ホグワーツでの1日目。
今日の私の体調は絶不調でした。
がんがんと痛む頭、ぼんやりとする思考。完全に、風邪です。全く、1日目なのに!
最近は眠っても、シリウスと一緒に走り回ったりして、…疲れていたんでしょうか。
前までは座ってお話しているだけでしたが、今はシリウスもピリピリとしてあまりお話もしませんし…。
私は長く息をついてまたベッドの上に横になりました。
整えたシーツにしわが寄ります。先程せっかく直したのですが、それどころじゃありません。
目を閉じることなく、投げ出した指先を見つめます。
その指先に起きてきたフェインが絡まりました。
心配そうに顔を覗くフェインに、私は小さく微笑みます。
「シュ…」
「んー、…やっぱりお休みします」
私は諦めてフェインを軽く抱きしめて、小さく囁きました。
「体調不良で午前中は休みます。
ハリーに伝言お願いできますか?」
「シュウ!」
「午後からは戻りますね。ハグリッドさんの初授業までには体調を整えて出ます」
私にキスをしてから離れていくフェインを淋しく思いながら、私はゆっくりと目を閉じました。
ヘビ語のわかるハリーになら伝言が伝わるでしょう。
問題はヘビの姿に驚いた生徒に駆除されないようにすること、ですね。
小さく溜め息をついて目を閉じると、すぐに真っ暗い闇が広がりました。
†††
私は禁じられた森の端にあるハグリッドさんの小屋を目指していました。
体調は、まだ全回復とは言えませんが朝よりは良くなっていました。
綺麗に晴れた空の、暖かい太陽を少し恨みながら、鞄を抱えた私はフェインと一緒に声のする方へと向かっていました。
やがて放牧場のような場所に出ました。
そこでは、すでにみんなが授業を始めていました。
駆け寄ると私の2倍近くある、身体は馬、頭は鷲そっくりな生き物がすぐ側にいました。背中には羽があり、鉤爪は酷く鋭く。
「リク! いかん! 離れろ!」
ハグリッドさんの声が聞こえる中、その生き物は私に向かって吠え声をあげると、大きく鋭い嘴を広げました。
びっくりした私が固まっていると、私を警戒していたその生き物がゆっくりと私に近づいてきました。
肩に乗ったフェインが警戒の声を出します。
ですがその生き物はキラキラとした瞳で私を見ているだけで、その鋭い爪を上げようとはしていませんでした。
私がおずおずと手を伸ばして嘴に触れると、その子はきゅうきゅうと可愛らしい声を零していました。
思わず笑みがこぼれます。
「ふふ。可愛いですね」
拍手。
音に振り返るとハグリッドさんや、ハリー達、グリフィンドール寮生、合同だったスリザリン寮生の一部が拍手をしていました。
私は首を傾げます。ヒッポグリフが私の頭に首を乗せました。
「ヒッポグリフは誇り高いんだ。そんなに懐かれちょる奴は見たことない!」
「そう、だったんですか。(普通に触ってしまいました…)
あ、ハグリッドさん。授業遅れてすみませんでした」
「うんにゃ。大丈夫だ。リクもみんなに混ざって練習してくれ」
私に頬擦りしていたヒッポグリフをひと撫でした後、私はハリー達の元に向かいました。
近くには栗毛色のヒッポグリフがいました。カチカチと嘴を鳴らして私を見ています。
ハーマイオニーが私を見て、ぎゅっと抱きしめてくれました。
「リク! 体調はもういいの?」
「朝よりは良くなっています。ハグリッドさんの初授業には出たかったですし…」
「無茶しちゃ駄目よ」
心配顔のハーマイオニーに私はにっこり笑いました。フェインが私の頭の上へと登ります。
私は少し離れた位置にいるヒッポグリフを見つめました。
「えっと、本当はどうやるんですか?」
「んっと…、まずヒッポグリフの方が動くのを待って、お辞儀をする。
お辞儀を返してくれたら触ってもいいんだ」
説明してくれたロンの言葉通り、ヒッポグリフが動き出すのを待ちました。
動き出したヒッポグリフが、そのまま私のすぐ側までやってきて、その鳥のような頭を私に擦り寄せてきました。
私はロンを見ます。私の横にはきゅうきゅうと甘えた声を出すヒッポグリフ。
「お辞儀する暇がなかった場合は」
「もうリク、やらなくても大丈夫じゃない?」
「動物に好かれるフェロモンでも出ているのかしら」
呆れたようなロンと、真剣に考えるハーマイオニー。
私はクスと笑ったあとヒッポグリフの頭を撫でていました。
ハリーは、とキョロキョロと周りを見ると、私達より少し離れた場所、1番大きなヒッポグリフに向かっていました。
ドラコくん達もハリーと同じヒッポグリフに向かっています。
お辞儀まで成功させていたドラコくんは目の前のヒッポグリフの嘴を撫でていました。
「ポッターにできるんだ。簡単に違いないと思ったよ。
…そうだろう? 醜いデカブツの野獣くん」
一瞬、鉤爪が光ったあと、ドラコくんは草の上で身を丸めていました。
ローブが見る見る血に染まっていきます!
「ドラコくん!?」
クラス中がパニックになる中、ハグリッドさんがドラコくんを軽々と抱えあげ城へと向かっていきました。
私達、生徒もショックを受けたまま、そのあとをついていきました。
フェインがスルリと私から離れ、ハグリッドさんの肩に乗りました。
魔法で出されたフェインは、魔法を出した本人であるドラコくんが産みの親。のような存在で、フェインは心配そうにドラコくんを見ていました。
2つの寮が不安を抱えたまま、それぞれの寮に向かいました。