「まっすぐに私のところにくるべきでした!」

マダム・ポンフリーはハリーと私を見ると憤慨して私達の骨抜きな腕を持ち上げました。

「骨折ならあっという間に戻せますが、骨を元通りに生やすとなると……」
「先生、できますよね?」
「もちろん、できますとも。でも、痛いですよ」

そしてハリーと私にパジャマを放ってよこしました。
私の左肘から先はゴムのような気味の悪い腕になっていました。

それを困ったように眺めながら、ハーマイオニーにお願いしました。

「手伝ってくれますか?」
「もちろん」
「なぁ、ハーマイオニー、これでもロックハートの肩を持つっていうの?」

カーテン越しにロンが話しかけました。
私も苦笑ばかりを零していました。

着替えたあとはいつものカーディガンを羽織りました。

そこでハリーの声も聞こえました。なんだかハリーも不機嫌そうです。

「リクは反省してよね」
「ハリー?」
「あんな時に手を伸ばすなんて危なっかしいんだから」
「でもハリーが」
「もうしないでよ」
「………ふぁーい」

ハリーが怒っているようでしたので、私はションボリと肩を落としました。
心配してくれているみたいなので悪い気はしませんでしたが。

ちょうど着替え終わって、カーテンが開くとハーマイオニーがハリーの頭をこちんと叩きました。えぇっ?

「リクは貴方が心配だったのよ。怒っちゃ駄目よ!」
「ねぇハーマイオニー、僕も骨なしになってるんだけど」
「あぁ、私のリクの綺麗な腕が…」

ハーマイオニーがぎゅうと私を抱きしめました。ハリーがじとと私と見ています。

私はまた苦笑を返して、現れたマダム・ポンフリーに視線を移しました。

「今夜は辛いですよ。骨を再生するのは荒療治です」

渡された薬は喉が焼け付くようでしたが、いつも飲んでいる翻訳の金平糖よりは幾分ましな味がしました。
飲み干すと、噎せていたハリーが私を見て眉をひそめました。

「リク、こんなのよく飲めるね」
「ふふ。これより苦いもの飲んでますから」
「えぇっ、嘘でしょ」

私はぴょんとハリーのベッドに飛び移り、ベッドの端に腰掛けました。ロンがニヤッと笑います。

「とにかく僕らは勝った」
「そうですよ! ハリー、お疲れ様でした!」

4人で狂ったブラッジャーの話をしていると、医務室のドアが開いてグリフィンドールのクィディッチ選手が入ってきました。
皆さん泥んこでびしゃびしゃです。

私は慌てて、近くのタオルを渡しました。ウッド先輩がわしゃわしゃと頭を拭きます。

「ハリー、チョーすごい飛び方だったぜ」
「ふふ。ジョージ先輩も格好よかったですよー」
「リク、俺は?」
「もちろん、フレッド先輩も」

遊びはじめてケーキや、お菓子などの持ち込みで私達のベッドの回りで軽いパーティーが始まろうとしていました。

マダム・ポンフリーが入って来るまでは。

「この子達は休息が必要なんですよ。出て行きなさい! 出なさい!」

数分後には2人でしょぼんとそれぞれのベッドで眠っていました。


†††


次の日、目を覚ますと、ベッドがもう1つ増えていて、私は酷く驚きました。

もう2人目の秘密の部屋の被害者が出ていたのです。
石になっていたのはハリーの追っかけをしていたコリン・クリービーくんでした。

急いで着替えると、カーテンを開けて起きていたハリーを見ました。
腕はまだこわばったままでしたが、綺麗に再生していました。

「おはようございます。ハリー」
「おはよう、リク。腕は大丈夫?」
「もちろん。ハリーは?」
「僕も大丈夫。
 ねぇ聞いてよ、昨日の夜ね」

話し始めようとしたハリーに気がついたマダム・ポンフリーが朝食を持ってきて、ハリーのお話は中断してしまいました。

オートミールを食べた私達はマダム・ポンフリーから退院の話しが出て、すぐにグリフィンドール寮に戻りました。
ですが、寮に2人はいませんでした。

「どこに行ったんだろう?」
「あ、あそこは? マートルちゃんの……」

直行すると、2人はそこにいました。
ポリジュース薬作りに取り掛かっていたようです。

狭い小部屋に4人ぎゅうぎゅうと入ると、ハリーくんが昨晩の話をしてくれました。

ドビーという屋敷しもべ妖精がハリーを守るという名目で、逆にハリーに危険を及ぼしていたようです。
汽車に乗れなかったのも、狂ったブラッジャーのことも、ドビーらしいです。

「ドビーが君の命を救おうとするのをやめないと、結局、君を死なせてしまうよ」
「じゃあ、早くポリジュース薬作りますか?」

私も大鍋の前に立ち、鍋を掻き混ぜました。1度作ったことがある私にはお手の物です。

「リク、あと薬草お願いしても…?」
「はい。今日、腕が治ったので行ってみますね」


†††


「余計な事をしでかしたようですな」
「……私が余計な事した訳じゃありませんよーぅ」

そして私は地下牢教室に来ていました。
『ぺしゃんこ薬』の予備を作りながら、私はばれないようにスネイプ先生の薬品棚をちらちらと見ていました。

「未来を知っているなら黙っていればいいだろう」
「………勝手に身体が動いちゃったんですもん。ハリーにも怒られたんで、反省はしました。後悔はしてませんけど」

肩をすくめながら、私は出来た『ぺしゃんこ薬』を瓶に詰めて、数本持ちました。
ごわばった腕に、ぺしゃんこ薬が落ちそうになると、スネイプ先生が横から出て来て、薬を全て持ってくれました。ああ。すみません。

「割って、材料を無駄になどするな」
「はい。気をつけます……
 先生の薬草棚に入れてきますね」
「まて、試していない」

スネイプ先生は持った瓶を抜き取ると、実験用の葉に1滴落としました。
葉はぺしゃーと潰れて行きました。少し期待した私はスネイプ先生を見上げます。

「先生、点数は」
「この程度の薬では点は与えん」

む。頑張ったのに。戻してきますね。と少し力強く言ったあと、先生の薬品棚に入りました。

(毒ツルヘビ…毒ツルヘビ…あ、ニ角獣の角も…)

ささっと必要な材料をポケットに入れ、私はスネイプ先生のところに戻りました。

「スネイプ先生、次は何を作りますか?」
「『元気爆発薬』を。作り方は黒板に」

作り方を睨むと、あまり難しい調合ではありませんでした。
なんだが今日の調合は比較的楽なものばかりです。

(……私の腕を気遣ってくれてるのでしょうか?)

そんな思いは「まさか」の一言ですぐに流されていきました。


†††


ポリジュース薬があと1週間ばかりでできあがるという頃、『決闘クラブ』の案内が大広間に張り出されていました。

「リクも行く?」
「はい! 面白そうですね」

ぼんやりと映画を思い出します。たしか、スネイプ先生が活躍するシーンがあった気がします。
今からとっても楽しみです。


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