私達が大広間に向かっていると、ハリーとハーマイオニーがマクゴナガル先生に呼ばれ、私とロンはぽかんと顔を見合わせました。

「えーっと、先に行きましょうか」
「うん。お腹減ったし」

少し頬を膨らませたロンについて、一緒にグリフィンドール寮の席につきました。
同級生、先輩、後輩に声をかけていると、ハリーとハーマイオニーが戻ってきました。

「どうしたんですか?」

隣のハーマイオニーに聞こうとした時、ダンブルドア校長先生が挨拶をするために立ち上がりました。

キラキラとした瞳で生徒たちに笑いかけています。

「新学期おめでとう!
 皆にいくつかお知らせがある。1つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でボーとなるまえに片付けてしまう方がよかろうの」

咳ばらいを一つ。

「ホグワーツ特急での捜査もあったとおり、我が校はただいまアズカバンの吸魂鬼達を受け入れておる。
 彼らは学校への入口という入口を固めておる。吸魂鬼は悪戯や変装に引っ掛かるようなシロモノではない。
 『透明マント』でさえムダじゃ」

校長先生の言葉に私はひっそりと口元を覆いました。

シリウスの安否を心配しながらも、リーマスさんが立ち上がるのを見て大きな拍手をしました。

「ありがたいことに、空席になっている『闇の魔術の防衛術』の担当をお引き受けくださった」

何故かあまり気のない拍手でしたが、私を見つけ微笑んだリーマスさんに、また締まりなく口元を緩ませました。

「もう1人、新任の先生がおる。
 『魔法生物飼育学』のケトルバーン先生だったが、残念ながら前年度末をもって退職なさることになった。
 そこで後任じゃが、うれしいことに森番役のルビウス・ハグリットが教鞭をとってくださることになった」

ハリー達と顔を見合わせてから、ワッとみんなと拍手をしました。
確かに、魔法生物飼育学の指定書は怪物みたいに暴れ回るやんちゃな子でしたっけ。(フェインのよい遊び相手となっていました)
ハグリッドさんが教師として指定したと言われたらなるほど。納得です。

「さて、これで大切な話はみな終わった。
 さぁ、宴じゃ!」

ご馳走が私達の前に現れて、賑やかな音に私は笑顔を浮かべました。

さて、今年度もはじまりました。


†††


夕食が終わったあと、私はまっすぐにDADAの教室に向かっていました。
もちろんリーマスさんに会いに行くためです。

入るとリーマスさんがお部屋を片付けていました。
私に気がついたリーマスさんはにっこりと笑って、両手を広げました。私はそこにダイブ。

「就任おめでとうございます」
「ありがとう、リクちゃん」

にこにことリーマスさんに抱き着いてたっぷりとリーマスさんを補給していると、ノックの音が響きました。
リーマスさんから少しだけ離れ、扉の方を見ます。

「どうぞ。
 あぁ、セブルス。こんばんは」
「ぴっ」

変な声が出ました。

入ってきたスネイプ先生から逃げるように、リーマスさんの背中に抱き着きました。
ちらりとスネイプ先生を見て、頭を下げました。

「スネイプ先生、こんばんは…」
「ルーピン、早速、生徒を贔屓ですかな」

いつもスリザリンを贔屓にするスネイプ先生から驚きの言葉。

頬を膨らませた私を面白そうに見るリーマスさん。
そのリーマスさんが私を前に出し、私の後ろからぎゅうと抱きしめてくれました。

「リクちゃんはこれから生徒でもあるけど、私の娘であることに変わりはない。
 授業外ぐらいは親子のスキンシップさせてよ」
「もうすぐ就寝時間だが」

時計を見ると確かに。就寝時間まであと少ししかありません。

意地悪なスネイプ先生を私は見つめてから、次に困ったようにリーマスさんを見上げました。
ですがリーマスさんはまたにっこりと笑いました。

「では、セブルス。リクちゃんを送っていってくれないかな?」
「えっ!? リーマスさん!?」
「何故、我輩が」

リーマスさんの言葉に私とスネイプ先生は不満の声。

リーマスさんはにこにこと微笑んだままでした。
スネイプ先生が持ってきた、狼人間への変化を少し食い止める『脱狼薬』が入ったゴブレットを指差しました。

「ほら、私はこれを飲まなくてはいけないし。就寝時間間近でもう廊下も暗いし。
 そして何より、リクちゃんも喜ぶよ」
「り、リーマスさん! 最後おかしいです!」

なんで、そんな、喜んだりしませんよ!?

リーマスさんに抱きしめられたまま、私はリーマスの腕を軽く叩きました。

スネイプ先生は変わらず不機嫌そうでしたが、リーマスさんが私の背中を押して、先生の前まで押すと、先生はくるりと踵を帰しました。
お、送っていっていただけるのでしょうか。

「ほら、送っていって貰っといで」
「リーマスさんなんて、嫌いです……。
 ………嘘です、リーマスさんなんて、大好きです」

横を向いて不服な声を出した私ですが、すぐに負けてしまいました。
もう1度ぎゅっとリーマスさんに飛びついてから、すりすりと頬を寄せました。

「おやすみ、リクちゃん」
「おやすみなさい、リーマスさん。
 良い夢を」

頬にキスしてリーマスさんから離れ、少し先で立ち止まっていたスネイプ先生に駆け寄りました。

顔に両手を当て、赤くなった頬を冷まします。
外国ではおやすみなさいのキスが普通だと言われましたが…、やっぱり恥ずかしいです。

最近、リーマスさんと特に仲がよくなれた気がします。
初めて会ったときは私が一方的に警戒してただけですけども。

今では本当に1番大切な人です。

「公私混同はいただけませんな」

少し先を歩くスネイプ先生が言いました。私は頬を膨らませ抗議。

「授業は真面目に受けますもん」

先生は私の言葉には何も言わず、私はそのままスネイプ先生のあとをついていきました。

階段を上がっている途中、突然スネイプ先生が振り返りました。
私は先生を見上げて、首を傾げました。

「脱獄したシリウス・ブラックはルーピンの旧友だ。
 手引きをする可能性がある」
「……リーマスさんは手引きなんてしませんよ」

スネイプ先生はリーマスさんを疑っているようでした。

リーマスさんが就任の時に、ホグワーツを目指すシリウスが脱獄しているのは、確かに、疑われてしまうことでしょう
でも、私はリーマスさんが疑われているのを直接知って、何か、もやもやとしました。

本当にシリウスの手引きをしているのは、私でしたし。

「どうして先生が今それを言うんですか?」

精一杯の反論をしたあと、先生はまた歩き出してしまいました。
私はまたパタパタとスネイプ先生の後ろを追いかけます。

言葉はありません。ただ無言のまま、先生の背中を見つめていました。

「スネイプ先生、おやすみなさい。
 ありがとうございました」

そしてそのまま無言のまま、グリフィンドール寮の近くまで来た時、私はぺこりと頭を下げました。
頭を上げた時にはすでに先生は背中を向けていました。

何故か、ほんの、ほんの少しだけ、淋しくなりました。


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