ハロウィーンの日。

保護者のサインがいるホグズミード行きの許可証をいただけなかったハリーが、寂しげにロンとハーマイオニーの背中を見送っていました。
何度も振り返るハーマイオニーやロンに手を振るハリーに、私も心が痛みました。

汽車に乗ろうとしない私を見て、ハリーが不思議そうにしました。
3年生はほとんど全員が行っていましたから。

「リクは行かないの?」
「私は今日、リーマス先生のところに行こうと思っていたので。
 次こそは許可をいただいて一緒にホグズミードに行きましょうね」

私はまた微笑んだあと、ハリーの手を引きました。

「よかったら一緒に行きませんか?」
「え? でも、せっかく親子で」
「いいんです! 大人数の方が楽しいですよ」

おどおどとしたままのハリーの手を握って、そのままリーマスさんのお部屋まで行きました。
3回ほどノックをして、リーマスさんを待ちます。

顔を覗かせたリーマスさんはハリーを見たあと、少し驚いた顔をしましたが、にっこり笑いました。

「ちょうど良かった。今、次の授業で使うグリンデローが届いたところだ」
「何が、ですって?」

ハリーが聞きます。私も首をかしげました。

中に入ると、部屋の隅に大きな水槽が置いてありました。中には鋭い角を生やした緑色の生き物。
ちょっと、可愛いです。つんつんと水槽をつつくと、それは不機嫌そうに私に牙を向きました。

「水魔だよ。河童をやったあとだし、あまり難しくはないとは思う。
 紅茶はどうかな、ハリー?」
「いただきます」
「リクちゃんは砂糖2杯?」
「ミルクもたっぷりで」

まだ水魔で遊んでいた私が答えると、リーマスさんはにこと笑っていつものように甘い紅茶をいれてくれました。

紅茶を飲んでいると、ハリーがなにやら難しい顔をしていました。
私が口を開こうとすると、丁度リーマスさんがハリーに聞きました。

「心配事があるのかい? ハリー」
「…………先生、ボガートと戦った日のことを覚えていますか?」

ゆっくり話しだしたハリー。リーマスさんが紅茶を飲みながら頷きました。

「どうして僕に戦わせてくれなかったんですか?」

唐突なハリーの質問に、リーマスさんは少し眉を下げました。
微笑みをたたえながらリーマスさんは答えました。

「そうだね…。ボガードが君に立ち向かったら、ヴォルデモード卿の姿になるだろうと思ったんだ。
 あの職員室でヴォルデモード卿の姿が現れるのは良くないと思った。みんな恐怖に駆られてしまうからね。
 私的な意見を出すと、リクちゃんもいたからね」

「この子、怖がりだから」と笑うリーマスさんに私は頬を膨らませて、彼の横腹をつつきました。
ハリーはそんな私達を見ながらまた答えました。

「最初はヴォルデモードの姿を思い浮かべました。
 でも、僕、吸魂鬼のことを思い出して…」

その言葉に、リーマスさんは感心したようでした。
そして驚いた顔のハリーに微笑みました。

「それは、君が最も恐れているのが恐怖そのものということなんだ。
 ハリー、とても賢明なことだよ」

リーマスさんの言葉は私達には少し難しくて、顔を見合わせたあとに首を傾げました。

その時、ドアをノックする音が聞こえました。

リーマスさんがお返事をして、入ってきたのはゴブレットを持ったスネイプ先生でした。
びっくりした私はリーマスさんの手を掴みます。ぎゅう。

スネイプ先生は私達の顔を見ると、怪訝そうに目を細めました。

「あぁ、セブルス。どうもありがとう。このデスクに置いていってくれないか?
 ちょうど今、ハリーとリクに水魔を見せていたところなんだ」
「それは結構。
 ルーピン。すぐに飲みたまえ」

スネイプ先生は水魔を見ないまま答えます。
肩をすくめたリーマスさんが返事をしながらゴブレットを持ち上げました。

少し湯気のたつそれは、いつもながらとっても苦そうです。

「一鍋ぶんを煎じた。もっと必要とあらば」
「多分、また明日少し飲まないと。セブルスありがとう」
「礼には及ばん。
 ………それと」

振り返ったスネイプ先生が私に、いつも見慣れたそれを手渡しました。
緑色の綺麗な瓶に入ったそれは、金平糖によく似た私の翻訳薬です。

はっと鞄の中を探ると、やっぱりそれはいつもある場所にありませんでした。

「あ、ないです!」
「昨日、地下牢教室に忘れていった」
「ありがとうございます。これがないと大変です」

瓶を両手で受け取り、締まりなく笑っていると、不機嫌そうな顔をしたスネイプ先生はすぐに部屋を出て行ってしまいました。

そのまま受け取った瓶を抱えていると、リーマスさんがにっこり笑っているのを見かけました。

「な、なんですか?」
「ううん。なんでもないよ」

ニコニコ笑っているリーマスさんをじーっと見ていると、怪訝そうな顔をしていたハリーにリーマスさんが声をかけました。

「スネイプ先生がわざわざ私達の為に薬を調合してくれるんだ。
 私は昔から薬を煎じるのは苦手でね。
 …砂糖をいれると効果がなくなるのは残念だ」

リーマスさんがゴブレットを持ち上げて香りを嗅ぎました。顔をしかめます。
いい香りではありません。確かに。

リーマスさんは一口飲んで、身震いしていました。

「どうして?」
「このごろどうも調子がおかしくてね。この薬しか効かないんだ。
 これを調合できる魔法使いは少ないからね」
「リクも?」
「はい。私も自分で作るとうまくいかないので、スネイプ先生に調合してもらっています」

スネイプ先生が嫌いなハリーはまだ、あまり信じられないみたいでした。
ゴブレットの中身を飲んでいくリーマスさんを見つめています。

「スネイプ先生は闇の魔術に関心があるんです」
「そう?」
「人によっては、スネイプ先生はDADAの授業を得るためにはなんでもするだろう、って」

私が少し不安になってリーマスさんを見つめましたが、彼はゴブレットを飲み干しました。
苦さに顔をしかめたあと、私の頭を撫でてくれました。

「ハリー、リク。私は仕事を続けることにしよう。あとで宴会で会おう」

返事をして立ち上がった私達はリーマスさんの部屋からでました。
まだ怪訝そうなハリーに私が言葉をかけました。

「リーマス先生のお薬、今、私もスネイプ先生から教えてもらおうとしている所なんです。
 そんなに怪しまないでください」
「でも、スネイプだよ?」
「私の薬も、1年生の頃から作っていただたいているんです。大丈夫ですよ」

瓶を振るうと綺麗な粒がカラカラと音を立てました。


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