朝起きると、談話室にはすでにハリーが起きていました。今日はクィディッチの試合があるのです。
外では嵐がごうごうと鳴っています。こんな日なのに試合は行われるのでしょうか。
グリフィンドール対ハッフルパフのクィディッチの今年最初の試合でしたし、皆さん盛り上がっていました。
ハリーも緊張しているのでしょうか。談話室のソファに座りながらぼんやりとしていました。私はその隣に座ります。
「ハリー、おはようございます」
「おはよう、リク。
昨日は大丈夫だったの?」
「はい。すみません。心配おかけしました」
にこりと笑うハリーに私も笑い返して、ハリーの手首に巻かれたミサンガに気が付きました。
「そのミサンガ」
「前にリクに貰った奴だよ。結構気に入ってるんだ。
これのおかげて、クィディッチでは今のところ負け無しだしね」
「ふふ。それはよかったです」
またにっこりと笑ったあと、私は急にそれを思い出しました。
嵐? クィディッチの試合? 確か、この嵐で。クィディッチの試合で。ハリーは。
怖くなった私はハリーの手を掴みました。驚いたハリーが私を静かに見ます。
「リク?」
「怪我、しないでくださいね。ハリー。
クィディッチに負けたとしても、ハリーは怪我をしないでください」
両手で包み込んだハリーの手は私よりも温かくて、恐怖感で溢れそうな私をゆっくり落ち着かせていくようでした。
怪訝そうなハリーの顔を見て、私はパッと手を離しました。
「ご、ごめんなさい! クィディッチに負けたらだなんて。失礼ですよね!
ハリー達が勝ちますよ! 絶対!」
「リク、大丈夫だよ。
ありがとう」
ハリーが私の頭を撫でてから、もう1度私の手を繋いでくれました。
慌てていた私が落ち着きます。
またにへらと笑うと、ハリーもにっこり笑ってくれました。
†††
雨は「バケツをひっくり返したような」というよりもさらに降っていました。
傘も途中で吹き飛び、雨はたたき付けるようです。
そんな中でもクィディッチの中止など有り得なく、そして学校中が試合を見に出ていました。
雷も鳴り響く中、ロンとハーマイオニーと観客席に付いた私は、そこで足元にフェインがいるのに気が付きました。
え、あれ? シリウスと一緒にいるはずなのに!
「フェイン!? どうしてここに」
「久しぶりに見たわ。今まで何処にいたの?」
ハーマイオニーが首を傾げるのをよそに、フェインはシュルシュルと進みはじめました。
私もそのフェインを追い掛けます。
「リク! 何処行くんだ? 試合始まるぞ!」
「私、フェインに付いてきますねー!
試合の後で会いましょー!」
後ろにいるロンに答えてから、私はフェインに追いついて抱えました。
フェインの案内する先、誰もいない観客席の陰に真っ黒い犬が座っているのを見つけました。
「シリウ――」
「待った。名前は呼ばない方がいい」
駆け寄ると人の姿になったシリウスに口を押さえられて、隅に寄せられました。
私はシリウスに向き直って、頬を膨らませました。
「危ないじゃないですか。見付かったらどうするんですか!」
「だってハリーのクィディッチの試合だろう? 見たいじゃないか」
「確かに、見たいですけども…。
……絶対、静かにしてなきゃ駄目ですよ」
「わかってる」
シリウスはすでに犬の姿となってぴったりと私にくっついていました。
久しぶりに私に会ったフェインも私にぴったりとくっつく中、私達は観客席の陰からハリーを覗いていました。
「きゃっ、……ブラッジャーに当たりましたよ、今…。大丈夫でしょうか…」
「何でそんなに見えるんだ。
雨でどれがハリーだかわからないんだか」
「人の姿で見てちゃ駄目ですって!
おすわり!」
「後で覚えとけよ、リク」
また犬の姿になるシリウスががぶがぶと私の手を甘噛みしました。
苦笑を零して謝ってから彼の頭を撫で、私はまたハリーを見ます。
今はタイムアウトしているようでした。
そして試合が再開したときに、雷が激しく鳴り響きました。
嵐はますます酷くなっているようです。
またピカッと雷が光った時に、遠く飛び回るハリーと目が合った気がしました。
「逃げてください」
呟いた私にシリウスが首を傾げました。
見上げると遠く上空では、雨が雪や氷になっているのが見えました。
「シリウス。早く。ハリーに1瞬見られましたし、空から吸魂鬼が来ます。
早く!」
吸魂鬼と聞いて、シリウスが駆けるように森に向かいました。
森の手前で私に振り返るシリウスに私は、小さく手を振りました。
フェインが暫く私の肩に乗ったままでしたが、やがてゆっくりと私から下りました。
「フェインはシリウスを守ってあげてください」
「シュ」
頷いたフェインを名残惜しく思いながら、フェインもシリウスの姿を追い掛けていきました。