私が談話室に戻ると目を真っ赤にはらしたハーマイオニーが泣きながらロンに抱き着いていました。

バックビークの敗訴が決まったのです。

私は複雑な心境のまま、ハグリッドからのお手紙に目を通していました。

不幸の中でも唯一よかったのは、ロンとハーマイオニーが仲直りをしたことでした。

ハーマイオニーがロンに謝り、ロンも「もしかしたら今度はフクロウを買ってもらえるかもしれない」と小さく笑っていました。

それでもまだハーマイオニーは沢山の授業に追われ、『呪文学』の授業に行くのを忘れてしまったり、『占い学』の授業を途中で出ていったりしてしまいました。

イースター休暇中も沢山の宿題を抱えて、彼女の目の下にはくまも出来ていました。

忙しいのはハーマイオニーだけではなく、ハリーはクィディッチの優勝戦に向けての練習で、ロンもバックビークの控訴の引き継ぎで、忙しくなっていました。
私もロンのお手伝いを主にしながら、空いた時間にシリウスの元に行ったり、スネイプ先生の教室に行ったりしていました。

スネイプ先生には何かリラックス効果のある魔法薬の作り方を教えてもらっていたのです。
最初、渋っていたスネイプ先生でしたが、結局アロマテラピーに近いものを教えてくれました。

大抵、夜になればみんな(私も含め)、くたくたになりながらベッドに入るのが常でした。


†††


グリフィンドールとスリザリンの壁はクィディッチ最終戦が近付くにつれて大きくなるようでした。

完成したラズベリーの香のエッセンシャルオイルを瓶に詰めていると、スネイプ先生もピリピリとしているのに気がつきました。私は苦笑を零して、先生に向きました。

「スネイプ先生も実はクィディッチ大好きですよね」
「……スリザリンの優勝は目に見えているがな」
「今年はハリーが優勝戦にいますもん。わかりませんよー?」

もちろん私も言い返してから、その後、ハーマイオニーの元に戻りました。
ラッピングした、エッセンシャルオイルをハーマイオニーに渡すと、ハーマイオニーは涙ぐみながら私に飛び付きました。

「ありがとうリク。本当にありがとう」
「ハーマイオニー…。喜んで貰えて私も嬉しいです。
 でも出来るかぎり無理はしないで下さいね」

私を抱きしめながら頷いたハーマイオニーが目元の涙を拭いました。

「私も明日は勉強なんか忘れてハリーを応援するわ」


†††


「シリウス、やっぱり見に来たんですね」
「名前を呼ぶなって」
「人間の姿になっちゃ駄目ですよって」

クィディッチ最終戦の早朝。

私は再び犬の姿になったシリウスを撫でながら森の端を歩いていました。
側にはクルックシャンクスやフェインもいます。
何だか、私、犬に猫に蛇。と動物を沢山引き連れています!

観客席の裏の芝生、絶対に人が来ない場所に私達は座りました。

ここはグラウンドから影になっていて、見えづらいという問題はありましたが、ここからならジョーダン先輩の解説ぐらいなら聞こえます。

また人の姿になり芝生に腰を下ろしたシリウスが私を膝に乗せました。
私もにこと笑いながら、さらにクルックシャンクスとフェインを膝に乗せました。

「ハリーの箒は? 喜んでいたか?」
「ファイアボルトなら絶好調ですよ。ホグワーツの中で今までにない最高の箒です。
 喜びようは私には計り知れませんよ」

クスクスと笑うと観客席から歓声が響いてきました。

試合が始まったのです。

そして数分後、爆発したような歓声に私は思わず後ろのシリウスに飛び付き、溢れ出した涙を拭いました。
芝生に倒れたシリウスも私の頭をがしがしと撫でてくれました。

ジョーダン先輩の声が私達の元まで聞こえていました。

「今年度の優勝は――グリフィンドォォル!!
 230対20で優勝はグリフィンドールです――!!」


†††


グリフィンドール優勝の喜びはたっぷり1週間で無くなってしまいました。

試験が迫っていたのです。

『呪文学』『魔法生物飼育学』『魔法薬学』『薬草学』『天文学』『占い学』『変身術』『魔法史』そして『闇の魔術に対する防衛術(DADA)』。

さらに試験の最終日はバックビークの控訴裁判もあるみたいです。

バックビークの裁判があるということは。

「……ピーター・ペディグリューも最終日に…」

自分のベッドに腰をかけていた私は静かにカレンダーをめくりました。そこについた大きなバツ印。

試験最終日は丁度、満月の日でもあったのです。


†††


うだるような暑さの中、試験は良くもなく悪くもなく進みました。

最終日にDADAの試験があり、私はリーマスさんの体調を心配しながら、試験会場に向かいました。
DADAの試験は障害物競争のようになっていて、最後にトランクからボガートが出てきた時には思わず肩を竦めました。

相も変わらずにリーマスさんの死体の姿になったボガートに私は杖を突き付けました。

「リディクラス(ばかばかしい)!」

ボガートを倒した私がトランクから出てきた時、リーマスさんは不安そうに私を見ていました。
にっこりと笑って私は両手を振ります。

「大丈夫ですよ、先生。ボガートは倒しました!」
「……よかった。
 リク、満点」

にっこりと笑い返してくれたリーマスさん。

そして試験を全て終えた私は、いち早く談話室に戻り、静かに外を見つめました。
禁じられた森の遠くの空が暗くなっていく中、ハーマイオニーとロンが手紙を握りしめて戻ってきました。
ハリーも時間差で戻ってきました。

手紙にはバックビークが控訴で負けてしまったことがかかれていました。
さらには日没に死刑執行人が来ることも。

「行かなきゃ」

ハリーが即座に言いました。

「ハグリッドが1人で死刑執行人を待つなんてさせられないよ」
「でも日没だ。ハリー、君は…」
「ハリー、透明マントはいまどこに?」

私は窓辺から振り返ってハリーを見ました。マントは4階の隻眼の魔女の像の裏にあるそうです。

場所と呪文を聞いたハーマイオニーは、誰が止めるよりも早く談話室を飛び出して行きました。
15分ほどして、透明マントを持ってきたハーマイオニーにロンが目を丸くしました。

少し得意げな顔をしたハーマイオニーに、私もにっこりと笑いました。
これで夜に抜け出すことが出来ます。

そう考えていたその時、私の足元にクルックシャンクスとフェインが擦り寄ってきました。

クルックシャンクスを見て、ロンの表情が少し歪みましたが、それより先に私はクルックシャンクスを抱き上げました。
今日も2人(2匹?)はシリウスの元にいた筈です。それが今ここに居るということは。

フェインは器用に私の足を引くと、談話室の外を見て、もう1度私を見ました。

「…………すみません。私、ハグリッドさんの所にいけないかも知れません」
「えぇ? リク、何処に行くの?」
「わかりません。フェインに着いていきます。
 でも多分、後で会うことにはなると思います」

私は眉を下げて、ハリー達を見ました。
そこでハリーが私の腕を掴みました。真剣な顔をしたハリーが私を見つめていました。

「リク、今思い出したんだけど、この前、凄い大きな真っ黒い犬と一緒にいなかった?」

ハリーの言葉に私は出来うる限りの困惑顔を作りました。
何を言っているのか、わからないような。

「えっと、ハリー何時頃ですか? ほらこの前言った野良犬さんでは?」
「ううん。夏休み中。プリベット通りでリクを見たんだ」

『夢の中』の私と会った時です。私は苦笑をして首を傾げました。

「ハリー、私は夏休み中、ずっとリーマス先生の所にいましたよ?」
「……そう、そうだよね。
 あそこにリクがいたわけないよね」

ハリーは照れ臭そうににやと笑いました。私もにっこり笑います。
ぐいっとフェインがまた私の足を引きました。

私は今度こそ3人に手を振りました。

「また後で会いましょう。出来ればバックビークとも」


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