週末にクィディッチあり、それでもファイアボルトが返ってこないことにハリーやロンが苛々としている頃。
やっとマクゴナガル先生のお墨付きでファイアボルトが戻って来ました。

「何もなかったようですよ。よかったですね」

本に囲まれていたハーマイオニーに囁くと、ハーマイオニーは何も言わずに勉強を続けました。

ファイアボルトはグリフィンドール生の手から手へと渡り、やっとロンが寝室に箒を持っていったところで騒ぎが収まりました。
同時にハリーもハーマイオニーの側にやってきました。

ハリーは前からハーマイオニーと話す機会を伺っているようでした。
私はハリーの為に席を譲り、にっこり微笑みました。

2人は何かお話をしているようでした。

その時、ロンが向かった寝室の方から押し殺した悲鳴が聞こえてきました。
談話室が一気に静まり返ります。私はバッと男子の寝室の入口まで駆け寄りました。

シリウスがもう来たのかと私は緊張しましたが、慌ただしい足音と一緒に階段を降りてきたのはベッドのシーツを抱えたロンでした。
ロンは私を押しのけるようにして先に進むと、ハーマイオニーの元へ向かいました。

「見ろ! 見ろよ!!」
「ロン、どうしたの――?」
「スキャバースが! 見ろ!! スキャバースが!」
「待ってください、ロン!」

私は怒鳴るロンの腕を引きました。さらには振り回すシーツを掴みます。
そこには飛び散るように赤い血がついていました。

「血だ!! スキャバースがいなくなった! それで、床になにがあったかわかるか!?」

涙をにじませながら首を振るハーマイオニーの横、ハーマイオニーが積み上げていた本の上に何かを投げつけました。

オレンジ色の、猫の毛でした。

「あの猫が! スキャバースを食ったんだ!!
 あの猫がスキャバースを食おうとしていたのは知っていたのに何もしなかったんだ!!」
「クルックシャンクスは悪くないわ! ベッドの下を探してみたら!?」

激怒するロンに、苛々していたハーマイオニーも言い返しました。
続く口論に、ハリーも状況証拠ではクルックシャンクスがスキャバースが食べてしまったのではと言うと、ハーマイオニーはハリーにも怒鳴りました。

「いいわよ、ロンに味方しなさい。どうせそうすると思ったわ!
 最初はファイアボルト、次はスキャバース、みんな私が悪いって」
「やめてください。ハーマイオニー」

私の声にハーマイオニーが涙を滲ませて私に振り返りました。

「何よ、貴女もなの!?」
「いいえ。ハーマイオニーが悪いと思ってはいません。ロンが悪いとも思ってませんよ。
 ただ、お互いに大きな声を出さないでください。
 ………お話ができませんでしょう」

私は自分の声が思ったより覚めているので、私自身が1番驚いていました。
いえ、ハリーもロンもハーマイオニーも驚いていたことに変わりはないのですが。

静まり返った談話室で私はくるっと踵を返しました。

「私は寝ます。
 ハリー、試合、頑張ってくださいね」

ぽかんとする3人を置いて私は寝室に上がって行きました。
自分のベッドの紗幕を開けると、そこにはクルックシャンクスの姿が。

私は彼女を抱き上げ、ベッドに横になりました。

「クルックシャンクス。本当にスキャバースを食べてしまったわけではないでしょう?
 食べてしまったら、シリウスの無罪は証明できませんからね」

喉を撫でると、ごろごろと甘えた声を出すクルックシャンクスをぎゅうと抱きしめて私はベッドに入りました。

悪いのはピーター・ペディグリューです。全部、全部。


†††


レイブンクロー対グリフィンドールのクィディッチ試合がありました。

ファイアボルトの威力は凄まじいらしく、空を駆け回るハリーは本当に、鳥のようで格好いいものでした。
ハリーを応援しながらも、隣のハーマイオニーが浮かない顔をしていることを気付いていました。

「ハーマイオニー、楽しくないですか?」
「そういう訳じゃないけれど」

答えるハーマイオニーはやっぱり思案顔。ロンが側にいないことも理由に入っているでしょう。

その時、ハリーがいきなり杖を取り出して守護霊の呪文を唱えていました。

白く大きなものが杖の先から飛び出します。吸魂鬼がまた現れたのか。と私は左右を見渡しましたが、吸魂鬼の姿は見えません。

そしてそのままハリーが突き上げた拳には金色のスニッチが握られていました。

歓声。グリフィンドール側の席から爆発のような歓声が巻き上がりました。
人並みに揉まれるハリーにそれに、リーマスさんの姿も見えました。

リーマスさんはハリーを連れて、先程守護霊をぶつけた場所へ引いていきました。

そこには頭から黒いマントをかぶったドラコくん達が目を回しているの姿が。
憤慨したマクゴナガル先生がドラコくん達に罰則を与えていました。
私は苦笑をこぼします。本当に、仲がいいのではないでしょうか。

「ハーマイオニー、談話室でパーティをするようですよ。
 行きましょう?」

ですが、談話室に戻ってから。グリフィンドール寮生の殆どが騒ぐ中、ハーマイオニーは談話室の隅で分厚い本を抱えていました。

私は苦笑を浮かべながら、隣で静かにグレープフルーツのジュースを飲んでいました。

そこでは。とハリーと目が合いました。ちらとハーマイオニーを見て、もう1度ハリーを見ました。
ハリーも苦笑を浮かべながら、ハーマイオニーの側にきました。

一緒に何かを食べようと誘いますが、ハーマイオニーは少しヒステリー気味に言い返しました。
困ったように首を傾げるハリー。遠くに座っているロンとハーマイオニーとの仲も未だに治っていないようでした。

ロンに何かを言われて、ついには泣き出してしまったハーマイオニーが寝室を駆け上がっていきました。
私はロンに向き直ります。

「ロン、ハーマイオニーは今、色々いっぱいいっぱいなんですよ。
 少し、言葉を和らげてください」
「ハーマイオニーが少しでも悪いって思っているならいいんだ。でも、絶対に悪いとは思ってないよ」
「私はそうとも思えませんけれど…」

返すと、ロンはまた不機嫌そうにそっぽを向きました。
私は深く溜め息をつくと、持っていたジュースを飲み干しました。

パーティは深夜の1時まで続き、その時にいい加減に寝なさい。と命令しに来たマクゴナガル先生によって終止符を打ちました。

全員、騒ぎ疲れてぐったりする中、私は何か言い知れない不安に駆られて、ソファに深く座り込んでいました。

暖炉の炎がパチパチとなる中、私はうとうとと眠たさにソファに身を埋めていると、突然、男子の寝室から悲鳴が響き渡ってきました。

バッと振り返ると階段を降りてきたのは苛々として顔を歪めているシリウスでした。

私はまだ寝室の方が騒がしい内にシリウスに駆け寄りました。
シリウスは私の肩を軽く掴むと、さっと素早く話しました。

「あの寝室でピーターを見かけた。だが逃げられた。殺してやる」

憎しみを染み込ませた声に私の肩は震えます。
それでも私は自分の杖を取り出してシリウスに握らせました。

「今は逃げてください。私の杖を貸します」
「……助かる」

悔しそうな顔をしたシリウスは私の杖を受け取って、談話室を抜けていきました。

私は数秒待ってから、私の人生新記録の悲鳴を上げました。あぁ、喉が枯れそう!

キャーキャー叫んでいると、寝室の方からパジャマ姿のハリーやロン、女子寮からもハーマイオニーが慌てて降りてきました。

「リク!? どうしたの!?」
「おやめなさい! いい加減になさい! はしゃぎ過ぎですよ!」

マクゴナガル先生が戻ってきました。
声の出し過ぎで噎せた私が涙目になっているのを見ながら、真剣な表情になりました。
ロンが叫びました。

「先生! 僕、目が覚めたらシリウス・ブラックがナイフを持って僕の上に立っていたんです!」
「私も男子寮からシリウス・ブラックが降りて来るのを見たんです!! 私怖くて!!」

私も一緒になってマクゴナガル先生に訴えました。
涙目にはなっていましたが、内心、ばれないかとビクビクしていました。

マクゴナガル先生はバッと談話室の入口に掲げている肖像画を確認しにいきました。

ハーマイオニーに抱かれた私は耳をそばだて、マクゴナガル先生と怪我をした太った婦人の変わりにかけられたカドガン卿との会話を聞いていました。

「カドガン卿、いましがた、グリフィンドール塔に男を一人通しましたか?」
「通しましたぞ、ご婦人!」

寮内が愕然として黙り込むのを感じていました。慌てたマクゴナガル先生の声が聞こえました。

「あ、合言葉は!」
「持っておりましたぞ! 1週間分、全部。
 小さな紙切れを読み上げておりました!」

マクゴナガル先生がゆっくりまた私達の前に立ちました。震える声で聞きます。

「今週の合言葉を書き出してその辺に放っておいた愚か者は誰ですか…?」

黙り込む私達。犯人などここで名乗りあげる筈などありません。
シリウスに合言葉を渡したのはここで震える私なのですから。

の、筈でしたが。隣でがたがた震えていたロングボトムくんがゆっくりと手を挙げたのです! どうして?

「ぼ、僕、この前書き留めて置いた紙をどっかに落としちゃって…」

最悪です。タイミングの悪い時に無くしてしまったようです。

でも私が!と名乗ることも出来ず、私は静かに頭を抱えました。


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