また沈黙が流れました。
私はリーマスさんの腕を強く掴みました。リーマスさんは静かにハーマイオニーを見つめていました。
「いつもの君らしくないね。3問中1問しかあっていない…。
私はシリウスの手引きはしていないし、もちろんハリーの死を願ってもいない。
…ただ、私が狼人間であることは否定しない」
ロンが雄々しく立ち上がろうとしましたが、足の痛みでまた座り込んでしまいました。
リーマスさんが心配そうにロンの方へ行きかけましたが、ロンは言いました。
「僕に近寄るな、狼男め!」
リーマスさんの足が止まりました。変わりに私がバッとロンに叫びました。
「ロン!! リーマスさんにそんな――!」
「リクちゃん。いいんだ。
落ち着いて」
優しい手が私の頬に触れ、リーマスさんは私の髪に軽くキスをしました。
顔を歪めた私はリーマスさんの腕を再び強く握ると、静かに顔を俯かせました。
聞くとハーマイオニーはずっと前、やはりスネイプ先生がDADAの授業をしたときから気が付いていたようでした。
それに他の先生達は既に知っている事をいうと、ハリーがまた叫びました。
「ダンブルドアは間違っていたんだ!
先生はずっとこいつの手引きをしていたんだ!」
ハリーはシリウスを指差していました。
シリウスに振り返ると、彼はベッドの方に行き、端に腰をかけていました。クルックシャンクスがシリウスの膝の上に乗ります。
先にベッドにいたロンが出来る限りシリウスから離れようとしていました。
リーマスさんはもう1度言います。
「私はシリウスの手引きはしていない。
落ち着いてくれ。説明するよ。……ほら」
リーマスさんはハリーとロンの杖を放り投げ持ち主に返しました。
私もハーマイオニーの杖を彼女に返します。まだ彼女も困惑顔でした。
リーマスさんは自分の杖をしまいました。私も倣って鞄に杖をしまいます。
「これで。君達には武器がある。私達は丸腰だ。聞いてくれるかい?」
3人は困惑顔をとけないようでした。
「でも先生がブラックの手助けをしていないのなら、どうしてここにいるってわかったんだ?」
「忍びの地図だよ。部屋で地図を見ていたんだ」
リーマスさんはそれから、地図を見ていた事、ハリーやシリウス達の他に名前を見付けた事を話しました。ハリー達がそれを否定します。
「あの時は僕達しかいなかった!」
「…ロン、ネズミを見せてくれないか?」
リーマスさんの静かな声。ロンはうろたえつつも暴れるスキャバースを取り出しました。
指のかけやせ細ったネズミを見て、リーマスさんは息を殺していました。
「それはネズミじゃない」
「…どういうこと…?」
突然、シリウスが話しました。
怯えるロンがスキャバースを両手で抱きしめます。リーマスさんも合わせて静かに言いました。
「こいつは魔法使いだ」
「『動物もどき』だ。名前はピーター・ペディグリュー」
暫く、沈黙があってから、ロンが話しました。
「2人とも…リクもどうかしてる!」
「ピーター・ペディグリューは死んだんだ! こいつが12年前に殺した!」
「……殺そうと思った。だが、出し抜かれた。
今度はそうはさせない!!」
突然、シリウスがスキャバースに手を伸ばしました。
ロンの折れた足に負担がかかり、悲鳴が上がりました。
「シリウス、よせ!」
私とリーマスさんで、ロンからシリウスの身体を離そうと押さえつけました。
「シリウス! みんなに、説明しなければ!」
「あとで説明すればいい!!」
「シリウス、落ち着いて下さい!」
リーマスさんを振り払おうとするシリウスが叫んだ私をキッと睨みました。
涙を浮かべたままの私はシリウスの手をぎゅうと握りました。
動きを止めたシリウスにリーマスさんが言いました。
「ロンはあいつをペットにしていたんだ。
私もまだわかっていない。リクちゃんの事もだ。
それに……君はハリーに真実を話す義務がある!」
「………それなら、君がみんなに話してくれ。
ただ急いでくれ。私を監獄に送る原因となった殺人を今、実行したい」
「私はシリウスがまたアズカバン行きだなんて嫌ですからね」
スキャバースから目を離さないシリウスが私の手を取り、自分の膝に乗せました。
大人しく膝に乗った私は体重を預けるようにして、シリウスにもたれ掛かりました。
リーマスさんの苦笑。
「本当はなんでリクちゃんがそんなに懐いているのかを先に聞きたいんだけどね」
「これには紆余曲折が…。
ピーター・ペディグリューのお話からどうぞ」
「わかっているよ」
私も苦笑を返すとリーマスさんはまたゆっくりとハリー達を見ました。
ハリーが話し出します。
「ペディグリューを死んだのを見届けた証人がいるんだ。しかも通りの大勢が」
「見てはいない。見たと思っただけだ」
私を抱きしめたままのシリウスが答えました。
静かに手を上げるハーマイオニーが声を出しました。
「でも、でもスキャバースがペディグリューの筈ありません。
今世紀には『動物もどき』はたった7人しかいないって…私、本に載っているのを見ました」
ハーマイオニーがまるで授業中でもあるかのように言いました。
それを聞き、リーマスさんはニッコリと笑いました。
「よく勉強したね。またしても正解だ。
でも魔法省は未登録の『動物もどき』がいたことを知らなかったんだ」
「その話をするつもりなら、リーマス、早くしてくれ。
12年も待ったんだ。もうそう長くは待てない」
「…わかった。…もう少しリクちゃんを抱えて待っていてくれるかい?
それに君にも助けて貰わないと。私は始まりしか知らな」
リーマスさんの言葉が途中で途切れました。