帰ってきたハーマイオニーとロンにホグズミートのことをたくさん聞きながら、ハロウィーンの食事を楽しみました。

そこでハーマイオニーの鞄からフェインが出てきて私はびっくり。

「フェイン! 一緒について行っていたんですか?」
「シューシュー」
「『リクの友達に会った。多分』って」
「私の?」

フェインは私の肩に登って、咥えていた新聞の切り抜きを私に渡しました。
そこにはロンがエジプトに行った時の写真が。ロンが不思議そうに私の手元を覗き込みました。

「僕の家族じゃん。あ、まって上に何か書いてるよ」
「S・B? リクの友達の名前?」

首をかしげたハーマイオニーに私は苦笑を返しました。
新聞の切り抜きを鞄にしまってから、フェインの頭を撫でました。

S・B。シリウス・ブラック。

シリウスはホグミズートまでは来ているようです。
この調子だったら明日にはホグワーツにつくでしょうね。

私は小さく微笑んでから、ハリー達に向き直りました。

「そんなところです。あ、リーマス先生には内緒にしていてくれませんか?
 えっと、その、男の人なんで」
「え!? それって」
「か、彼氏さんとかとは違いますよ!? 本当にお友達さんです」

目を輝かせたハーマイオニーに私はぶんぶんと手を振ります。
フェインも一緒になって首を振りました。シューシューと声を上げています。

「『リクの彼氏は俺』だって」
「どさくさにまぎれないでくださいね、フェイン」

本当、いつも翻訳ありがとうございます。ハリー。

夕食を食べ終わり、大広間から談話室に向かうと、談話室の前で何やら人だかりが出来ていました。
ざわざわとした空気にハリーが怪訝そうな顔をして背伸びをします。

「なんでみんな入らないんだろう」

嫌な予感。パーシー先輩が人並みを掻き分けていくのに乗って私達も前の方へ出ました。

「何をもたもたしているんだ? 全員、合言葉を忘れたワケじゃないだろう?
 通してくれ、僕は監督生だ」

前にたどり着いたパーシー先輩が押し黙りました。
背の小さい私はまだ人並みに埋まって何がなんだかわからないでいます。

パーシー先輩が鋭く声を上げました。

「誰か、ダンブルドア先生を呼んで。急いで」

やっとのことで前までたどり着きました。
ハーマイオニーが息を飲んでハリーの腕につかまります。

私もそれを静かに見つめました。

いつもいる太った婦人の肖像画が滅多斬りにされて、キャンパスの端が床に散らばっているのでした。

いつの間にかダンブルドア校長先生が駆けつけてきていました。
その後ろにはマクゴナガル先生、スネイプ先生、それにリーマスさんもいました。

リーマスさんは私を見つけると不安そうな顔をして私の肩に両手を置きました。
私もリーマスさんの腕に頬を寄せてぎゅうと抱きしめました。

小さく鳴いたフェインが目に入って、私はフェインを床に下ろしました。

「フェイン、お願いします」

彼に任せておけば、きっと直ぐに見つかるでしょう。
みんなの足元を抜けていくフェイン。私はそれを静かに見送りました。

楽しげにやってきたピーブズくんがくるんとダンブルドア校長先生の上で回ったあと、恭しく頭を下げました。

「校長閣下。そいつは婦人が入れてやらないんで酷く怒っていましたねぇ」
「婦人は誰がやったか話したかね?」

ニヤニヤと笑ったピーブズくんに校長先生が静かに聞きました。
悪戯ばかりのピーブズくんも校長先生には敬意を払っているようでした。

「あいつは癇癪持ちだねぇ。あの、シリウス・ブラックは」

シリウスがホグワーツに来ました。


†††


それから。

先生方が城中を探すことになり、生徒の安全確保のため大広間で全校生徒が眠ることになりました。

何百の紫色の寝袋が現れて床いっぱいに敷き詰められています。
私達はそれぞれに寝袋を引っ張って隅の方に寄って行きました。

「ねぇ、ブラックはまだ城の中だと思う?」

ハーマイオニーが不安そうに聞きました。
私もハーマイオニーの隣に並んで、ひそひそと話しだしました。

「もう、城からは出てしまったんではないでしょうか?」
「でもダンブルドアはまだいると思ってるな」
「いったいどうやって入り込んだんだろう?」

みんないろんな推測をしましたが、ハーマイオニーが声を出しました。

「あのね、ホグワーツの中ではこっそり入り込めないようにいろんな呪文がかかっているのよ。
 ここでは『姿現し』はできないし、吸魂鬼を騙す変装なんてない。空を飛んできたって見つかったはずだわ。
 秘密の抜け道はフィルチが全部知っているから、そこも吸魂鬼は見逃していないはずだし」
「灯りを消すぞ!」

消灯時間が来ていました。学生達が不満げな声を出しながらも寝袋へと入っていきます。

ですが、私は眠れないでいました。

本当なら今すぐにでも夢の中でシリウスの元に行きたかったのですが…。

フェインもまだ帰ってきていません。
シリウスに会ってそのまま、一緒にいるのか。まだ見つけられていないのか。

不安がいっぱいで眠るどころのお話ではありませんでした。

大広間には見張りのために先生が1時間ずつ入ってきて何事もないかを調べていきました。

そして朝の3時くらいになってダンブルドア校長先生が入ってきました。

そのまま狸寝入りをしてしまおうかとも思いましたが、私はゆっくりと起き上がって校長先生を見つめました。
そこを巡回を続けていたパーシー先輩に見つかりました。

「リク、早く寝ないと」
「いいんじゃよ。
 話を聞かせてくれるかの?」

パーシー先輩を止めたダンブルドア校長先生に頭を下げて、私は寝袋から出て立ち上がりました。
まず、校長先生がパーシー先輩に話しかけました。

「ここは大丈夫かの?」
「異常なしです、先生」
「よろしい。明日になったらみんなを寮に移動させるが良い」
「それで『太った婦人』は?」
「3階の絵に隠れておる。合言葉を言わないブラックを拒んだらしいのう。
 婦人はまだ動転しておるが、落ち着いてきたらフィルチに言って婦人を修復させよう」

その時、大広間の扉が開きました。スネイプ先生です。

「4階はくまなく探しました。ヤツはおりません」

先生の報告に、私は誰にも気づかれないようにほっと安心しました。

シリウスは捕まりませんでした。
きっと禁じられた森に隠れているはずです。

スネイプ先生がちらりと私を見たあと、すぐに校長先生を見ました。

「校長、ヤツがどうやって入ったか、何か思い当たることがおありですか?」
「セブルス、いろいろあるが、どれもこれもありえないことでな」
「先日の我々の会話を覚えているでしょうか。1学期が始まった時の?」
「いかにも」
「どうも…内部の者の手引きなしにはブラックが本校に入るには、ほとんど不可能かと」

その言葉にずっと黙っていた私はムッと頬をふくらませました。
スネイプ先生はやっぱりリーマスさんを疑っているのです。

手引きをしたのは私ですよ! と言うわけにはいきませんが、私がしていることでリーマスさんが疑われるのはやっぱりいい気分ではありません。

「わしはこの城の内部の者が手引きをしたとは考えておらん」

ですが校長先生はスネイプ先生にきっぱりと言いました。
口を引き結んだスネイプ先生は少し怖い顔をしていました。

「スネイプ先生」

私はゆっくりと口を開きました。怪訝そうな顔をしたままの先生が私をちらりと見ます。

「リーマス先生は今どこにいますか?」
「……天文台の方を調べに行っている」
「シリウス・ブラックは見つかっていないんですね?」
「何か知っているのか?」

背の高いスネイプ先生に見下ろされると、怖いものもありましたが、私はそのまま先生を見つめていました。

頭の端がまたぴりぴりと痛み出していました。
ここに私がいることで、何かまた未来が変わってしまうのでしょうか?
『何か』はいつも私を止めようとします。

ですが私はじわじわと響く頭痛を無視しました。
私は未来を変えたいのです。これぐらいのことは!

「スネイプ先生。シリウス・ブラックはハリーを殺そうとは―――」

ぐわんっと大きく視界が歪んで、私の体が横になりかけました。
伸ばされた腕に掴まると、顔をしかめたスネイプ先生が目の前にいました。

何事か分かっていないパーシー先輩が不思議そうに私を見ています。

予想以上に痛む頭に私の息が少し上がっていました。
ぎゅうとスネイプ先生のローブを握り締めて、痛みに耐えます。

そんなに凄いこと言おうと思ったわけじゃないんですけどね! 意地悪!
私は何かに不服を言いつつ、私は困ったようにもう1度スネイプ先生を見上げました。

「すみません。何も伝えられなくて」
「………無理をするな」

その言葉にへらっと笑った私は頭を抑えて、スネイプ先生から離れました。
心配してくれているような言葉に、また締まりなく笑いました。

何故か少し嬉しいと感じていました。

「……おやすみなさい。ダンブルドア校長先生。スネイプ先生。パーシー先輩」

私はぺこりと頭を下げて、また寝袋の中に入りました。
やっぱり目は冴えていて、眠れそうにありませんでした。

明日、誰よりも先に、シリウスを見つけなくてはいけません。


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