暫くしてからハリーから届いた手紙には沢山の事が書かれていました。

一緒に住んでいるマグルさんの身内を、風船みたいに膨らませて飛ばしてしまった事。
家を出てナイト・バスに乗り(私が見たのはこの辺りです)、魔法大臣のファッジさん達に保護された事。

残りの休み期間は『漏れ鍋』で過ごすという事。

「じゃあ今日の買い物の時に会いに行くかい?」
「はい!
 フェインは鞄に隠れていてください。魔法薬の材料にされちゃいますよ」
「シャ」

鞄にフェインを押し込み、伸ばされたリーマスさんの手を握りました。

傷だらけのリーマスさんの手と2周り程小さい私の手。
ふふ。と笑いながらリーマスさんに寄り添いました。

新しく必要な教科書を買って頂いて、お昼ご飯を漏れ鍋で頂いても、ハリーはお出かけしているようで、彼とは会いませんでした。

残念がるリーマスさんの隣、じわじわと私の頭が痛むような気がしていました。

お話ではリーマスさんとハリーの初対面はあの列車の中が最初でした。
こんな些細なことでも未来は変わってくれないのでしょう。

少しだけ悔しくも思いました。


†††


9月1日。

キングズ・クロス駅にリーマスさんと一緒にやってきました。

途中、沢山のグリフィンドール寮生にすれ違い、手を振ったり振りかえしたりしていました。

みんな汽車の中に乗るリーマスさんを不思議そうに見て、私と手を繋いでいるのをもっと不思議そうに見ていくのでした。少し優越感。

「混んでますねぇ。前の方まで見てきますか?」
「いや、1番後ろに行ってみようか。遠いから昔から人気がないんだ」
「懐かしいですか?」
「うん。思い出すよ」

にっこり笑ったリーマスさんの言った通り、最後尾のコンパートメントが空いていました。

荷物を台にあげていると、フェインが私の元からスルリとリーマスさんのポケットへと入っていきました。
フェインが私から離れることは珍しい事でしたのでリーマスさんがとても不思議がっていました。

「フェイン?」
「きっとお昼寝したいんですよ。
 フェインだけ狡いです。私も」

ポケットから顔を出したフェイン。私もリーマスさんの隣に座って肩に頭を乗せました。
リーマスさんの苦笑。

「リクちゃん近い」
「駄目ですか?」
「駄目じゃないよ。むしろ可愛い」

ぎゅうと抱きしめられて、私はご満悦。

思う存分にいちゃいちゃしてから、眠たそうなリーマスと一緒に、移動中、お昼寝することにしました。

眠っている間にハリー達がコンパートメントに来たことや、ドラコくんが見に来たことには気がついていませんでした。


†††


私がぼんやりと目が覚めた時に、ガクンッと汽車が止まりました。
明かりが一気に消え、また目の前が真っ暗となりました。

何か異常が起こった様で、私の目はぱっちりと開きました。
何時の間にかハリー達がいます。リーマスさんはまだ眠っているようでした。

「おはようございます? 真っ暗ですけど」
「リク? 起きたの? 一体何が起きたんだろう?」
「そうだ、ハリー! お久しぶりです!」
「うん、リク。それあとでね」

目の前にいたハリーに能天気に挨拶をすると軽く窘められてしまいました。

私は暗闇の中、目をこらしました。

コンパートメントにはロンとハーマイオニー。
ハーマイオニーの隣には大きめの猫。

そこでコンパートメントの扉が急に開いてロングボトムくんが入ってきて、ハリーの足に引っ掛かり転んでしまいました。

「アイタッ! ごめんね!」
「ロングボトムくん、大丈夫ですか?」
「リク? どうなってるの?」
「わかりません。おいで猫ちゃん、ここに座って下さいな」

ロングボトムくんの手を引いて、猫が座っていた場所に案内します。
昔から夜目の効く私がみんなが暗闇の中立ち上がって、誰かの足を踏まないように、手を引いていきます。

「私、運転手のところに行って、何事なのか聞いてくるわ」

ハーマイオニーの声が聞こえました。
そのハーマイオニーがコンパートメントを出る時に、丁度入ってきたジニーちゃんとぶつかってしまいました。

2人とも頭を押さえながら、首を傾げあっています。

「だあれ?」
「そっちこそだあれ?」
「ジニーなの?」
「ハーマイオニー?」
「何してるの?」
「ロンを探しているの」
「入って下さい。ロングボトムくん詰めて下さい、その隣に」
「ここじゃないよ! ここは僕がいるんだ!」
「静かに!」

突然、リーマスさんの声が聞こえて、リーマスさんの杖先に明かりが点りました。
私はリーマスさんの手を握りました。立ち上がったリーマスさんについて、私もスッっと立ち上がりました。

「リーマスさん…?」
「大丈夫。動かないで」

リーマスさんがゆっくり立ち上がり、ドアにたどり着く前に、勝手にドアが開きました。

マントを被った真っ黒い闇の中のような影。

マントからはみ出している手は水中で腐敗した死骸のような手。
身体に感じるのは2度と幸せになれないのでは、と思うほどの寒さ。

反射的に私とリーマスさんがその黒い影に杖を突き付け、同じ呪文を唱えました。

「「エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)!」」

私達の杖先から白い守護霊が飛び出し、その黒い影を追い払いました。
子狼の姿をした私の守護霊は廊下まで飛び出し、吸魂鬼を一掃してから戻ってきました。

「お疲れ様でした」

ちゅとキスすると守護霊は消えていきます。
照明が復活していくなら、リーマスさんが私の頭を撫でてくれました。

「綺麗な守護霊だったよ。リクちゃん」
「ありがとうございます、リーマスさん」

褒められました。口元が緩みましたが、

「ハリー!?」

驚いたロンの声にバッと振り返りました。
ハリーが座席の下に倒れ、転がっていたのです。

既にハーマイオニーとロンが倒れたハリーの脇に屈み込んでいました。
ロングボトムくんとジニーちゃんの顔は蒼白です。
私とリーマスさんも心配顔で揺すられているハリーを見つめていました。


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