い声を上げていました。

結局、朝食には少し焦げた更には目玉の割れてしまった目玉焼きが並びました。
お料理はやっぱりまだ少し苦手です。お菓子作りなら自信付いてきたのですが。


†††


夏休みが終わる2週間前くらいでした。

日が落ちたあと、『動物もどき』の力で犬の姿となったシリウスと一緒にプリベット通りに来ていました。

シリウスが脱獄して暫くたっています。

霊体のような私は少し先を歩くシリウスに着いていきます。

ハリーを一目見たいと言うシリウスについてここまで来たのですが、住んでいる筈のマグルさんの家にはいませんでした。
確かお話ではマグルさんを膨らましてしまっていたはずです。こんなに早い時期だったとは。

そこで小さくシリウスが鳴きました。
先でハリーがトランクの上にヘドウィグの籠を乗せ、暗い夜道を歩いているのが見えました。

ハッとシリウスを見ると、彼は何も言わずに犬の姿のまままっすぐハリーを見ていました。

ジェームズさんとハリーは本当にそっくりと聞きます。

そしてシリウスはジェームズさんと兄弟のように仲がよかったと聞きます。
何か思うことが、沢山、沢山あるのでしょう。

私は少し後ろでシリウスを見ていました。

「ルーモス(光を)…」

ハリーがシリウスに感づいたようで、杖先に明かりを点しました。
シリウスが見つかってしまいます。

私はシリウスの背を軽く叩いてここから離れる事を奨めようとしました。ですが。

「……リク…なの?」

ハリーが呟いた声に、びっくりして私は近くの茂みに隠れました。
シリウスが見つかるのも大変ですが、私が見つかるのも色々と大変です。

隠れた瞬間、バーン!! と酷い音が路地に響きました。
よろけたハリーの前に大きな2階建てバスが止まっていました。

魔法族専用のナイト・バスです。
車掌が出てくるのを見て、私達はその場所を離れていきました。

大きく黒い犬の姿をしたままのシリウスは、全く人気のない所を通っていきます。
その後ろを私が付き添っていきました。

口数が酷く少ないシリウスの後ろ、私はただ付き添うだけでした。


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