「Ms.ルーピン」

人気の無いこの場所で話し掛けられたのはそれから暫くがたってからでした。

振り返るとそこにはスネイプ先生の姿が。

びっくりした私はばっと両手で顔を覆って、横を向いてしまいました。

「Ms.ルーピン、何故こんな時間に。就寝時間は過ぎているぞ」

まじですか。

そんな時間までいたとはさすがに思いませんでした。
両手の隙間からスネイプ先生を見ます。手を戻して、俯きました。

「すみません…、気付いてませんでした。
 談話室に戻ります」
「待て」

踵を返すとスネイプ先生が私を引き止めました。さすがに減点は免れられないのでしょうか。

また減点されてしまうと、肩をすくめているとスネイプ先生が今来た道を引き返し始めました。

「この時間に生徒1人では歩かせられない。
 行きますぞ」
「え。は、はい」

どうやら送って下さるようです。…今は、できればスネイプ先生にはあまり会いたくはなかったのですが…。

その黒い背中を追い掛けていきます。鳶色のリーマスさんとは違う真っ黒な髪が見えました。

「何故あそこに?」
「……リーマス先生に付いていったんです。
 待っていたら、すぐに戻ってきてくれると、思ったんです」

狼人間には、ならなかったかもしれないから。

私はそんな思いを抱きながら、階段を上がります。静かな城内で足音がだけが響きます。

気付けば城の中は真っ暗で、先生の持つ明かりに、壁の絵の人達が迷惑そうに呻きました。

夜の城を改めて見ると、あちらこちらで絵が動く気配を感じて、時々、ゴーストさんがいるのが見えて、だんだん怖くなってきました。
今まではあまり意識していなかったのに。

私は目の前にいた先生のローブを掴みました。
スネイプ先生が驚いたようすで足を止めました。

「……何か?」
「先生はお城の中、怖くないんですか?」
「怖いのか」
「いいえ。全く」

強がってみましたが、日本で見たお化け屋敷よりまだリアルですよ、ここ!
リアルに絵が動いていますしね!

スネイプ先生は鼻で笑うと、私の手首を掴んで歩き出しました。
リーマスさんだったらここで、手を繋いでくれるのに!

手を繋いでほしい訳じゃないですけど。

「ごめんなさい」

私はいきなり、先生の背中に言葉を投げました。
何も言わないスネイプ先生に私は言葉を続けます。

「昼間、授業を投げ出したりして。
 でもスネイプ先生も狡いです。
 人狼をテーマにするなんて。ハーマイオニーがリーマス先生に気付いてしまったらどうするんですか」

実際にハーマイオニーはリーマスさんの正体を見抜いてしまいます。
お話では今年の最後ですが、もしかしたらそれよりも前にリーマスさんがこの学校を出ていってしまうかもしれません。

「責任転嫁かね?」
「………リーマス先生がいなくなるなんて嫌なんです。
 私はリーマスさんが好き。ですから」

答えるとスネイプ先生がまた少し振り返って私を見ました。
明かりに照らされて見える先生は、何だか怒っているようで、私は怖くなりました。

「親も子も、似た者同士ですな」
「?」
「相思相愛すぎる」

忌ま忌ましげに呟いたスネイプ先生が私の手を離しました。

グリフィンドール寮の前でした。

私はスネイプ先生に頭を下げます。深々と下げたあと、また先生を見ました。
そういえばこの前も先生に送ってもらったんでしたっけ。

「ありがとうございました」
「グリフィンドール5点減点」
「え」
「夜中を徘徊していたからだ。
 さらに昼間の我輩に対する態度でさらに5点減点」
「えぇっ! いえ、減点無しもおかしいとは思いましたが、今ですか?」
「口答えによりさらに1点減点」
「………」

私は口を閉じます。これ以上減点はさせられません。
キッとスネイプ先生を睨んでいると、意地悪そうに笑った先生が明かりをもって戻っていきました。

少し悔しかった私はスネイプ先生の背中に聞こえるように声をかけました。

「私はスネイプ先生が大嫌いです。おやすみなさい!」

振り返るスネイプ先生が何かを言う前に、私は合言葉を言って談話室に滑り込みました。

肩を撫で下ろし、暖炉の前まで行くと、横からハーマイオニーに突撃されました。

「きゃ!?」
「リク! 今まで何処にいたのよ!!
 貴方、教室を飛び出すし、何処探してもいないし、ルーピン先生も知らないっていうし」

ハーマイオニーの肩から毛布がずり落ちました。

ずっと、待っていてくれたのでしょうか。

私の事をぎゅうと抱きしめてくれるハーマイオニーを抱きしめ返しました。
彼女の肩に顔を埋めながら私は静かに謝りました。

「ごめんなさい。ハーマイオニー…、心配をおかけして。
 私、ずっとリーマス先生の部屋で寝ていたのです。リーマス先生は不在でしたが」
「そうだったの…。でも身体も冷えてるじゃない。ほら、暖炉に」

ハーマイオニーに導かれ、暖炉で暖まっていると、いつの間にか眠気が襲ってきて、気付けば自分のベッドに寝転がっていました。

満月が輝いていました。


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