それから、ハリー達とハーマイオニーの間に壁が出来てしましました。
クルックシャンクスとスキャバースのこともありましたし、ハーマイオニーは図書室にこもるようになりました。
私も一緒に図書室で過ごすことが多くなりました。
クリスマス休暇が終わり、城中が賑やかになってきてもハーマイオニーはハリー達と口を聞こうとはしませんでした。
授業が始まると、ハーマイオニーはとっても忙しいらしく、急にいなくなることも度々でした。
そしてDADAの授業のあとで、ハリーがリーマスさんに吸魂鬼対策の訓練をお願いしているのが聞こえました。
結局、何もハリーにしてあげられていないです。私。
授業のあと、階段の少し先を行くハリー達の声が私達の所まで聞こえてきました。
「ルーピンはまだ病気みたい。そう思わないか? いったいどこが悪いか、君わかる?」
隣のハーマイオニーが舌打ちをしました。何よりも私がびっくり。
ロンが苛々と振り返りました。
「なんで僕達に向かって舌打ちするんだい?
僕がルーピンがどこが悪いんだろうって言ったら君は」
「あら、そんなこと、わかりきったことじゃない? それをリクに聞くのも失礼よ」
ハーマイオニーの言葉に、サァと私の体中が冷めていくのを感じ取りました。
彼女はもう、リーマスさんのことに気がついているのです。
またロン達に背を向けて歩き出すハーマイオニーを私が慌てて追いかけました。
「待ってください、ハーマイオニー、あのリーマスさんのこと」
「知ってるわ。
じゃあリクももちろん知っていたんでしょう?」
振り返ったハーマイオニーに、私はこくんと頷きました。
私はハーマイオニーを見つめて、少しうつむきます。
「これからも、黙っていてください。お願いします。
リーマスさんは、悪い人じゃないんです」
「わかってるわよ。リクの大好きな人なんでしょう?」
ハーマイオニーは不安そうに顔を歪めた私をぎゅうと抱きしめてくれました。
それから。
試験に向けて先生達からの宿題も増え、私達はとっても忙しくなっていきました。
ほとんど全部の授業をとっているハーマイオニーはピリピリし始め、私は邪魔にならないように少し離れた位置で自分のレポートを仕上げていました。
そしてさらに数週間後、私をまた不安にさせる記事が新聞に載っていました。
シリウス・ブラックが見つかり次第、吸魂鬼の接吻を与えることを許可したというのです。
『吸魂鬼の接吻』は人間の魂を吸い出す、記憶も自分が誰かもわからなくする吸魂鬼の最大の武器でした。
私はその記事をシリウスの元に持って行っていました。
読んだあと、深く黙り込むシリウスに私は声が出なくなります。
じわり、じわりと溢れ出す殺気を感じ取りながら、ゆっくりシリウスの体に触れました。
「シリウス、あの、大丈夫ですか…私、伝えなきゃって思って…」
「……大丈夫。大丈夫だ。
少し、リクの手を貸してくれるか?」
ゆっくり手を伸ばしたシリウスの手を両手で取りました。大きな手は少し震えている気がしました。
「グリフィンドールの談話室に入りたい。合言葉はわかるか?」
「わ、わかりますけど…駄目ですよ! シリウスが直接行くのは危険すぎます」
「クルックシャンクスやフェインを待っているなんてできない!!
リクはピーターに触れさえできないんだろう!?」
大きな声を出したシリウスに私の肩がびくっと震えました。
握ったシリウスの手に力がこもりました。シリウスの爪が私の手に食い込みます。
「こんな森で待っているだなんて!! いつ吸魂鬼が来るのかもわからないのに!!」
「シリウス、シリウス!」
私がシリウスの名前を呼ぶと、彼の手が少し緩みました。
赤くなった私の手を見て、シリウスが優しく手を握り返してくれました。
「…すまない、リク、痛かったか」
「……私こそ、すみません。……何も出来なくて」
「いや、リクには助けられている。俺を心配してくれているのもわかっている」
必死な顔をしたシリウスを見て、私も辛くなりました。
早く、早くピーター・ペディグリューを探さなければいけません。
私は静かにポケットから羊皮紙を取り出しました。シリウスがそれを見つめています。
「シリウス、これを。
ここ数週間の合言葉を書いています。追加されればまた伝えます。
タイミングはシリウスに任せます」
「…………いいのか、リク」
「誰かに見つかったりしたら、本気で犬用の首輪付けますからね」
些か本気の声音で言うとシリウスは、ははははと乾いた笑い声を返しました。
私の手をまた優しく握ったあとに、呆れたように言いました。
「本当、リーマスに似てきているよリク」