暫くロンが揺すっているとゆっくりとハリーが目を覚ましました。
ズレた眼鏡を直して、辺りを見回しています。
「大丈夫かい?」
「あぁ。…何が起こったの? あいつは? 誰が叫んだの?」
「誰も叫びやしないよ」
「でも、僕、叫び声を聞いたんだ…」
パキッという軽い音を響かせ、みんな飛び上がりました。リーマスさんが大きな板チョコを割っていたのです。
その大きなチョコの塊をハリーに渡しました。
「食べるといい。気分がよくなるから」
「あれはなんだったんですか?」
「アズカバンの『吸魂鬼』の1人だ」
ハリー以外のみんなにもチョコを渡し、リーマスさんは空になったチョコの包み紙をクシャと丸めました。
「食べなさい。元気になる。
私は運転手と話してこなければ…、リクちゃんは待ってなさい」
「はい。わかりました」
心配性なフェインがリーマスさんのポケットから飛び出し、私の腕に巻き付きました。
フェインにちゅとキスをして、私はハリーに振り返ります。
「ハリー、本当に大丈夫ですか?」
「僕…、…ねぇ、何があったの?」
軽く頭を押さえたハリーにロンが答えました。
「僕、君が引き付けかなんか起こしたのかと思った。なんだか硬直して、座席から落ちたんだ。
そしたらリクとルーピン先生が吸魂鬼に向かって杖を突き付けて何か唱えて…、銀色のものが杖先から飛び出して吸魂鬼を追い払ったんだ」
「怖かったよ…」
ロングボトムくんの声が上ずっていました。
それに気持ち悪そうに肩を揺するロンに、啜り泣くジニーちゃん。
ハーマイオニーも青い顔をしつつも、ジニーちゃんを慰めていました。
私も(直接は)初めて見る吸魂鬼に恐怖を覚えながらも、ギュッと杖を強く握りました。
本当に守護霊の呪文を覚えていて、よかったです。
恐怖を覚えた私がリーマスさんから頂いたチョコを口に挟んでいると、お話してきたリーマスさんが戻ってきました。
みんながチョコを持ったままなのを見て、ふっと笑いました。
「チョコレートに毒なんか入れてないよ?」
「そういえば、リクの家名もルーピン。だったわよね?」
ハーマイオニーが私に振り返りながら聞きました。ハリーとロンも私も見ました。
「ずっと聞きたかったのにリクも先生も眠っていたし…」
にこにことしたリーマスさんが私の頭の上に手を置きました。
私もにっこり笑顔を浮かべます。
「リーマスさんは私の保護者さんです」
「『娘』のリクちゃんがお世話になってるみたいで」
「え!? 娘? リクのお父さんなの?」
みんなはびっくりしているみたいで、私とリーマスさんは顔を見合わせて笑いました。
確かに、見た目には全く似ていないのですから。
「今年のDADAの先生になったんです。素敵です」
「リクが本当に嬉しそうなんだけど」
呟くロンの声は幾分呆れているようでもありました。
その後すぐに汽車が到着して、私はハリー達とは離れ、リーマスさんと一緒に馬車に乗りました。
「ハリー達と行かなくてよかったのかい?」
「ホグワーツに着いたらリーマス『先生』になってしまうんですから。今は独占させてくださーい」
横を向いて頬を膨らませていると、リーマスさんはクスクスと笑っていました。
リーマスさんからまたチョコを頂いて、馬車はだんだんと城に向かっていきました。
門の所まで来ると、また吸魂鬼の姿を見かけました。
漂うような吸魂鬼に、私はリーマスさんの腕に顔を埋めました。
シリウスには手を出させませんよ。と内心誓いながら、門をくぐって行きました。
降りると、玄関の階段の所でハリー達と、ドラコくん達がいました。何故か階段の途中で止まっています。
「どうしたんだい?」
言い争っているような空気を感じ取り、リーマスさんが先に近寄り声をかけました。
ドラコくんはリーマスさんを見ていました。
「いいえ。何も、…えーと、先生」
「ドラコくん、お久しぶりですね」
私がリーマスさんの腕に絡み付きながら、ドラコくんを見上げると彼は驚き顔。
そのまま不満げな顔をしたドラコくんは何もいわずに先に階段を上がっていきましたけども。
ドラコくんが行ってしまった後、リーマスさんが私の頭を撫でてくれました。
目を閉じて、くしゃくしゃと優しく頭を撫でる感触を受けます。頬が緩みました。
「ではリクちゃん、あとでね」
「はい。頑張って下さい『先生』」
「ははは。きちんとしなきゃね」
にっこり笑うとリーマスさんは私の額に軽くキスしてくれました。
先に行くリーマスさん。私はハリー達と合流しました。
「リクとルーピン先生、なんだか恋人みたいだね」
「えっ、えっ?」
苦笑をこぼすハリーの言葉に、私は眉を下げながら顔を真っ赤にさせてしまいました。