明け方に戻ってきたマクゴナガル先生にブラックはまた逃げられた。というのを聞いて、誰にもばれないように息をつきました。

次の日、城の警戒は今までよりもより厳しくなっていました。
入口のドアに並んだシリウスの顔を見て、リーマスさんが切なそうな顔をしたのを、私は見てしまいました。

悲しいことにロングボトムくんはマクゴナガル先生に酷く怒られてしまいました。
ホグズミード行きを禁じられ、罰則を与えられ、さらには合言葉を教えてはいけないと言われてしまいました。

加えて彼のおばさまから『吼えメール』。
罪悪感たっぷりの私は、談話室の外でロングボトムくんが待っていないだろうか。と頻繁に外を見ていました。

ハーマイオニーも、ロンが刺されそうになった。と聞いて心底心配していました。
ですが、それでもまだ2人は仲直りを出来ずにいました。

私が人目を抜けて禁じられた森に入ることも些か厳しくなりました。
それでも夢の中や、朝早く、まだ誰も起き出していない時間などに私はシリウスの元に行っていました。

「リクちゃん、今週末のホグズミードには行くのかい?」

DADAの授業の後、私はリーマスさんに呼び止められました。
私は小さく左右に首を振ります。リーマスさんはまた優しく微笑みました。

「よければ私の部屋で紅茶でも飲まないかい? リクちゃんが暇をしているならだけど」
「本当ですか? 行きます!
 『吸血鬼』のレポート持って行ってもいいですか? まだ終わっていなくて」
「手伝いはしないからね? リク」
「わかってますよ。先生」

にっこりと笑ってから、私はリーマスさんの手を握りました。

そして金曜日。

リーマスさんのお部屋に行くと、いつものチョコレートの甘い匂いがしました。

「こんにちは。リクちゃん」
「こんにちは。リーマス先生。
 あの、リーマスさんは『危険生物処理委員会』のお話を聞いたことありますか?」

今日はハグリッドさんのバックビークが裁判にかけられる日でした。
ハーマイオニーと一緒に資料を探し、出来うるかぎりの事はしましたが、やっぱり不安です。

『お話』ではバックビークは有罪になり、それをハリー達がシリウスと一緒に逃がすので、私としては複雑な心境でしたが。
もちろん無罪になるのが1番なのですが、もしもの場合、シリウスを逃がす事が出来なくなってしまうかもなのです。

リーマスさんの表情はやっぱり良いものではありませんでした。

「この前にルシウス・マルフォイの息子が怪我をしたことかい?」
「はい…。私も暫くドラコくんとお話が出来ていませんでしたし…。
 もう少し何か出来たのかな、と」
「……でも『危険生物処理委員会』にかけられるなら出来ることは少ない。
 今は結果を待たなきゃね」
「はい」

頷き、私は紅茶を飲みました。その時、暖炉の火がぼうと緑色に光りました。

「ルーピン! 話がある!」

炎の中から何故かスネイプ先生の声が聞こえてきました。
私は目を丸くしてリーマスさんを見ます。リーマスさんは苦笑を零したあと、私の頭を撫でました。

「何だかセブルスが呼んでるみたいだから行ってくるね。
 ほら。レポートをしてて」
「わかりました」

すっかりレポートを忘れていました。
私は炎の中にフルーパウダーを投げて入っていくリーマスさんを見送ってから、棚から本を取り出しました。

戻ってきたリーマスさんは出ていく前より、酷く疲れている様子でした。
私は駆け寄ってリーマスさんの頬を両手で包みました。

「どうかしたんですか…?」
「……リクちゃんはこれを知っているかい?」

リーマスさんは片手に何か、古びた羊皮紙を持っていました。
それを受け取り、私は首を傾げます。

「羊皮紙? リーマスさんのですか?」
「…あぁ。私『達』のだよ。それは地図なんだ」

地図と言われ、私は成る程と頷きました。
確か、リーマスさん達、悪戯仕掛人が作ったホグワーツの中を全ての地図だった筈です。

「これを、スネイプ先生が持っていたんですか?」
「いいや。ハリーが持っていた。この地図が無理矢理開けようとしたセブルスをからかったみたいでね。
 ハリーが持っているなんて、しかもこの時期に」

暗い表情をするリーマスさんを見つめていると、私に気がついたようで微笑みました。

「ごめんね、リクちゃん。急に」
「いいえ。大丈夫です。
 この地図をどうするんですか?」
「……勝手な事だが、私が持っていよう。
 …シリウスを見つけないとね」

また笑うリーマスさんは酷く寂しげで、私はぎゅうとリーマスさんを抱きしめました。


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